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 一般財団法人マルチメディア振興センターでは、ICT分野の発展に資することを目的として、ICT分野の政策・制度整備、市場開拓・拡大、技術発展、社会での利活用といった視点からテーマを設定して、調査研究を行っています。主要な研究テーマについては、研究報告書としてとりまとめ、公開しています。これらの研究報告書はこちらからダウンロードすることができます。

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2015.10.01

  • 最新研究
  • 藍沢 志津
  • 坂本 博史
  • 高橋 幹
  • 田中 絵麻
  • 平井 智尚
  • 黒川 綾子

防災と緊急時におけるICT利活用と国際協力の可能性
-レジリエントな社会の実現に向けて- 

 本報告書では、ICTによる緊急・災害時、防災対策の改善に向けた世界における取り組みのうち、先進国において注目される動向について報告するとともに、途上国における課題についてICT普及状況から考察し、日本の取り組みの特徴を踏まえて、今後の国際協力の可能性について検討した。「はじめに」で、時系列で変化する防災・緊急時のICT利活用にかかる国際協力の可能性について、国際的な取り組み状況と日本の位置付けを踏まえて、考察することを本報告書のテーマとして提示した。ICT利活用の可能性各章の概要は以下のとおりである。

 「第1章 防災・減災におけるグローバルな衛星データの活用と国際協力」では、衛星データ共有・活用を通じた国際協力枠組み構築の進展状況を報告するとともに、日本の貢献の在り方について検討する。衛星通信もその同報性、広域性、大容量(ブロードバンド化)、柔軟性、耐災害性といった特徴を生かし、共に発展を遂げている。測位衛星システムと地球観測衛星システムの開発が進展しており、入手可能な衛星データの品質向上、多様化、流通量の増化、分解能の向上、新解析技術の発展が見られる。なかでも、衛星データの防災・減災対策への活用には大きな注目が集まっている。2000年には災害発生時に地球観測衛星画像を国際的に無償で共有する枠組みとして国際憲章「国際災害チャーター」が成立した。アジアでは、2005年に日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)が提唱した国際プロジェクト「センチネルアジア」が成立し、防災・減災活動を支援している。こうした国際協力枠組みは、各国・地域における防災・減災対応能力を向上させることが期待され、日本の技術力や人的貢献が期待されている。

 「第2章 欧州におけるICT利活用型の防災R&Dプロジェクトと国際連携」では、緊急・災害時通信におけるICT技術活用の研究開発動向として、欧州の事例を中心に概説した。欧州のプロジェクトの特徴は、「国際性」にあり、R&D活動が域内の複数の産官学の連携で行われており、その成果を広く国際的にアピールするとともに、標準化にも積極的に取り組んでいることにある。2007年~2013年のEU政府の技術開発助成フレームワーク「FP7」では、都市の重要インフラ保護を主目的に、環境整備に関するR&Dプロジェクトを推進してきた。主な開発事例には、水位等の気候変動観測・通知システム、災害シミュレーションモデル等があり、その成果を加盟各国のスマートシティに導入するとともに、「防災都市」に関する国際連合等の活動をリードしている。2014年からのEU主導のR&D助成プログラム「Horizon2020」では、欧州単一市場の戦略の一環として、防災技術の国際市場展開を目指し、緊急通信を中心とした市民サービス向けの技術開発や標準化に取り組んでいる。

 「第3章 米国におけるシステム先行型の緊急警報統合プラットフォームの動向」では、米国における早期警戒警報システムの開発経緯について、放送系、移動帯系、プラットフォームの開発動向に注目して報告した。米国では、1950年代の早期から、市民向けの警報システムの導入が進められてきたものの、その機能や普及には課題があったことから、1994年には、デジタル放送システムに対応した緊急警報システム(EAS:Emergency Alert System)の導入が進められた。しかし、2005年のハリケーン・カトリーナでは、市民への警戒警報情報の伝達に課題があることが明らかになり、大統領令のもとで、EASの高度化、モバイル端末への警報発信システムと複数のメディアに情報伝達が可能な統合プラットフォームであるIPAWSの開発が進められた。米国の市民向けの警報システムの特徴は、①各種のシステム開発がトップダウン型で推進されていること、②警報を伝送する放送事業者や移動体通信事業者の対応が任意であること、③自治体が警報発信を行うためには承認を取得する必要があることと言える。なお、自治体側でのIPAWSへの対応は、その普及途上にあることから、連邦議会においても、IPAWSにかかる運営や近代化のための予算措置を講じる法案が検討されている。このように、従来は、米国の緊急時の警報情報の伝達システムの開発・導入では、ナショナル・セキュリティの意識が強かったものの、自然災害時の市民の安全を確保するための情報伝達の面での改善に取り組んでいると言える。

 「第4章 カナダにおける放送先行型の緊急警報統合プラットフォームの動向」では、放送を活用した緊急警報システムについて、竜巻や洪水、森林火災が多発するカナダでは、2005年から全国レベルでの緊急警報放送システムの見直しが検討開始され、2015年3月31日には、全国レベルでの緊急警報放送システム導入を実現させている。カナダの緊急警報放送システムの特徴の1点目は、民間放送事業者(気象情報サービスを専門とするPelmorex)の主導により開発・運用が実施されていることである。Pelmorexは、情報発信者と情報伝達者間の情報伝達を迅速かつ正確に実行するために共通プラットフォーム(NAAD)を開発し、運用を行っている。2点目は、全国のすべての住民が緊急警報放送を活用できるようにするため、連邦・州・準州政府・自治体と、放送事業者のすべてに対し、NAADプラットフォームへの対応を義務付けたことである。この義務化にあたり、放送関連法改正を実施し、放送免許の交付・更新の条件に、「放送免許を受けた事業者(地上放送局、ラジオ局、ケーブルテレビ事業者、衛星放送事業者、VoDサービス事業者を含む)は、NAADプラットフォームに対応しなければならない」とする条項を追加した。今後は、スマートフォンの普及とともに、災害情報を活用するエンドユーザーの利用形態も変化していることから、放送のみならず、スマートフォンをはじめ、様々な無線通信システムと効果的に連動させていく必要がある。

 「第5章 ICT災害レジリエンス指数の作成と算出結果」では、「世界災害リスク指数」及び「ISO 37120」を参照の上、ICT指標を拡充し、新たなレジリエンス指標を作成した。東日本大震災を始めとして、近年、世界中で大規模な自然災害が多発しており、災害リスクあるいはレジリエンスを評価するための指標に関心が高まっている。他方、昨今の自然災害対策ではICTの役割が高く評価されており、その可用性の高まりとともに、新たにSNS等のモバイルアプリケーション、デジタル放送や衛星通信等の新技術を活用した配信プラットフォームの構築も推進されている。同時に、行政を中心に提供情報の一元化を測り、各配信プラットフォームで共有する試みも実施されている。しかし、既存のレジリエンス指標ではICT評価項目の採用が限定的であり、その効能を十分に評価できないため、ICTレジリエンス指標を作成した。同指標の算出結果では、オランダ、ベルギーのベネルクス諸国が上位を占め、日本がこれらに続いている。他方、下位には自然災害の頻発国であるオセアニア諸国が含まれており、これらの国々は深刻な災害リスクに直面していることも示された。

「第6章 日本における緊急・災害時の市民とICTメディア利活用」では、2011年3月に発生した東日本大震災の発災期の事例に着目して、緊急・災害時におけるICTメディアの役割を検討した。東日本大震災の発災期には、ポータルサイト、動画サイト、ツイッターなど様々なサービスが活用された。ただし、これらのICTサービスのユーザーは「先進ユーザー」に属し、全体としてみれば、先端的なICTサービスの利用は一般的ではなかった。また、ICTサービスの利用者と非利用者の間で情報格差が生じていたことも示唆された。なお、震災後には、スマートフォン向けの防災アプリや安否確認アプリ、そして自治体が提供するハザードマップや避難所情報など、緊急・災害時に対応する各種サービスは拡充の途にある。今後起こり得る緊急・災害事態に際して、ICTメディアはますます重要な役割を果たすものと考えられることから、ICTメディアの潜在性が十分に発揮される環境を整えておくことであると提言した。

 「おわりに」では、本報告書で明らかになったこととして、①日本は、防災・減災分野のICT利活用について衛星データ共有分野で貢献の実績がある、②欧州の防災・減災分野の産官学連携型のICT利活用の研究開発体制はモデルとなりうる、③米国やカナダで導入が進められている緊急警報情報プラットフォームについては日本も先進的な取り組みが認められる、④日本は、ICT災害レジリエンスが高く、ICTサービスが普及しつつあるなかで大規模自然災害時のICT利活用も経験している、という四点を提示した。また、防災分野における日本の国際協力の取り組みについて概観し、2015年3月の世界防災会議の仙台宣言において、①制度構築や教育等のソフト支援、②インフラ整備といったハード支援、③グローバルな協力・広域協力の3つを柱に国際貢献するとしていることを踏まえつつ、途上国におけるデジタル放送分野やモバイル分野の早期警戒警報の仕組みやプラットフォーム構築がその途上にあることから、こうした分野での貢献が有益であるとした。また、防災・緊急時における情報行動のアンケート結果を踏まえて、防災意識の向上や、市民の啓発、ICTリテラシーの差に配慮することも重要であると指摘した。


目次

はじめに 防災・緊急時におけるICT利活用の国際動向と日本の取り組み
1 気候変動・都市化とICT利活用による防災・緊急時におけるレジリエンスの向上
2 防災・災害時の情報伝達改善に向けた国際的な取り組み状況
3 日本における緊急・災害時におけるICT利活用の状況と国際的な位置付け
4 調査研究の特徴と報告書の構成

第1章 防災・減災におけるグローバルな衛星データの活用と国際協力
1-1 はじめに
1-2 近年の衛星技術の発展とデータ取得の増加
1-3 衛星データの解析と防災・減災への活用
1-4 国際的なデータ共有による防災対応能力の向上とさらなる国際協力の状況
1-5 おわりに

第2章 欧州におけるICT利活用型の防災R&Dプロジェクトと国際連携
2-1 はじめに
2-2 「Framework Program(FP7)」における防災プロジェクト事例
2-3 スマートシティにおける防災計画
2-4 「Horizon2020」(2014~2020)の防災プロジェクトにおけるICT
2-5 おわりに

第3章 米国におけるシステム先行型の緊急警報統合プラットフォームの動向
3-1 はじめに
3-2 米国における緊急・災害時、防災にかかる情報伝達システム開発の経緯
3-3 統合公衆警戒・警報プラットフォーム(IPAWS)の開発と関連施策
3-4 おわりに

第4章 カナダにおける放送先行型の緊急警報統合プラットフォームの動向
4-1 はじめに
4-2 カナダの緊急警報システム「NPAS」の概要
4-3 緊急警報統合プラットフォーム「NAAD」の特徴
4-4 おわりに

第5章 ICT災害レジリエンス指数の作成と算出結果
5-1 はじめに
5-2 既存の指数及び標準の展望
5-3 ICT-DRIの採用指標及び計上方法
5-4 おわりに-ICT-DRIの算出結果及びランキングと日本の位置付け

第6章 日本における緊急・災害時の市民とICTメディア利活用
6-1 はじめに
6-2 緊急・災害時におけるICTメディアの役割
6-3 東日本大震災の発災期におけるICTメディアと情報伝達・共有
6-4 緊急・災害時におけるICTメディア利活用と課題
6-5 緊急・災害時におけるICTメディアの利活用向上に向けて
6-6 おわりに

おわりに ICT活用によるレジリエンスの向上と国際協力の可能性
1 防災ICTにおける国際動向と日本の位置付け-開発・導入・普及
2 防災ICTにかかる国際協力の動向とICT普及拡大
3 日本における防災ICTにおける国際協力の展開と可能性

添付資料 防災対策・災害時における情報収集と意識に関する調査
1 アンケート調査結果のポイント
2 問題意識と調査対象
3 防災・災害速報にかかるモバイル向け関連サービス
4 防災・緊急時の情報行動・メディアの利用意向にかかる関連調査
5 アンケート調査の実施概要
6 アンケート調査結果の概要
7 アンケート調査結果(質問・グラフ・クロス集計表)

執筆分担

はじめに:平井 智尚、田中 絵麻
第1章 :藍澤 志津
第2章 :黒川 綾子
第3章 :田中 絵麻
第4章 :高橋 幹
第5章 :坂本 博史
第6章 :平井 智尚
おわりに:田中 絵麻、平井 智尚

添付資料:田中 絵麻、芝井 清久(特任研究員 統計数理研究所、アンケート調査監修)、
平井 智尚、坂本 博史