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一般財団法人マルチメディア振興センターでは、ICT分野の発展に資することを目的として、ICT分野の政策・制度整備、市場開拓・拡大、技術発展、社会での利活用といった視点からテーマを設定して、調査研究を行っています。主要な研究テーマについては、研究報告書としてとりまとめています。
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2014.10.01

  • 最新研究
  • 三澤 かおり

韓国のICT利活用に向けた政策と事例調査

 我が国で2014年6月にとりまとめられた「ICT成長戦略Ⅱ」では、ICT利活用で様々なモノ、サービスをつなぐことによる新たなイノベーション創出をめざしており、ICT利活用が国家成長戦略のエンジンと位置付けられている。ICTインフラが整備された我が国では、数年前からICT利活用促進が最重要課題として浮上しており、特に、ブロードバンドインフラを早期に整備して世界最高の電子政府と評価される韓国は、ICT利活用においても我が国のベンチマーク対象となっている。
 一方、韓国では、電子政府等一部の分野を除き、ICT利活用は活性化されたとは言えず、現在、ICT融合(ICTと他産業の融合)促進を通じたICT利活用促進を目指しているところである。ICT融合促進は、現政権のICT政策の最重要課題であると同時に、成長戦略実現のための主要エンジンと位置付けられている。つまり、韓国のICT分野は我が国と対比できる点が多いのみならず、ICT利活用促進の面でも同じ課題を抱えている。本調査では、このような韓国のICT利活用の状況について、政策・市場の両面からの考察で実態を明らかにすることにより、ICT利活用普及・促進面での展望と課題を抽出することを目的としている。
 第2章「韓国のICT分野の現状」では、スマートフォンとLTEサービスで世界最高の普及率を誇りながらも、通信分野収入の落ち込みで悩む通信事業者が、我が国以上にICT融合ビジネスを積極的に模索する背景をまとめる。
 第3章「通信事業者の成長戦略」では、韓国の主要通信事業者3社の成長戦略を分析することで、同じ悩みを持つ我が国の通信事業者の戦略タイプと比較する。韓国の通信3社は2010年以降、「脱通信」というスローガンを掲げてICT融合事業分野拡大を進めており、タイプ的にはNTTドコモの新領域事業拡大戦略と最も似ている。2014年に入ってSKテレコムとKTがそれぞれ発表した中長期成長戦略では、持続的なインフラ高度化とIoT(Internet of Things:モノのインターネット)を基盤として融合事業を強化するということで、同じ方向性を打ち出している。今後はIoT活用の農業、ヘルスケア、総合セキュリティ、物流、エネルギー等を成長有望分野として重点強化する姿勢を見せている。
 第4章「韓国のICT利活用促進に向けた政策」では、2013年以降の朴槿恵政権の成長戦略で中核的役割を果たすICT融合戦略の全貌をまとめる。我が国では2013年6月に省庁の縦割り解消のために政府CIOが新設され、ICT利活用促進を目指しているが、韓国でも現在同様の動きが見られる。
 韓国ではICT融合促進のため、科学技術・ICT政策を担う未来創造科学部が実質的なICT政策のコントロールタワー(司令塔)となり、省庁間の協業を進める体系が整備されたところである。このような体制下で、政府横断型のICT・科学技術と他産業融合促進のための「創造ビタミンプロジェクト」が2013年から進められている。「創造ビタミンプロジェクト」とは、科学技術とICTという「ビタミン」を通じて各省庁が協力し、各種社会問題の解決や、関連産業の高度化を目指す、国民の利益向上・成長戦略実現のための事業である。「創造ビタミンプロジェクト」では、農畜水産食品、文化観光、教育、保健・医療、主力既存産業、小規模ビジネス・創業、災害安全の7分野を中心に課題を選定し、2014~2017年の3年間で120以上のプロジェクトを実施する計画である。「創造ビタミンプロジェクト」の成果がICT利活用の社会実装に結びつくかが政権の成長戦略の行方を大きく左右する。
 第5章「韓国のICT利活用事例」では、前述の「創造ビタミンプロジェクト」で指定された重点7分野のうち、比較的広範囲での導入が見込まれ、かつ社会的課題解決又は経済活性化につながることが期待される6分野(農畜水産食品、文化観光、教育、保健・医療、中小企業・創業支援、災害安全(安心安全))について、商用サービス又は試験事業が進められている具体的サービス事例を可能な限り網羅している。現時点では、地域商店街活性化(中小企業)や施設農業、観光の一部分野で成果が見られるが、ほとんどのサービスは導入から日が浅いこともあり、成果の見極めは今後数年間の中長期的視点が必要と思われる。
 通信事業者と大手端末メーカーが広範囲な分野への進出を試みており、現段階では、特に、通信事業者が全方位的なICT融合分野で積極的にビジネスモデル構築を模索している。
 本報告書で見たように、韓国でのICT利活用の本格的取組は、スマートフォン普及を契機に、政権の成長戦略と絡めて2013年から積極的かつ広範囲に進められている。このような取り組みはまだ開始から間もない模索段階であり、成果を見極めるにはさらに数年を要するため中長期的視点が求められる。
 韓国の事例から見るように、ICT融合を広範な分野で迅速に進めるには省庁間の協業が欠かせず、規制緩和等の政策的支援システムが今後うまく機能するかが試金石となる。また、社会実装のためには政権が変わってもぶれない政策の継続性が必要である。
スマートフォン化とLTE化により、モバイルで可能になるサービス範囲が増えていることから、ICT活用できるシーンはさらに発掘の余地があり、先行者利益を追求するためにも現在はビジネスチャンスと言える。
 ただし、どの分野が成功するかの定石はまだ無い。社会的課題解決・新産業創出・社会的経済的コスト節減につながるニーズを幅広く洗い出しながら、ICT業界による幅広い分野での試行的取り組みが今後も期待される。

目次

第1章 はじめに
第2章 韓国のICT分野の現状
2-1 通信サービスの状況
2-2 ICT業界動向と市場環境
2-2-1 通信事業者の動向
2-2-2 主要なメーカーの動向

第3章 通信事業者の成長戦略-インフラ高度化とIoT基盤の融合事業強化-
3-1 SKテレコム
3-2 KT
3-3 LG U+

第4章 韓国のICT利活用促進に向けた政策
4-1 縦割り行政解消に向けた取り組み
4-1-1 ICT機能を未来創造科学部に統合
4-1-2 ICT特別法制定で省庁協業
4-2 創造ビタミンプロジェクト
4-2-1 創造ビタミンプロジェクトの実施事業
4-2-2 創造ビタミンプロジェクトの海外展開
4-3 国家情報化基本計画
4-4 生活分野におけるICT利活用促進政策-4大国民生活分野融合新産業市場活性化戦略-
4-4-1 戦略の推進体制
4-4-2 代表的ビジネスモデル
4-5 オープンデータとビッグデータ活用に向けた動き
4-5-1 オープンデータ戦略
4-5-2 公共分野主導のビッグデータ導入

第5章 韓国のICT利活用事例
5-1 文化・観光分野
5-2 教育分野
5-3 中小企業・創業支援分野
5-4 安心安全分野
5-5 農業分野
5-6 医療・ヘルスケア分野

第6章 今後の課題と展望

執筆担当
三澤 かおり(一般財団法人マルチメディア振興センター 情報通信研究部 主席研究員)