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一般財団法人マルチメディア振興センターでは、ICT分野の発展に資することを目的として、ICT分野の政策・制度整備、市場開拓・拡大、技術発展、社会での利活用といった視点からテーマを設定して、調査研究を行っています。主要な研究テーマについては、研究報告書としてとりまとめています。
各報告書は、販売もしておりますので、ご希望の方はこちらにご連絡ください。
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2015.10.01

  • 最新研究
  • 裘 春暉
  • 楊 松

中国におけるICT新興企業の台頭と展望

 中国は起業ブームの真っただ中にある。国家工商行政管理総局のデータによれば、2014年3月から2015年5月までの新規登録企業数は485万4,000社で、一日当たり1万件以上の起業との計算になる。政府は、起業による雇用及び経済発展の促進効果を高く評価し、一連の起業促進政策を打ち出し、人的資源・資金の確保を通じた起業環境の整備を図っている。

 本調査研究は、ICT分野にスポットを当て、多数の新興企業が次々と現れてきた背景を明らかにした。

 動画配信、モバイルアプリといった多くの新興分野において多数のベンチャー企業が出現している。複数ある背景要因のうち、まず言及しておきたいのは、スマートフォン市場の急拡大に伴うビジネスチャンスの多さである。中国では、3Gサービスの開始が多くの国と比べて遅れていたが、スマートフォン普及の波に乗ることができ、2013年に米国市場を抜いて世界最大のスマートフォン市場になった。また、コンテンツの利用でも、固定パソコンから携帯への移行が急速に進み、実用性の高いコンテンツの利用が広がりつつある。こういった状況がスマートフォン端末の販売をはじめ、各種アプリの提供企業にとって大きなビジネスチャンスとなっている。

 また近年、経済発展が減速するなか、大学進学率の向上に伴う卒業者数の増加が就職難を深刻化させている。起業は雇用問題の解決につながるため、政府は2012年以降、起業知識を習う授業を4年制大学の必修科目とし、若者の起業能力・意欲の引出しに力を入れている。その結果、潜在的な起業人材が増えている。

 人材に加え、長年の経済発展による民間資本の蓄積が進み、これも大量のベンチャー企業の出現を後押ししている。これらの資金が特にTMT(テクノロジー・メディア・テレコム)分野に集中しており、ICT分野における起業活動が活発化しているとも捉えられる。

 起業に欠かせない人材・資金のほかに、中国では、育成型インキューベーターが増えており、ベンチャー企業の成功率の向上に寄与したと見られる。米国で生まれたこのタイプのインキューベーターはベンチャー企業に対して、資金提供のみならず、マーケティング支援、法務指導、トレーニング等のバックアップも行う。中国政府は育成型インキューベーターの成果を認め、各種政策の実施を通じてその普及支援を行っている。

 本報告書は、新興企業の事例として、携帯メーカーの小米(Xiaomi)、動画サイトの楽視網(LeTV)、タクシー配車アプリを提供する「滴滴打車(DiDi)」、及びAndroidアプリの検索サービスを提供する「豌豆莢(Wandoujia)」の4社を取上げることにした。これらの企業はいずれも2010年前後に設立された新興企業である。起業者の特徴やベンチャーキャピタルの受入れ状況、インキューベーターからの支援を受ける状況などの側面から前述したベンチャー企業の育成環境に関する諸要素の確認ができた。

 一方、1990年代の終わり頃に設立され、いまだ中国ICT市場の更なる拡大に寄与しつつ、新興企業の育成においても重要な役割を果たしているのは、BAT(百度(Baidu)、アリババ(Alibaba)、テンセント(Tencent))3社である。現行の手厚い支援を受ける新興企業と異なり、BAT 3社の成功は主に市場への早期参入に起因すると考えられる。つまり、いち早く参入したことがネットワーク外部性効果を享受でき、強固な顧客基盤の構築につながった。2010年以降、3社が相次いでモバイルインターネット分野での事業を強化するために、多くの新興企業の買収に乗り出した。このような3社共通の戦略が結果的に新興企業の育成にもつながったとも言える。

 報告書では、現状分析に加え、今後のICT新興企業の動向についても展望した。中国におけるモバイルインターネット市場の更なる成長及びICT利活用の一層の広がりが確実視されている。このような状況が起業する側だけではなく、投資側の高い関心をもたらす。したがって、現状の起業ブームは一過性的なものではなく、今後も当分続く可能性が高いと考えられる。また、新興企業が増え、競争が激化するなか、小米(Xiaomi)のような、起業直後から急成長し、グローバル展開も図る企業の続出も期待される。

目次

序章

第Ⅰ章 中国のICT市場の拡大における新興企業のパフォーマンス状況
1-1 ICT市場の拡大
1-2 新興企業の増加

第Ⅱ章 企業事例分析
2-1 新興企業の事例分析
事例1 携帯メーカー「小米(Xiaomi)」
事例2 動画サイト「楽視網(LeTV)」
事例3 タクシー配車アプリ「滴滴打車(DiDi)」
事例4 Androidアプリ検索「豌豆莢(Wandoujia)」

2-2 新興企業向けの投資合戦で存在感を増す「BAT」
事例1 百度(Baidu)
事例2 アリババ(Alibaba)
事例3 テンセント(Tencent)

第Ⅲ章 中国における新興企業の成長促進政策
3-1 起業環境の整備に関する主要政策
3-2 中関村等自主創新モデル地区の設置

第Ⅳ章 ICT新興企業の動向に関する考察

執筆分担

裘 春暉 情報通信研究部 副主席研究員  各章及び全体の企画・編集

楊 松  北京事務所 研究員  第Ⅰ、Ⅲ章