[HTML]
H1

最新研究一覧

コンテンツ

一般財団法人マルチメディア振興センターでは、ICT分野の発展に資することを目的として、ICT分野の政策・制度整備、市場開拓・拡大、技術発展、社会での利活用といった視点からテーマを設定して、調査研究を行っています。主要な研究テーマについては、研究報告書としてとりまとめています。
各報告書は、販売もしておりますので、ご希望の方はこちらにご連絡ください。
当財団の賛助会員(法人)の方には、これらの研究報告書を送付しています。

お知らせ年度表示
掲載年選択
お知らせ表示

2022.12.01

  • 最新研究
  • 藍沢 志津
  • 裘 春暉
  • 三澤 かおり
  • 米谷 南海

5G/6G時代を見据えた仮想空間活用サービスの最新動向-メタバース、デジタルツインなど諸外国の取組みを中心に

本報告書では、米英中韓印5か国のメタバース及びデジタルツインに関連した政策及び市場動向を取上げた。そのうえで、仮想空間プラットフォームの今後について展望した。
2022年10月現在、米国にはメタバースやデジタルツインに関する総合的国家戦略は存在しないが、デジタルツインについては、省庁や地方自治体がそれぞれの目的に沿って個別に活用を進めている状況である。デジタルツインを最も積極的に活用しているのは国防総省で、一方、バイデン政権下では、エネルギー分野におけるデジタルツインの活用も増えている。
英国では、2021年7月にイノベーションに関する戦略文書「英国イノベーション戦略 未来を創造し、未来を導く(UK Innovation Strategy : leading the future by creating it)」が発表され、「2035年までに英国をイノベーションのグローバルハブにする」との目標の下、将来の経済を変革する七つのテクノロジー分野が特定された。さらにビジネス・エネルギ-・産業戦略省は、2022年2月に「サイバー・フィジカル・インフラストラクチャ:イノベーション、人々、ロボット、スマートマシンを強化し、繁栄、回復力、持続可能性、セキュリティを強化する」と題する戦略文書を発表し、諮問を開始した。このなかで、メタバース、デジタルツインはアプリケーションの違いであると位置づけ、これらを全て包含する「サイバー・フィジカル・インフラ」という概念で政策立案が進められている点に特徴がある。
中国におけるメタバースに関連した中央政府による政策では、2022年11月初めに公表された「仮想現実と業界応用の融合発展行動計画(2022~2026年)」では、2026年までに、中国の仮想現実産業の全体規模を3,500億元超にし、仮想現実端末を2,500万台超販売し、強力なイノベーション能力と業界への影響力を持つ基幹企業を100社育成し、地域への影響力を持ち仮想現実エコシステムの発展をリードする集積区を10か所作り、産業公共サービス・プラットフォームを10個構築するとの目標が掲げられた。デジタルツインの促進を正面からとらえる政策はなかったものの、関連技術の推進に言及した政策は多数あり、特に特徴としては、デジタルツイン技術の応用を見据えての5Gインフラや、高速固定ブロードバンドの整備推進に注力する内容となっている。
韓国では2021年以降、政府がメタバースを海外展開可能な次世代有望プラットフォームと位置付けて、優先度の高い政策で戦略的に支援していることが大きな特徴である。最初にメタバース育成・支援が政策に盛り込まれたのは、文在寅政権期の2021年7月に国家DX戦略の「デジタル・ニューディール」で戦略的に支援する新産業として、新たにメタバース・プラットフォームが追加されたことによる。さらに、2022年1月には政府横断のメタバース国家戦略として「メタバース産業育成総合戦略」が発表された。デジタルツインの国家戦略として、2021年9月に国のICT最上位戦略を決定する情報通信戦略委員会が「デジタルツイン活性化戦略」をまとめた。2021年と2022年の2年間の政府予算は3,850億4,000万ウォンである。
インドのメタバース及びデジタルツイン市場はまだ萌芽期にあり、政府は、今後の市場の成長を見据え、制度枠組みの整備を進めている。
各国の市場動向の特徴について、次のようにまとめた。
米国には複数の有力なメタバース・プラットフォームがあるが、単一プラットフォームで完結する中央集権型の「クローズドなメタバース」と、相互運用性のある複数のプラットフォームから成る自律分散型の「オープンのメタバース」のどちらを目指すべきなのか、という議論が数年前から続いている。2022年6月、「Metaverse Standards Forum」が発足され、オープンなメタバースを実現するための動きではあるが、主要プラットフォーム事業者が全て参加しているわけではなく、今後の動向が注視されるところである。一方、デジタルツインの活用は防衛・軍事によって牽引されてきたが、現在では民間セクターにおいても多様な産業でデジタルツインの活用が拡大している。民間調査会社ReportLinkerの予測では、2022年における米国のデジタルツイン市場規模は35億米ドルに達し、世界市場の39.6%のシェアを占める。また、大手企業を中心に活用が進むデジタルツインであるが、2020年以降、デジタルツイン・プラットフォームの提供が開始されたことで、今後は中小企業を含めより多くの企業がより簡単にデジタルツインを導入することができるようになると期待されている。
英国では、産官学連携によりイノベーション創出と実用化を目指されており、2021年7月「イノベーション戦略」でメタバース及びデジタルツイン市場を重視されることとなった。英国のメタバース市場の強みとして、世界二位の市場規模を誇る没入型スタートアップ企業群と、伝統的に強いメディア・アート・クリエイティブ分野のバーチャル制作の二分野が挙げられ、両分野の成長に期待がかかっている。デジタルツイン市場の特徴は、自動車メーカー中心にデジタルツインの活用により生産性の向上が目指されている点と、政府の「サイバー・フィジカル・インフラ戦略」の柱の一つである「持続可能性」に対応し、二酸化炭素の排出量の削減、大気質汚染の改善が目指されている点の二点に特徴がある。
中国におけるメタバースは成熟しつつある5G、AR/VR、AI、ブロックチェーンといった技術を活かすことで、大きなビジネスチャンスになりうるととらえられている。このため、デバイス、インフラ、サービスのいずれの分野においても、メタバース市場への将来性に期待し、必要とされるデバイスの開発が先行し、企業間の連携や買収等が活発的である。またネットサービス事業者大手の百度(Baidu)が国内初となるメタバース・プラットフォーム「希壌(Xirang)」の商用を開始し、大規模のイベントの開催も実施されている。中国におけるデジタルツイン市場規模は、2020年には137億元で、2021年には200億元を突破した。主な適応分野として、スマートシティ、自動運転、製造業となっている。
韓国国内メタバース市場の有力プラットフォーマーは、インターネットサービス最大手Naverの子会社Naver Zが運営するZEPETOと、移動通信最大手SKテレコムが運営するiflandが圧倒的2強である。ほかにも幅広い業界がメタバース活用に積極的に取り組んでいる。デジタルツインの導入は大企業が中心で業種は多様化しており、現時点でのソリューションは海外事業者が多いと言われているがまだ圧倒的強者は存在しない、初期市場の状態である。
インドのメタバース市場は、2022年になり、各産業分野の大手企業がブランドエンゲージメントを開始する動きが目立った。どの企業もまだマネタイズの段階にはないが、その一方で、メタバースNFT経済は急速に拡大中で、年間推定5,000万から1億米ドル規模に成長しており、2025年には1,000億米ドルの規模に拡大すると予測されている。一方、デジタルツイン市場はまだ黎明期の市場と言える。
各国の動向を踏まえ、本研究は、仮想空間プラットフォームの今後について、1)短期的(5~10年)、2)中長期的(10~20年)、3)長期的(20年以上)にわたる3段階の発展を展望した。具体的には、第1段階として、産業・公共分野の業務効率化を実現するプラットフォームは、現在の大企業中心とした利用が中小企業への広がりが実現され、数年後においては、いっそう普及が進むと考えられる。第2段階として、中長期的には、個人のニーズによりフィットした、社会的なプラットフォームへの発展となる。第3段階として、SDGsの実現に貢献するプラットフォームへの進展である。

(執筆者)
三澤かおり(ICTリサーチ&コンサルティング部 シニア・リサーチディレクター)
韓国部分中心に担当
藍澤志津 (ICTリサーチ&コンサルティング部 リサーチディレクター)
英国及びインド部分を中心に担当
裘 春暉 (ICTリサーチ&コンサルティング部 シニア・リサーチャー)
中国部分中心に担当
米谷南海  (ICTリサーチ&コンサルティング部 チーフ・リサーチャー)
米国部分中心に担当