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一般財団法人マルチメディア振興センターでは、ICT分野の発展に資することを目的として、ICT分野の政策・制度整備、市場開拓・拡大、技術発展、社会での利活用といった視点からテーマを設定して、調査研究を行っています。主要な研究テーマについては、研究報告書としてとりまとめています。
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2011.10.01

  • 最新研究
  • 藍沢 志津
  • 坂本 博史
  • 高橋 幹
  • 田中 絵麻
  • 三澤 かおり
  • 黒川 綾子

クラウド・サービスの利活用の動向と市場形成の諸条件の分析

 本報告書では、クラウド・サービスの市場形成の諸条件を解明することを目的として、クラウド・サービスの分類を行うとともに、世界の20社のクラウド・サービス戦略と事業における位置付けを分析するとともに、米国、欧州諸国(フランス、イギリス、デンマーク)、アジア諸国(韓国、シンガポール、インド)における関連政策について調査を行った。
 クラウド・サービスの一般的な分類としては、クラウド・サービスの機能に注目した分類であるSaaS(Software as a Service)、PaaS(Platform as a Service)、IaaS(Infrastructure as a Service)の分類のほか、パブリック・クラウド、プライベート・クラウド、ハイブリッド・クラウドという分類もある。また、モバイル端末からの利用も可能な場合には、モバイル・クラウドという呼称も広まっている。
本論では、こうした分類を踏まえつつ、クラウド・サービス事業者をソフト・アプリ系、ハード・端末系、ネットワーク系に分類し、各社のクラウド・サービス戦略を分析した。各社のサービス展開の調査からは、2006年頃から、商用サービスの展開が加速していること、また、そのサービス内容は数年間で拡充されていることが明らかとなった。また、個別企業の分析からは、次のような点が浮かび上がってきた。
 まず、クラウド・サービスの提供初期段階では、既存事業との関連性が高い分野に進出する傾向があると言える。これは、ソフト・アプリ系事業者、ハード・端末系事業者、ネットワーク系事業者に共通して見られる特色である。また、クラウド・サービスが試験段階から商業展開する段階に入るにつれ、収益性が考慮される傾向があった。特に、法人向けのクラウド・サービス分野では、法人向けサービスで競争力のある一部の企業を除き、サービス利用の拡大や収益性改善が課題となっている場合が多かった。これは、同市場における競争が激しいことが影響していると考えられる。
また、ネットワーク系事業者がクラウド・サービスに進出を図る場合には、他社との差別化が重視されていた。これは個人向けストレージ・サービスなど、ブロードバンド・サービスの魅力を高める場合に提供されるものが該当する。こうしたクラウド・サービスでは、事業の中核であるサービス(ブロードバンド等)と組み合わせとなっていることから、今後、バンドル型のクラウド・サービスが増加していくと思われる。
以上のような観点に加えて、各社が近年力を入れているのが、医療、教育、金融、政府向け等の垂直産業と呼ばれる産業向けのクラウド・サービスの開発である。これらのサービスは、従来から成長産業して期待されていたものの、利便性の面やコストの面で普及が伸び悩んでいたと考えられる。しかし、スマートフォンの普及、タブレット端末の急拡大により、汎用型のクラウド端末が一気に登場してきたことで、同分野への参入意欲が拡大しているところである。また、これまでITシステムの導入比率が低かった中小企業向けサービスも各社拡充を行っているところであり、こうした新規市場、新規ユーザー開拓が急ピッチで進められている。
 関連政策動向の調査から明らかになってきた点は、各国の政策には特色があるという点である。各国の政策を分類すると、①国際競争力強化、②国内(域内)産業育成、③行政コスト削減、④利活用促進という4つの分野が抽出された。米国や韓国のクラウド・サービス関連政策は、国際競争力を重視した政策という傾向が強かった一方、欧州の同政策は行政コストの削減を主目的としている傾向があった。また、欧州やシンガポールでは、域内の産業育成の一環としてクラウド・サービスの振興策を展開していた。その他、インドでは、デジタル・デバイドを解消することを目指し、ICTサービスの利活用を促進する施策の一環として、クラウド・サービス関連施策を実施していた。
また、クラウド・サービスの進展を踏まえ、行政組織のITシステムの刷新を図る政策が米国、韓国、欧州で共通して見られた。ただし、行政組織のITシステムのクラウド化については、ITシステムの行政コスト削減につながると目されてきたものの、その計画においてはセキュリティ対策等の課題が残されている。
 本論の調査結果からは、クラウド・サービスは、単に従来のデータセンターの代替サービスとして位置づけられるというものでないと思われる。各企業の戦略分析では、モバイル・クラウドやM2Mといった新サービス、新端末やソリューション・ビジネスからの収益拡大が期待されていた。また、政府のITシステムの刷新においては、コスト削減も達成されていたものの、モバイル・アプリの導入やソーシャル・メディアによる利用者とのコミュニケーションの活性化も合わせて実施されており、電子政府サービスの質の向上も図られている。
このように、クラウド・サービスの市場拡大に向けて、クラウド・サービス事業者の動向からみると、個人や中小企業向けの新規ユーザーの開拓、スマートフォン導入やアプリの拡充による新規需要の開拓、合わせてモバイル化による利用シーンの拡大によって達成しようとしていることが分かった。また、政府機関においても、ITシステムの導入によるコスト削減策に加えて、中小企業の利用促進策や産業育成策が講じられており、上述のような企業の動向にも合致する政策が展開されていると言えよう。クラウド・サービスの市場拡大要因としては、新規需要の開拓ということが鍵となると思われる。


■目次
第1章 クラウド・サービスの分類と市場形成の諸条件
1-1 クラウド・サービスの分類とサービス形態
1-2 クラウド・サービスの特性と新規市場機会の発生
1-3 クラウド・サービスの市場拡大への期待と市場形成の諸条件

第2章 クラウド・サービスによる市場変化と市場形成に向けた諸課題
2-1 クラウド・サービス導入によるIT関連市場への影響
2-2 クラウド・サービスの利用基盤の状況-ブロードバンド普及状況
2-3 ネットの利用基盤整備とクラウド・サービス市場発展の関係性

第3章 クラウド・サービス事業者のサービス展開と事業戦略
3-1 クラウド・サービス事業者の事業戦略の分析視点-成長と利益の両立
3-2 ソフト・アプリ系クラウド・サービス事業者の事業戦略
3-3 ハード・端末系クラウド・サービス事業者の事業戦略
3-4 ネットワーク系クラウド・サービス事業者の事業戦略

第4章 諸外国におけるクラウド・サービス関連の政策動向
4-1 クラウド・サービスの市場発展における政策の役割
4-2 米国におけるクラウド・サービス関連政策の動向
4-3 EUにおけるクラウド・サービス関連政策の動向
4-4 欧州各国におけるクラウド・サービス関連政策の動向
4-5 韓国のクラウド・サービス関連政策の動向
4-6 シンガポールのクラウド・サービス関連政策の動向
4-7 インドにおけるクラウド・サービス関連政策の動向

第5章 事業者戦略と関連政策からみるクラウド・サービス市場形成要因の比較分析
5-1 クラウド・サービス市場形成要因の比較分析-事業戦略展開と政策展開から
5-2 事業戦略の比較分析-事業環境の変化とターゲット・マーケット
5-3 クラウド・サービスの関連政策の国際比較
5-4 クラウド・サービスの市場拡大要因のまとめ

■執筆者一覧
藍沢 志津  情報通信研究部 副首席研究員
黒川 綾子  情報通信研究部 上席研究員
坂本 博史  情報通信研究部 上席研究員
高橋 幹   情報通信研究部 上席研究員
田中 絵麻  情報通信研究部 副首席研究員
三澤 かおり 情報通信研究部 副首席研究員