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一般財団法人マルチメディア振興センターでは、ICT分野の発展に資することを目的として、ICT分野の政策・制度整備、市場開拓・拡大、技術発展、社会での利活用といった視点からテーマを設定して、調査研究を行っています。主要な研究テーマについては、研究報告書としてとりまとめています。
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2016.10.01

  • 最新研究
  • 高橋 幹
  • 平井 智尚
  • 黒川 綾子

欧州における米国のネットサービス企業の台頭とEUの対応

 本報告書は、グーグル、フェイスブック、アマゾン、アップルといった米国に拠点を置くネットサービス企業の欧州市場における台頭を受けた、欧州連合(EU)および加盟国の対応に関する調査ならびに分析の成果をまとめたものである。
 検索サービス、スマートフォンOS、ブラウザ、コミュニケーション・アプリといったネットサービスにおける米国企業の支配というのは世界的に共通する現象である。そうした中、本調査で欧州の動向に着目したのは、市場独占の結果として生じた諸問題に対して、EUならびに各国の公的機関が強硬な姿勢を示しているからである。例えば、市場競争の面では、グーグルの提供するサービスが域内の競争法(独占禁止法)に抵触しているとして、EUの行政執行機関である欧州委員会が巨額の罰金を科す意向を示している。また、個人データ保護の関連では、インターネットの検索結果に表示される個人情報の削除を市民が検索事業者に要請できる権利、いわゆる「忘れられる権利」が欧州議会で採択され、2018年に発効する予定となっている。個人データの収集に関しても、フェイスブックによる個人データの取り扱いが法律に違反している疑いがあるとして各国の規制当局が調査に乗り出している。
 米国に拠点を置くネットサービス企業による市場の独占は、前述のとおり、世界的に広く認められる現象である。それは日本も例外ではない。日本においても米国のネットサービス企業の市場における影響力の増大を問題視するような動きが見られる。2016年8月に公正取引委員会が公表した「携帯電話市場における競争政策上の課題について」という報告書は、中古スマートフォンの流通抑制におけるアップルの関与や、スマートフォンのアプリ導入と競合アプリの排除におけるグーグルの関与を含意しているとされる。また、経済産業省が2016年9月に公表した「第四次産業革命に向けた横断的制度研究会報告書」では、「デジタル市場で急成長を遂げたGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)のようなプラットフォーマーは、その競争優位が固定され、支配的地位となっている可能性が懸念される」といったような形で、米国のネットサービス企業の存在感に対して明確な懸念が示されている。このような動きが見られる中で、かなり早い段階から強硬な姿勢で米国のネットサービス企業の台頭に伴う諸問題に対応している欧州の動向は、日本で同様の問題について検討するうえで参考になるものと考える。こうした問題意識に基づき、関連する争点についての調査を行った。
第1章では、欧州市場における米国のネットサービス企業の進出状況を概観したうえで、EUの関連政策動向を整理した。現在、EUはデジタル分野における域内統合市場の創設を中心的な政策目標として掲げており、その中でプラットフォーム市場の成長を一つの軸に設定している。プラットフォーム市場の成長という面で、米国のネットサービスによる市場の支配は懸念材料であり、規制強化を念頭に置いた政策が実施されている。こうしたEU
の姿勢に対して米国側は反発を示し、欧州と米国の対立が深まっている。本章では「文化帝国主義」や「ソフトパワー」といった議論と結びつけながら、米国のネットサービス企業に対する強硬な姿勢の背景を探った。
 第2章では、米国のネットサービス企業による市場独占が招いた問題に対する規制の動向について、具体的な問題に焦点を当て調査を実施した。まずは、「独占禁止」をめぐる問題について、グーグル、アップル、アマゾンに対する調査の内容を整理した。次いで、「租税回避」の問題について、グーグル、アップル、アマゾン、フェイスブックの事例を概観し、租税回避を防止するための新制度やルールの解説を行った。同様の問題については日本国内においても関心が高く、本章の整理は先行事例を確認という点で有用であると考える。
 第3章では、「忘れられる権利」を中心に、グーグルが欧州で引き起こしたプライバシー問題の動向を整理した。欧州ではグーグルによる個人情報の収集や取り扱いに対してインターネット利用者から多くの苦情が寄せられ、EU加盟各国の規制機関が調査を実施している。また、EUも個人情報保護に関するEU法の改正に際して「忘れられる権利」の規定を盛り込むなど、プライバシー保護の強化を図っている。本章では欧州における一連の動向の整理を通じて問題の理解を図るとともに、EUの対応を引き金に活性化した諸外国における「忘れられる権利」の論議を調査し、日本におけるネットサービスとプライバシー保護の問題を検討する際の材料を提示した。

目次

第1章 欧州のネットサービス市場における米国企業の台頭とEUの政策動向
1-1 欧州市場における米国ネットサービス企業の席巻
1-2 米国のネットサービス企業の台頭を受けたEUの情報通信政策動向
1-3 ネットサービスをめぐる対立の背景
1-4 文化帝国主義やソフトパワーとしてのネットサービス
1-5 日本国内の問題への示唆

第2章 欧州における米国ネットサービスの展開と規制
2-1 独占禁止
2-2 税制

第3章 米国事業者に対するEUの個人情報保護法制の動向――「忘れられる権利」を中心に
3-1 欧州諸国の個人情報保護機関とグーグルの係争
3-2 「欧州データ保護規則」採択までの経緯と加盟国での適用の動向
3-3 EU域外での「忘れられる権利」導入

補論 英国のEU離脱とデジタル市場の見通し

執筆者

平井 智尚(一般財団法人マルチメディア振興センター 情報通信研究部 研究員)
第1章、補論
高橋 幹 (一般財団法人マルチメディア振興センター 情報通信研究部 上席研究員)
第2章
黒川 綾子(元一般財団法人マルチメディア振興センター 情報通信研究部 上席研究員)
第3章