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一般財団法人マルチメディア振興センターでは、ICT分野の発展に資することを目的として、ICT分野の政策・制度整備、市場開拓・拡大、技術発展、社会での利活用といった視点からテーマを設定して、調査研究を行っています。主要な研究テーマについては、研究報告書としてとりまとめています。
各報告書は、販売もしておりますので、ご希望の方はこちらにご連絡ください。
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2021.12.01

  • 最新研究
  • 田中 絵麻
  • 五十嵐 輝
  • 小山 友介

デジタルゲームのプレイ動画視聴(ゲーム実況)に関する日米動向調査

 本報告書では、ブロードバンド、スマホの普及を背景に動画共有プラットフォーム上で拡大する「ゲーム実況」を対象に、米国大手プラットフォーマーのゲーム動画配信市場への参入及びプラットフォーム間競争の激化、そして日本国内の動画共有配信プラットフォームとして一時期は不動の地位を築いたニコニコ動画の停滞から、今後も大きく成長していくと予想されるゲーム動画配信市場における日米それぞれの市場でのプラットフォーム間競争の結果を通して、ゲーム実況という新分野の成長要因、そしてプラットフォーマーが取り得る戦略オプションについて明らかにする。

 第1章では、本研究が扱う「ゲーム実況」の定義を定めるところから始め、本研究の分析枠組みである「プラットフォーム間競争における技術「非」決定論」、分析視点であるゲーム市場からみるゲーム動画配信市場、クリエイター・エコノミー、ゲーム実況者の収益源等を解説する。

 第2章では、日本のゲーム動画配信プラットフォームの概況と、ニコニコ動画の停滞の原因がインフラ投資と収益還元の不足によるクリエイターの流出にある点、そしてニコニコ動画の成長要因がゲーム+実況であった点を詳述している。また、日米アンケート調査の結果から、育ててきたゲーム実況の視聴者及び新規視聴者をYouTube に奪われたこと、ニコニコ動画の視聴をやめた主な理由が、「投稿者・配信者の他サービスへの移動」、「視聴ジャンルの投稿・配信減」、「最高画質の低さ・視聴までの遅さ」、10 代は「アプリの使いにくさ」であることを示した。

 第3章では、米国のゲーム動画配信プラットフォームの概況と発展経緯を整理したうえで、Twitch、YouTube Gaming、Mixer、Facebook Gaming の4 者の戦略を分析した。特に、Twitch は、ゲームのライブストリーミング配信市場を開拓し、視聴時間や収益面で市場発展に寄与している。その理由としてはクリエイターへの収益還元やe スポーツとゲーム実況の両方をターゲットとしてゲーム動画に特化したサービスを提供していることが挙げられる。ただし、2021 年に入り、YouTube Gaming やFacebook Gaming がよりカジュアルな視聴者層を獲得しているなか、Twitch の拡大のペースが落ちている。また、Mixer は低遅延プロトコルやクリエイター引き抜きでゲーム動画市場の獲得を狙ったものの、Xbox やWindows との親和性よりも視聴者コミュニティが重要であることが判明し、FacebookGaming と提携し事業を移管した。これらの経緯からプラットフォーム間競争におけるニッチ市場の開拓においてはクリエイターへの還元とコミュニティが重要であることを指摘した。

 第4章では、日米の主要なゲーム動画配信プラットフォームにおける戦略オプションを
競争要因にまとめ、ニコニコ動画及びMixer は、ネットワーク効果(コミュニティ維持形
成)部分で有効な競争要因に欠けていたことを示し、ニコニコ動画の問題はネットワーク効果面における戦略不足であり、コミュニティを維持できなかったこと、Mixer の問題は戦術面の不発によりバンドリング戦略がとん挫したことであり、コミュニティを形成できなかったと考察している。プラットフォーマーが取り得る戦略オプションについても示唆し、動画共有配信プラットフォーム間競争において、採り得る戦略オプションの組み合わせをどう構築していくかが重要であることを示した。最後に提言として、提言①:ゲーム動画配信市場は今後も成長し、激化するプラットフォーム間競争で競争優位性を確保していくためには、必要な戦略オプションを整理し、自社の強みを生かしつつ、不可欠な競争優位要因を強化することが重要、提言②:クリエイターの収益還元モデルと視聴者(消費者)を含めたコミュニティ形成が不可欠であり、クリエイターと視聴者の両方に魅力的なプラットフォームでなければならないとしている。
 
(執筆者)
五十嵐輝(ICT リサーチ&コンサルティング部 リサーチャー)第 1~2章、第4章 担当
田中絵麻(明治大学 専任講師)第 3 章担当
小山友介(芝浦工業大学 教授)第 1 章担当 、監修