[HTML]
H1

調査研究成果

お知らせカテゴリー表示
リサーチャー名選択
お知らせ表示

2022.12.01

  • 最新研究
  • 田中 絵麻
  • 五十嵐 輝
  • 小山 友介

クリエイターエコノミーに関する動向調査(前編)

コンテンツの制作主体がメディア企業からクリエイターへ移行し、すべての人々がクリエイターとして表現を行い、すべての人々がその消費者となる双方向の経済圏「クリエイターエコノミー」が立ち上がって来ている。日本のクリエイター・エコノミーを考えるうえで、インターネット普及以前のコンテンツ産業の発展要因として、マンガ同人誌などに見られる自主制作文化・自律制作市場の厚みが強く指摘されていることは非常に重要な点である。分厚い双方向の経済圏がすでに存在している日本のコンテンツを維持・強化するためには、国内プラットフォームの重要性は大きいと言える。本報告書では、クリエイター・エコノミーに関する議論を整理し、日米での比較を通して、日本から見たクリエイター・エコノミーの理論的フレームワークを検討しつつ、日米のクリエイター・エコノミーの現状を明らかにする。
第1章では、本研究が扱うクリエイター・エコノミーの定義を定めるところから始め、クリエイター・エコノミーが提唱された背景、本研究の目的、クリエイター・エコノミーのレイヤー構造である三層構造と、それが形成された背景を、「NoCal」と「SoCal」の衝突・融合から説明し、広告収益の分配というビジネスモデルの限界に直面したプラットフォームとクリエイターが、新たな収益手段を模索したことで、クリエイター・エコノミーが発展したことを解説した。
第2章では、日本のクリエイター・エコノミーに着目し、日本のクリエイター・エコノミーにつながるインターネット以前の日本コンテンツ産業の特徴について解説するとともに、クリエイターエコノミー協会へのヒアリング結果と、国内のクリエイターの収益に係る調査結果を整理した。クリエイターエコノミー協会へのヒアリング結果からは、広告はクリエイターにとって大きな収入源でありつつも、コンテンツに直接課金するサービスや、ファン・コミュニティの方も大きく広がっていくという重要な示唆が得られた。また、国内のクリエイター収益について、2011年のコミックマーケット調査と比較して、格段に改善されていることを示した。
第3章では、米国におけるクリエイター・エコノミーに着目し、1)YouTubeを始めとするプラットフォームにみられるクリエイター・エコノミーの概況、2)関連調査にみる世界や米国のクリエイター・エコノミーの状況について報告するとともに、クリエイター・エコノミーの拡大により、メディア産業におけるプラットフォーム、クリエイター、オーディエンスの関係にどのような変化がもたらされたのかについて、ニッチ市場の拡大の観点から考察した。米国ではネット広告のビジネスモデルの市場が飽和するなか、クリエイターをめぐるプラットフォーム間競争が活発化し、2020年前後からクリエイターが自身のコンテンツを収益化することが可能な機能の実装が相次いだ。クリエイター・エコノミーの実態を明らかにする各種サーベイ調査からは、クリエイターのすそ野拡大とプロクリエイターの両方が世界的にも拡大し、ニッチ市場の開拓によるクリエイター・エコノミーの成長につながったことがわかってきた。今後の研究課題として、クリエイターが利用するツール等も含めた関連市場の動向やクリエイター・エコノミーの拡大に寄与する法制度のあり方があるとしている。
第4章では、考察の結果、日本におけるクリエイター・エコノミーの理論的フレームワークとして、クリエイター・エコノミーは日本型コンテンツ産業の延長線上に存在する第三のコンテンツ産業システムであるという考えを提示した。本研究の結論としては、多様な収益源を活用しつつ、ファンからの直接的な支援を獲得し、ニッチコンテンツとしての質を高め、世界中からニッチをかき集めることが、クリエイター・エコノミーの重要な特徴である。本研究の提言は、①多様性(ニッチコンテンツ)とマッチングが鍵であり、高い収益性を示すニッチコンテンツと消費者をマッチングさせることが重要。②クリエイターが不利益な状況に置かれないような対策を、官民で行っていかなければならない。寡占による手数料のつり上げなどに対して、競合となる日本国内のプラットフォームを維持していく必要がある。③表現規制の問題と多様性について、国内プラットフォームを失うと、強みである自由な創作に制約がかかる可能性があり、多様性が失われる可能性が存在するという点である。


(執筆者)
五十嵐輝(ICTリサーチ&コンサルティング部 リサーチャー) 第1~2章、第4章担当
田中絵麻(明治大学 専任講師) 第3章担当
小山友介(芝浦工業大学 教授) 第1章1節、第2章1節担当、全体監修