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一般財団法人マルチメディア振興センターでは、ICT分野の発展に資することを目的として、ICT分野の政策・制度整備、市場開拓・拡大、技術発展、社会での利活用といった視点からテーマを設定して、調査研究を行っています。主要な研究テーマについては、研究報告書としてとりまとめています。
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2013.10.01

  • 最新研究
  • 裘 春暉
  • 楊 松

ダムパイプ化戦略に関する中国通信事業者間の比較分析

  「ダムパイプ(土管)化」というワードは、近年、既存通信事業者のビジネス・スタイルを表現するのに良く用いられるものである。明確な定義はないが、多種多様な付加価値サービスの提供で収益を確保するOTT(Over The Top)プレイヤーと対照的に、既存通信事業者はレガシーサービスの提供にとどまり、いわゆる通信回線(土管)による伝送機能の事業を中心に行うビジネス・スタイルのことを指す。結果的には、インフラの投資費用の回収に追われて、収益性が悪化することになる。
 本報告書で用いる「脱ダムパイプ化」という表現は、既存通信事業者による付加価値サービスの強化で収益改善を図る取組みを意味する。結論を先取りして言うと、収益性を向上させるために、通信事業者は、少なくとも3つの方面から取り組む必要があると考えられる。具体的には、事業の軸足を移動通信分野におき、シームレスに接続できる高速ネットワークの整備に加え、使い勝手も良く(=インターフェース重視)、かつ、デザイン性にも優れた端末のラインナップの強化、ならびに充実した魅力的な付加価値サービスの提供のいずれも不可欠である。ただし、どの側面での強化を優先するか否かは、事業者自身の経営リソースに関わっていると思われる。
 また、本報告書においては、中国における通信事業者3社の脱ダムパイプ化戦略に関する取組みを明らかにすることを通じて、中国通信市場全体の将来展望を行うと同時に、中国市場への参入を検討する日本企業に対してタイムリーな参考材料を提示することにしている。
 そのために、まず、中国における通信事業者3社による脱ダムパイプ化戦略の必要性について、通信サービス分野での市場構造の変化、端末分野での市場構造の変化、および政策面での変化を取上げて、最新のデータに基づき分析してみることにした。通信サービスの面では、音声サービスが非音声サービスに代替されることで表れる消費者の利用選好の変化や、携帯電話ユーザー数の伸びがSMS(Short Message Service)サービス利用の伸びに及ばないことで表れるOTTプレイヤーによる事業の浸食といった変化が顕著に表れていることが確認できた。
 さらに、端末分野では、中国通信市場は他の多くの先進諸国と比べて3Gサービスの導入が遅れていたが、スマートフォンの普及の波に乗ることができ、付加価値サービスに適した端末市場が急速に拡大し、通信事業者の脱ダムパイプ化戦略の推進に追い風となっている。
 これらの背景状況の変化もあり、通信事業者3社はこぞって脱ダムパイプ化戦略に取り組んでおり、三者三様の特徴を確認することができた。
 中国移動は、マルチネットワーク(Wi-Fi/GSM/TD-SCDMA/TD-LTE)の整備に注力すると同時に固定分野への進出にも意欲を示している一方、iPhoneの導入を視野に入れながら、安価な端末の販売を強化している。付加価値サービスの強化においては他分野の事業者との連携による取組みは同社の特徴となっている。
中国電信は、農村部での移動網の整備に注力し、他社との差別化を図る一方、都市部ではFTTHの整備を強化する。また、低価格スマートフォンの販売に注力し、同比率の引き上げを目指している。付加価値サービスの強化策として、各プラットフォームの運営部門を順次に子会社化し、マルチスクリーン向けてのサービスの提供を目指している。
 中国聯通は、移動網の高速化を図ると同時に、インパクトのある(固定・移動)バンドル料金プランに注力しながら、iPhoneへの補助金を減らす一方、コスト・パフォーマンスの高い端末にも注力している。さらに、自らのプラットフォームを開放し、外部のリソースを活用する形でユーザーのニーズに対応している点は同社の特徴だと言える。
 総じて言えば、脱ダムパイプ化戦略の実行において、固定および移動通信事業のバランス状況も取組みの成否に大きな影響を与える重要なファクターである。つまり、固定と移動通信事業における優位的な事業構造があれば、それに基づくインパクトのあるバンドルセールを打ち出すことができ、ユーザー層の拡大につながりやすい。その上で、付加価値サービスも強化すれば、自らの競争力が高まり、結果的には収益の改善につながる効果が期待できると考えられる。
 上記の分析から分かるように、中国国内において通信事業者3社はこぞって脱ダムパイプ化戦略に取り組んでおり、その一環として、付加価値サービスの強化がいっそう重要視されている。そのためには、高速通信ネットワークおよび端末の高度化も図られることになっている。言い換えれば、中国通信市場で確認されたこれらの変化は、コンテンツの提供において強みを持つ日本企業にとってビジネスチャンスが高まることを意味する。
 ただし、現状では、参入後間もないうちに撤退も余儀なくされる事例が多く伝えられている。その共通した敗因として、進出企業が自らの日本国内での成功体験にとらわれ、現地消費者の商慣行に合ったサービスの提供に至っていないことが挙げられている。裏返せば、いかにして現地事業者のビジネス・スタイルを徹底分析し、明確なターゲット消費者層を定めた上でサービスの提供ができるかが重要である。本報告書はタイムリーな市場、政策動向に関する情報の提供という点においても一役を果たすことになる。

【目次】

第1章 序章
1-1 問題意識
1-2 分析アプローチ

第2章 中国通信市場の構造および政策の変化
2-1 通信サービスおよび端末分野の変化
2-2 通信政策の変化について

第3章 移動体通信最大手中国移動の脱ダムパイプ化戦略
3-1 中国移動が直面している現状
3-2 中国移動の脱ダムパイプ化の取組み

第4章 固定通信最大手中国電信の脱ダムパイプ化戦略
4-1 中国電信が直面している現状
4-2 中国電信の脱ダムパイプ化の取組み

第5章 後発者中国聯通の脱ダムパイプ化戦略
5-1 中国聯通が直面している現状
5-2 中国聯通の脱ダムパイプ化の取組み

第6章 通信事業者間の戦略比較分析
6-1 ネットワーク面での取組み
6-2 端末面での取組み
6-3 コンテンツ面での取組み

第7章 中国通信事業者の戦略転換に伴う日系企業のビジネスチャンス


【執筆分担】

裘 春暉 情報通信研究部 副主席研究員  各章および全体の企画・編集
楊 松  北京事務所 研究員  第2、3、4、5章