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2016.10.01

  • 最新研究
  • 飯塚 留美

電波の価値をめぐる一考察

 電波の価値について考察するにあたり、現状の電波の利用ニーズや電波の割当て動向等について把握するため、諸外国における、①周波数再編政策、②周波数共用政策、③5GやIoT(Internet of Things)等向けの新たな周波数の割当て政策、④電波利用料制度をめぐる議論について概観する。その上で、電波の価値、すなわち電波を利用するサービスの価値をめぐり、電波の社会的価値を周波数配分メカニズムに組み込むための検討が始まった英国の取組みを取り上げ、電波の価値の評価手法の考え方を紹介する。
周波数再編政策について、米国や英国では、商用向けに新たな周波数を確保するため、政府用周波数の割当て見直しを進めており、政府による周波数の明け渡しが困難な場合には官民による周波数共用を促進して、周波数へのアクセス機会を極大化している。
周波数共用政策について、米国や英国では、周波数を共用する免許人間の運用調整が、当事者間や第三者機関を通じて実施されている。また、政府用周波数の官民共用の促進に伴い、既存免許人である政府ユーザの完全な保護を前提に、新たなユーザによる当該政府用周波数へのアクセスを認める、階層型認可アプローチが採用され、これを実現するためにダイナミック周波数アクセスシステムの導入が検討されている。
新たな周波数割当てについて、5G向けの周波数割当てが検討されているが、候補周波数の多くが、既存業務との共用検討が必要となっている。5Gのユースケースには、スマートフォン等のコンシューマー向けのサービスだけでなく、スマートシティやコネクテッドカー等の社会インフラへの5Gサービスの展開が想定されている。また、免許不要帯域の割当て拡大が進展し、IoTやWi-Fi等向けの新たな割当てを求める声が強まっているが、5G帯では、Wi-FiとITS(Intelligent Transport Systems)との間や、Wi-FiとLTEとの間の、免許不要帯域を利用する複数のアプリケーション間の共存問題が顕在化している。
電波利用料をめぐる議論では、周波数共用の推進に伴い、共用時の免許料の算定方法や、共用をインセンティブとした利用料の減額等が議論されている他、IoTによるイノベーション促進のための料額の低廉化等も検討されている。なお、Wi-Fi向けの割当て拡大や、免許不要帯域のLTE利用等、免許不要帯域の利用ニーズが高まっているが、これらの免許不要帯域を利用する無線局に対する利用料の賦課について議論の遡上にのぼってはいないものの、周波数共用政策において免許局に加えて免許不要局の運用も認める場合には登録義務を課す動きが見られる。
これまで電波の価値をめぐる議論では、オークションによる周波数割当てや、電波利用の市場価格をベースにした利用料の算定等、経済的な価値にウェートが置かれた検討が主流であった。そのような中、周波数の配分において電波の社会的価値をどのように反映させていくべきかについての検討が、英国で始まっている。電波を利用するサービスの価値を最大化するための周波数配分のあり方を検討するため、電波を利用するサービスの価値を、①私的ユーザ価値、②私的外部価値、③広範な社会的価値、の三つに区分して検討することが提案されている。また、これらの三つの価値を、①表明選考、②審議型リサーチ、③主観的幸福感、の三つのアプローチを組み合わせて、それぞれの強みを活用して、電波を利用するサービスの価値を評価する手法が提案されている。こうして導きだされた電波を利用するサービスの総価値を、周波数の割当てプロセス(先着順、比較審査、オークション)や電波利用料の料額算定において、どのように反映させていくかが検討課題となっている。なお、こうした一連の検討を行うにあたっては、政治学や経済心理学といった他の学問分野との連携の重要性が指摘されている。

目次

1. はじめに
2. 周波数再編をめぐる動き
2.1. 米国の連邦政府用周波数の開放政策
2.2. 英国の公共セクター周波数の開放政策
3. 周波数共用をめぐる動き
3.1. 周波数の割当てと運用の調整
3.2. 階層型認可アプローチ
3.3. ダイナミック周波数アクセスシステム
4. 新たな周波数の割当てをめぐる動き
4.1. 5G周波数
4.1.1. WRC-19で検討予定の5G候補周波数
4.1.2. 米国の5G戦略
4.1.2.1. 5G周波数の割当て
4.1.2.2. 5G試験網の構築
4.1.3. 欧州の5G戦略
4.2. 免許不要帯域
4.2.1. 低出力IoT
4.2.1.1. フランス
4.2.1.2. 韓国
4.2.2. 5G帯
4.2.2.1. 5GHz帯のLTE利用
4.2.2.2. DSRC帯域のWi-Fi利用
5. 電波利用料をめぐる議論
5.1. 諸外国の電波利用料制度の概要
5.1.1. 費用ベースと経済的価値の二層構造
5.1.2. 米英の利用料制度の概略
5.1.3. オークションと利用料との関係
5.1.4. オークション収入の特定財源化
5.2. 非オークション帯域への経済的価値の反映
5.2.1. 英国:AIP
5.2.2. 米国:周波数免許ユーザ料金
5.3. 利用料の改定措置
5.3.1. 英国
5.3.1.1. 航空機局等の利用料の値上げ
5.3.1.2. 地上移動利用目的の移動衛星用周波数の利用料
5.3.2. 米国
5.4. 欧州におけるGSMバンドの免許更新
5.4.1. 英国:年間免許料の適用
5.4.2. ドイツ:オークションの実施
5.5. 新たな帯域のオークションの実施
5.5.1. 米国:600MHz帯インセンティブオークション
5.5.2. 英国:2.3GHz及び3.4GHzの周波数オークション
5.6. 利用料制度をめぐる諸課題
5.6.1. 周波数共用インセンティブとしての利用料の減額措置
5.6.2. LSA免許料算定における軽減係数としての干渉リスク
5.6.3. イノベーション促進のための料額の低廉化
5.6.4. 免許不要帯域の管理費用とその回収
6. 英国における電波の価値をめぐる議論
6.1. 電波の社会的価値の検討経緯
6.2. 電波を利用するサービスの価値の三つのカテゴリー
6.3. 電波の総価値の評価手法
7. おわりに

執筆者

飯塚 留美(電波利用調査部 研究主幹)