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一般財団法人マルチメディア振興センターでは、ICT分野の発展に資することを目的として、ICT分野の政策・制度整備、市場開拓・拡大、技術発展、社会での利活用といった視点からテーマを設定して、調査研究を行っています。主要な研究テーマについては、研究報告書としてとりまとめています。
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2012.10.01

  • 最新研究
  • 飯塚 留美

ホワイトスペースの利活用に関する国際動向調査

地域によって未使用となっているTVバンドである「ホワイトスペース」を実用化するための取組みは、2000年前後から米国で本格的に開始された。ホワイトスペースが注目される背景には、1GHz以下の電波の稀少性にある。1GHz以下は、電波の伝搬距離が長いため、少ないセルサイトで広域をカバーできることから、投資効率が高いとされる。そのため、通信利用目的のユーザにとっては極めて魅力的な帯域となっており、それがプラチナバンドといわれる所以である。しかし、世界的に1GHz以下の多くは放送用周波数に割り当てられており、通信用途に利用できる余地は限られている。そこで、地域によって使用されていないTVバンドに着目し、これを有効利用しようという考え方が登場したわけである。
ホワイトスペースを利用するにあたっては、当然ながら、既存の一次業務であるTV放送やラジオマイクに干渉を及ぼさないことが条件となっているため、これら既存業務に干渉を与えないための技術的な措置が講じられることになる。そこで検討されたのがコグニティブ無線技術である。コグニティブ無線とは、無線機器自体が、周囲の電波環境を検知し、空き周波数帯を自ら探して通信を行うもので、Joseph Mitra III氏が考案した技術的な仕組みが端緒となっている。しかし、現状ではコグニティブ無線を実装するには至っておらず、確実に干渉を回避するための技術開発レベルに達するまでには、まだ相当の時間を要すると見られている。そこで、現在、ホワイトスペースを利用するにあたっては、地理位置情報のデータベースを利用した手法が用いられている。これは、TV放送の送信局の置局情報を予めデータベース化することで、利用可能な周波数(ホワイトスペース)を、随時無線機器(ホワイトスペース機器:WSD)に提供するもので、米国で既に実用化が始まっている。
コグニティブ無線は、近い将来、実用化されると見られているが、この技術の研究開発の発端は、米国国防総省国防高等研究計画局(Defense Advanced Research Projects Agency: DARPA)のプロジェクトXG(neXt Generation Communications、次世代通信システム)とされる。DARPAは軍事目的のための新技術の研究開発を行う組織であるが、現在、民生利用向けに広く普及しているGPS(Global Positioning System)もDARPAが開発したものであることを鑑みれば、最先端の軍事技術の応用先は、最終的に民生分野であると位置づけられる。最先端の無線通信システムの技術開発において米国が世界をリードする背景には、軍事技術の民生転用という流れが大きく関係しているといえる。
米国においてホワイトスペースを免許不要で利用するための制度整備(FCC規則)が進められるのに伴って、ホワイトスペースを利用する無線機器の技術標準化も、IEEEを中心に進められている。既に、ホワイトスペースの固定利用を目的としたIEEE802.22の技術標準が策定されており、米国で実用化が始まっている。また、ポータブル利用を目的としたIEEE802.11afも標準化作業が進められており、2014年に仕様策定が完了すると見られている。当初、IEEE802.22等のホワイトスペースに関連する標準化活動には、中国、韓国、シンガポールなどのアジア諸国のメーカーや研究機関が積極的に関与していたが、現在では日本の大学や研究機関の専門家も参加し、議長等を務めるなど、主体的に貢献している。
ホワイトスペースの実用化では、米国が先行している。既に、2012年1月に、アナログTV放送の完全停波が米国で最初に実施されたウィルミントン市(ノースカロライナ州ニューハノーバー郡)が、IEEE802.22規格に基づくホワイトスペース機器の運用が可能なホワイトスペース網の商用化を開始した。同市は、ルーラル地域における無線ブロードバンドの提供にとどまらず、ホワイトスペース網を「スマートシティ」開発の観点から活用する計画で、現在の監視カメラ、河川管理、街灯照明制御などの用途を、交通渋滞管理や電力使用制御などに広げる方針である。
米国に次いで、ホワイトスペースの実用化に向けた取組みが先行しているのが英国である。英国では、ホワイトスペースの一部をローカルTV局に割り当てた後、残った未使用分を免許不要による無線通信に利用可能とするための制度化を進めている。ホワイトスペース網は、都市部でのWi-Fi、ルーラル地域での無線ブロードバンド、M2M通信、位置情報サービスでの利用が期待されており、2013年の実用化が想定されている。また、M2Mについては、ホワイトスペースを利用するM2M通信として、英国発の技術規格である「Weightless」の標準化が進行中で、ヘルスケア、スマートシティ、テレマティクスなどの分野での利活用が見込まれる「Weightless網」の構築が計画されている。英国では、免許不要のホワイトスペース網を低コストで構築することで、これまで市場として成立していなかったM2M市場を発展させたい意向である。
一方、日本では、ホワイトスペースを放送用途としてエリアワンセグに利用する取組みが先行しているが、通信用途としてホワイトスペースを利用する高度周波数共用技術の標準化や制度化を2015年までに実施するため、「ホワイトスペース推進会議」やARIBにおいて検討が進められている。
ホワイトスペースの利活用の動きは、広く電波全体を、複数のユーザやシステムが、共同で使用するという動きを加速化させることになると見られる。その背景には、昨今のスマートフォンブームによるモバイルブロードバンド需要の急速な高まりを受けて、新たな電波を確保するための周波数再編を実施する取組みが進められるも、再編に要する時間がかかるために、共用化を推進することで、高まる電波需要に対応しようとすることが挙げられる。例えば、欧米では、利用頻度が低い、あるいは、地域によって使用されていない政府等が使用する公共セクターの周波数を、民間と共用することが検討されている。
周波数の共用化には、免許・非免許の異なるユーザやシステムが、同一周波数帯を、帯域共用するのか、時間的に共用するのか、あるいは地理的に共用するのかといったケースが想定され、それぞれの共用において、どのようなユーザやシステムをどのように組み合わせるかが、重要な政策課題となる。また、特に、ホワイトスペースに代表されるように、異業種間(例えば、放送と通信)の混在利用は、相互に干渉防止の価値観が異なっているため、干渉調整をどのようにするかが大きな課題となる。
その一方で、周波数の共用化の進展による干渉リスクの高まりを軽減するための技術改良も進められている。有害な干渉が起きた場合に送信電力が弱められるよう、ホワイトスペース機器の送信電力の制御を可能とするような技術開発が進められているほか、特に英国では、ホワイトスペースを利用する通信機器の普及を見越し、干渉の影響を受けにくい(ノイズ耐性・免疫性の高い)TV受信機の技術開発に着手している。周波数の共用化が、無線機器自体の干渉に対する性能向上という技術進歩をもたらしている点については、電波の有効利用を促進させる上で極めて重要であるといえる。
また、周波数の共用化によって、一時的な電波の賃借(周波数使用権の一時的利用)といった利用形態も想定されている。このような利用をリアルタイムで実現するための技術的な取組みとして、コグニティブ無線技術の活用が検討されているが、こうした利用形態を可能とするための動的周波数アクセス(dynamic spectrum access: DSA)に基づく周波数管理アプローチの制度的枠組みの検討も一緒に進められている欧米の動向については注目しておくべきかもしれない。

■目次
第1章 ホワイトスペースをめぐる議論の背景
1-1 周波数の希少性仮定
1-2 クロスバンド技術システムの登場
1-3 機会利用型の周波数アクセス
1-4 無線技術の高度化
1-4-1 無線周波数技術
1-4-2 信号処理技術
1-4-3 ソフトウエア無線とコグニティブ無線
1-5 周波数利用機会の増大
1-5-1 周波数へのアクセス
1-5-2 周波数利用をめぐる障壁
1-5-3 無線システム設計における動的要素
1-5-4 周波数アクセスの二次市場
1-5-5 明確な規定を伴った周波数政策
1-6 動的な周波数管理政策

第2章 コグニティブ無線技術の研究開発動向
2-1 米国
2-1-1 コグニティブ無線の位置付け
2-1-2 コグニティブ無線の定義及びアプリケーション
2-1-3 コグニティブ無線の技術動向
2-1-4 コグニティブ無線導入に向けた政策課題
2-1-5 コグニティブ無線に係わる市場課題
2-1-6 コグニティブ無線の今後の見通し
2-2 欧州

第3章 ホワイトスペース利用をめぐる国際標準化動向
3-1 IEEE
3-1-1 IEEE 802.22の目的
3-1-2 IEEE 802.22の検討経緯
3-1-3 固定機器向けのIEEE 802.22規格の承認
3-1-4 ポータブル機器向けのIEEE 802.11af規格の検討
3-1-5 ホワイトスペース利用をめぐるその他の規格
3-2 EU

第4章 ホワイトスペースの制度化及び利活用をめぐる動き
4-1 米国
4-1-1 FCCの取組みの経緯
4-1-2 2008年の主なFCC規則
4-1-3 2010年のFCC規則変更の主な内容
4-1-4 2012年のFCC規則変更の主な内容
(1)平均地形からの高さ(height above average terrain: HAAT)
(2)帯域外発射(Out-of-band emissions)
(3)チャンネル52の無線業務保護
(4)TVバンド機器の新たなクラス
(5)データベース情報の機密性保持
4-1-5 地理位置情報データベース管理者
4-1-6 免許不要のワイヤレスマイクの登録制度
4-1-7 ホワイトスペース推進団体
4-1-8 世界初の商用ホワイトスペース網等
4-1-9 ホワイトスペースを利用したスマートグリッド無線網
4-1-10 ホワイトスペースを利用する医療機関向け無線ブロードバンド網
4-2 英国
4-2-1 2013年にホワイトスペース利用技術の導入を予定
4-2-2 ホワイトスペースを利用するM2M技術標準「Weightless」の標準化
4-2-3 ブロードバンドゼロ地域解消に向けた取組み
4-2-4 ケンブリッジTVホワイトスペースのトライアル
4-2-5 ホワイトスペースの一部をローカルTV局へ割当て
4-3 その他諸外国
4-3-1 中国
4-3-2 韓国
4-3-3 シンガポール
4-3-4 フィンランド
4-3-5 アイルランド
4-4 日本
4-4-1 エリア放送の制度化
4-4-2 ホワイトスペース通信の実証実験
4-4-3 IEEE802.11afの実証実験の成功

第5章 ホワイトスペース利用が周波数管理政策に及ぼす影響
5-1 免許不要帯域の拡大によるイノベーションの促進
5-1-1 米国での「ミドルクラス減税及び雇用創出法」の成立
5-1-2 免許不要帯域の各産業での活用
5-2 技術革新による電波の稀少性の解消
5-2-1 機会利用型・割り込み型の周波数アクセス
5-2-2 周波数リースの自動化
5-3 周波数共用を前提とした電波監理
5-3-1 動的周波数アクセスに基づく周波数管理アプローチ
5-3-2 周波数共用をめぐる政策課題

■執筆者
飯塚 留美 電波利用調査部 主席研究員