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調査研究成果

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2020.10.01

  • 最新研究
  • 裘 春暉
  • 三澤 かおり
  • 米谷 南海

5Gで変わる映像メディアサービス-米国・中国・韓国の事例を中心に-

 映像メディア分野は、5G活用において親和性の高い分野として世界的にも早くから5G対応準備が進められてきた。米国・韓国・中国市場は世界的に5Gで先行し、かつ4K/8KやATSC 3.0等の次世代映像技術に力を入れることで知られている。本調査研究では、これらの三市場を対象として、映像メディア分野での5G活用においてどのような取り組みが進んでいるのかに焦点を当てた。

 米国・韓国・中国では現在、それぞれ大規模なメディア市場再編の最中にある。放送・メディア分野は歴史・政治的背景等も大きく影響するため市場ごとの違いが大きいが、本調査研究では、各市場のメディア再編の背景も整理している。5G活用映像メディア分野の環境変化は激しいが、我が国との違いを念頭に置きながら、現在急速な変化に直面する主要三市場の5G及び映像メディア分野の主な政策と市場の最新動向を網羅的に整理したうえで比較した。

 「第1章 5G促進・映像サービス関連政策、5Gの進捗状況」で各国の5G政策及び展開状況を比較した結果、次の特徴が明らかになった。第一に、民間主導の米国に対し、中国と韓国は国がユースケース開発・促進に深く関与している。そのため、中国と韓国では5G活用メディア分野政策が強化されている一方、米国には関連の政策が存在しない。第二に、米国は初期段階でミリ波帯周波数中心の5Gを展開したが、ミッドバンド優先で5Gを開始した中国と韓国は5G加入者獲得ペースで他国を突き放している。2020年末時点の5G加入者数は中国では1億を突破、韓国では人口の2割に当たる1,000万を突破している。

 「第2章 通信事業者の5G戦略とメディア分野強化の取り組み」では、5G時代を見据えてメディア分野を強化してきた通信事業者の戦略と現在の取組み状況を比較した。第一に、米国と韓国では2020年から5Gモバイルエッジコンピューティング(MEC)導入を開始してBtoBユースケース開拓を進めている。中国はSAネットワーク早期拡大に注力し、国有通信事業者が中心としてかなり幅広いユースケース開発に取り組む。第二に、米国と韓国の通信事業者はOTT事業を強化する一方で、中国の通信事業者は高精細画像サービス開発を重視する傾向が見られた。

 「第3章 映像メディアサービスの現状-放送・映像配信サービス市場-」では、まず、日本との違いを念頭に置き、各国の映像メディア市場の特徴をまとめた。日本の放送メディア市場では地上放送がメインプレイヤーであり続けることに対し各国では市場の主役交代が起きている。米国では主役がケーブルテレビからOTTに、韓国はケーブルテレビからIPTVに、中国ではケーブルテレビからIPTV/OTTへと力関係がシフトしている。このような背景を踏まえたうえで、第一に、各国で起きている現在の大規模メディア市場再編の性格を次のように特徴づけた。①米国有料放送市場は国内OTT対抗上の再編、②韓国はNetflix対抗上の有料放送・OTT再編、③中国は国内IPTV・OTT成長で衰退したケーブルテレビ救済のため政府がケーブルテレビ業界再編を進めている。第二に、有料放送を解約してOTTに切り替える形のコード・カッティングの進展について比較をした。コード・カッティングは米国で最も進展している。中国もケーブルテレビからIPTVやOTTに乗り換える動きが進んでいると見られるものの、OTTに関する統計がまだ無い。韓国ではこのような動きはまだ見られないが、今後のOTTの成長次第で将来的な発生の余地はある。

 「第4章 映像メディアサービスにおける5Gの活用状況」では、メディアBtoB分野を中心に各国でどのように5Gが実際に活用されているのか、制作・伝送・その他に分類し整理を試みた。本調査研究では、コンテンツの中継を伝送とし、その他の制作に関わる部分での活用を制作とした。結果として、5Gで世界的に先行する三市場においてもメディア分野の実際的なBtoB 5G活用はかなり限定的であることが判明した。GAFA等独立系大手OTT事業者の5G活用事例も現時点では登場していない。その一方で、5Gコンテンツ制作で世界的主導権を狙う通信事業者がVR/MR/AR制作スタジオを開設する動きが米国と韓国で見られた。総じて映像メディアサービス分野での5G活用に向けた取り組みは、米国と韓国では通信事業者が主導、中国では主に放送事業者が主導する形であった。

 「第5章 今後の展望」では、本調査により得られた知見を基に、以下の三点を導出した。
第一に、新型コロナウイルス感染症蔓延の影響でOTTの成長に拍車がかかることで、各市場のメディア再編も加速化される。新旧のメディアプラットフォームが生き残りをかけて規模・新技術(5G/AI等)・グローバルを追求する動きがさらに加速化するであろう。
第二に、通信事業者は今後の成長のためにもメディア事業強化の努力が求められる。5Gと親和性のあるメディアプラットフォーム強化が新事業領域拡大に有効である一方、プラットフォーム乱立を避けるための再編圧力が増す可能性もある。
第三に、放送事業者のオンライン動画配信サービス再編の可能性も視野に入ってくる。既に日本市場でもNetflix等のグローバルOTTが成長していることを考慮し、プラットフォームの乱立は避けたい。そのためには、通信、IT業界等異業種と手を組む形の統合再編も検討する余地がある。

 本調査研究は5Gとメディア市場再編で急速な変化が進む海外三市場について網羅的に現状整理を試みたものであり、今後をさらに注視していく必要がある。5G時代対応のために主要市場で何が起こっているのか、まず、大きな流れを把握し紹介することにより、日本の関連分野の参考に資すれば幸いである。

(執筆者)
三澤 かおり (ICTリサーチ&コンサルティング部 リサーチディレクター)
韓国調査及び第5章担当
裘 春暉 (ICTリサーチ&コンサルティング部 シニア・リサーチャー)
中国調査担当
米谷 南海 (ICTリサーチ&コンサルティング部 チーフ・リサーチャー)
米国調査担当