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一般財団法人マルチメディア振興センターでは、ICT分野の発展に資することを目的として、ICT分野の政策・制度整備、市場開拓・拡大、技術発展、社会での利活用といった視点からテーマを設定して、調査研究を行っています。主要な研究テーマについては、研究報告書としてとりまとめています。
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2023.12.01

  • 最新研究
  • 田中 絵麻
  • 五十嵐 輝
  • 小山 友介

クリエイターエコノミーに関する動向調査(後編)

 本報告書では、クリエイター・エコノミーに係る日米中のオンライン・プラットフォームの違い、制度の現状を整理するとともに、アンケート調査による国際比較から各国ごとのファンの特性を分析し、生成AIとの関わり方についても触れつつ、日本のクリエイター・エコノミーの進む先を明らかにすることを目的としている。
 序章では、クリエイター・エコノミーの形成要因、技術進歩との関係、その発展可能性と課題について触れる。昨年度実施した本研究の前編で示した結論を引用し、クリエイターはファンからの直接的な支援を獲得し、ニッチ・コンテンツとしての質を高め、世界中からニッチをかき集めることが重要であることを確認した。クリエイター・エコノミーの発展には、プラットフォームのビジネスモデルの洗練と技術的進歩が大きく寄与してきた。クリエイター・エコノミーの発展可能性と課題として、「何がより有効かつ持続可能な直接的収益化手段」となるか、そして「人工知能(AI)」を提示した。
 第1章では、クリエイター・エコノミーの発展における消費者の役割に着目した整理を行った。クリエイター・エコノミーが用いられてきた議論の転換点が、2017年のアテンション・エコノミーとの紐づけと、2019年以降のコロナ禍と「個人の企業化」との紐づけにあることを示した。クリエイター・エコノミーの特徴として、「生産と消費の一体化」、「双方向性」、「広告費によるマネタイズ手段の提供」、「直接的な収入による個人の企業化」の四つを提示し、間接収入と直接収入の二つの収入源を整理した。
 第2章では、日本、米国、中国におけるクリエイター・エコノミーの消費者調査を報告した。各国に共通する傾向として、クリエイター支援層の中心は、都市圏に住む経済的余裕のある層であることを示し、三か国の特徴として、日本はクリエイター・エコノミーの普及は三か国で最も低く、全体としては米国寄りの傾向にあること、米国は普及度が日本と中国の中間であり、月額課金型サポートが強いこと、中国は普及度が非常に高く、投げ銭経験及び自己選択金額支払率が高いが、支援に関するトラブル経験率も高いことを示した。また、生成AIについては、中国が最も生成AIを許容し、次に日本、米国が最も否定的という結果になった一方で、日中は生成AIの利用自体は許容する傾向にあった。
 第3章では、日本、米国、中国の主要なプラットフォーマーの動向を追うとともに、プラットフォーム規制やAIにかかる規制・制度の現状を調査した結果を報告した。日本では、物販系、テキスト系・画像系、支援系においては独自のプラットフォーマーが発展しているものの、映像配信や制作ツール、ゲーム領域では外資系のプラットフォーマーが強く、クリエイター・エコノミーの普及という面では米中に遅れている。米国はグローバル・プラットフォーマーが成長することが可能な制度環境であり、事後規制を特徴としてきたが、巨大化したプラットフォーマーに対する独占禁止法の適用が検討されるフェーズに入ってきている。また、生成AI技術もクリエイター・エコノミーに組み込まれていくのも時間の問題であると言える。一方、中国は、巨大な人口を背景に、ライブ配信を中心として国内独自のクリエイター・エコノミーのエコシステムを形成しつつも、複数の規制がなされている点、生成AIにかかる法制度整備を進めている点に特徴がある。
 そして終章において、本研究のまとめと展望を示す形とした。本研究が示す展望としては、日本でのクリエイター・エコノミーの普及はまだこれからと言える一方で、中国のような市場の過熱は消費者トラブルを誘発する可能性が高いため、米国のように、月額課金型に代表される低額かつ長期の安定的支援が普及し、少しでも多くのクリエイターが安定的な収益源を得られる経済圏へと成長していく方が日本の将来像としては望ましい、と提示した。
 
 
(執筆者)
五十嵐輝(ICTリサーチ&コンサルティング部 リサーチャー) 序章、第1~2章、終章担当
田中絵麻(明治大学 専任准教授) 序章、第3章担当
小山友介(芝浦工業大学 教授) 序章、全体監修
 
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