2017.12.27
【英国】首相の独立諮問機関、オンライン上の違法コンテンツに関する責任をソーシャルメディア企業に課するための立法措置等を提言
英国のあらゆる公職者に関わる倫理基準について首相に対して勧告を行う独立諮問機関「公職者の倫理基準に関する委員会」(The Committee on Standards in Public Life)は12月13日、議員立候補者等が経験した脅迫や恫喝に対処するための方策に関する提言をまとめた報告書(「Intimidation in Public Life: A Review by the Committee on Standards in Public Life」)を公表した。
メイ首相は7月17日、本年6月に実施された総選挙の立候補者が経験した脅迫に関して同委員会にレビューを行うよう諮問し、同委員会が主要政党やフェイスブック・グーグル・ツイッターといったソーシャルメディア企業を含む幅広い関係者からのヒアリングや意見書等を基に取りまとめたものである。同委員会の委員長はキングスカレッジロンドンの客員教授であるポール・ビュー卿が務めている。
報告書は、急速なソーシャルメディアプラットフォームの普及が市民による政治的な議論への幅広い参加の促進に役立つ一方で、立候補者等に対する脅迫的な行動を加速させている最も主要な要因であるとし、本年6月に実施された総選挙においてそうした事例が非常に多くあったことを指摘、その上で、こうした行為は健全な民主主義に対する脅威であり、企業及び政府双方によるオンライン上の脅迫的なコンテンツに対する取組みは十分とは言えず、とりわけ、ソーシャルメディア企業が限定的な役割しか果たしていない状況に深く懸念を示している。
また、2000年に制定されたEU電子商取引指令(EU E-Commerce Directive)においては、ソーシャルメディア企業を編集責任のないコンテンツを掲載する単なるプラットフォームと位置付けているため、プラットフォーム上に投稿されたコンテンツが違法であっても、制度上当該コンテンツに対する責任は発生しないことになっているが、現代においてフェイスブック・グーグル・ツイッターは利用者が閲覧するコンテンツを形作る役割を担っているとし、昨今の技術の進歩に伴って同指令は時代遅れになっており、ソーシャルメディア企業はプラットフォーム上の違法コンテンツに対して更なる責任を負わなければならないと指摘している。
その上で、英国政府がEU単一市場を離脱する意向を表明していることを踏まえれば、EU法令に違反することなく上記目的のための立法措置を講じることは可能であり、委員会としては、政府が違法コンテンツに対するソーシャルメディア企業の責任分担を法制化することがソーシャルメディア企業によるオンライン上の違法行為への対応を変革することにつながると信じていると指摘した上で、以下のとおり、実施時期とともにソーシャルメディアに関連した提言を行っている。
*政府は、オンライン上の違法コンテンツに関する責任をソーシャルメディア企業に課するための立法措置を講じるべきである。
なお、立法措置の前段階として、ソーシャルメディア企業は、利用者がプラットフォーム上での脅迫と虐待の問題に取り組むための技術を開発するとともに、必要な対策を講じる責任がある。
*ソーシャルメディア企業は、プラットフォームに投稿された脅迫的なコンテンツを特定するための自動検出技術を開発・実装しなければならない。ソーシャルメディア企業は、当該技術を利用することで脅迫的なコンテンツをできるだけ迅速に削除すべきである。<直ちに実施>
*ソーシャルメディア企業は、利用者のプラットフォームが悪意あるメッセージによって氾濫することを防止するともに、こうした行為の犠牲者となった利用者を支援するため、取組を強化しなければならない。<直ちに実施>
*ソーシャルメディア企業は、利用者自らがオンライン上の脅迫に対抗することができるツールを実装しなければならない。<直ちに実施>
*すべてのソーシャルメディア企業は、オンライン上の脅迫的なコンテンツの削除に関して迅速かつ一貫した意思決定を行わなければならない。<直ちに実施>
*フェイスブック・グーグル・ツイッターは、少なくとも四半期ごとに、違法コンテンツの報告を受けた数、そのうち削除されたコンテンツの占める割合、当該コンテンツを削除するまでに要した時間に関する英国におけるデータを公表しなければならない。<2018年第1四半期以降四半期ごとに実施>
*ソーシャルメディア企業は、違法な可能性のあるオンライン上の活動について利用者による当局への報告を増加させるためのツールを至急見直さなければならない。<直ちに実施>
*ソーシャルメディア企業は、政府と協力して、選挙期間中に一時的なソーシャルメディア報告チーム(違法・憎悪的・脅迫的なコンテンツに関して「信頼できる報告者(trusted flagger)」として位置付けられる独立機関)を設立すべきである。<次期総選挙までに実施>
*ソーシャルメディア企業は、プラットフォームを利用する立候補者が安心かつ安全な状態を維持するための手段について、アドバイスやサポートを積極的に行うべきである。<次期総選挙までに実施>
*各政党は、立候補者にソーシャルメディアの利用に関するサポート及び研修(ソーシャルメディア上の自己プロフィールの管理方法、脅迫的なコンテンツの報告方法、人種等の候補者の特徴を強調しないための方法、警察への通報のタイミングなど)を実施しなければならない。<次期総選挙において実施>
*全国警察署長委員会(National Police Chiefs Council)は、地方警察の職員に対してソーシャルメディアを通じて行われる犯罪に対する効果的な調査を実施するために必要な訓練を受けさせるべきである。<今後1年以内に実施>
*内務省及びデジタル・文化・メディア・スポーツ省は、オンライン上の憎悪犯罪や脅迫の犯罪要件に関する国際的なコンセンサスを形成するために国際的パートナーとの協力に関する戦略を策定すべきである。<直ちに実施>