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一般財団法人マルチメディア振興センターでは、ICT分野の発展に資することを目的として、ICT分野の政策・制度整備、市場開拓・拡大、技術発展、社会での利活用といった視点からテーマを設定して、調査研究を行っています。主要な研究テーマについては、研究報告書としてとりまとめています。
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2010.10.01

  • 最新研究
  • 飯塚 留美
  • 木賊 智昭
  • 佐川 永一
  • 中田 一夫

モバイルブロードバンド市場の世界動向

日本は、世界に先駆けて2001年10月にW-CDMAサービスを開始し、3Gでは世界のトップを走ってきた。その結果、日本の携帯加入数、約1億1218万に占める3G(W-CDMAおよぼCDMA2000)の割合は97.2%に達し(2010年3月末) 、3G普及率では世界のトップクラスを誇っている。
一方、世界に目を転じてみると、日本のように3Gが全体の9割を超えている国はまれである。携帯加入数に占める3G比率は、韓国が99.1%と最も高く、次いで日本が95.7%と続き、その後を米国(69.1%)、カナダ(68.6%)、ニュージーランド(65.6%)、ベネズエラ(56.6%)、オーストラリア(54.1%)の北米勢とオセアニア勢が追いかけている。2000年前後に3Gオークションが実施された欧州では、オークションに高額な費用を投じた結果、3Gインフラの設備投資に資金が回らず、3Gサービスの立ち上がりが遅れた。そのため、3G(W-CDMA)が占める割合は、最も高いスペインでも40.5%で、次いでオーストリアとスウェーデンの39.0%となっている。
しかし、ここ数年、iPhone人気に代表されるスマートフォンの普及と相まって、3Gは世界的に急速に拡大しており、その増加スピードはさらに加速すると見られている。その背景には、携帯電話の人口普及率が100%前後に達する国が増え、新たな収益源としてデータ通信サービスに期待する携帯キャリアが増えていることによる。そのため、世界的にみれば、3G(W-CDMA)をデータ通信サービス(HSPA)として新たに開始する携帯キャリアも少なくなく、特に南米やアフリカではその動きが顕著である。
さらに、最近では、2010年のLTEの商用サービス開始に向けた取組みが、米国やスウェーデンなどで活発化してきており、LTEの普及拡大のスピード如何によっては、3G(W-CDMA/HSPA)を導入せずに、LTEへ一足飛びする携帯キャリアも登場することが予想される。現状で2Gのみしか導入していない携帯キャリアでは、いわゆる“3G飛ばし”と称されるGSMからLTEへと移行するケースも否定できない。

このような3GやLTEへの移行が進みつつあるなかで、世界的に共通な政策課題となるのが周波数再編や電波の公平割り当てであり、携帯キャリアからみれば電波の獲得競争の熾烈化である。
3Gに関しては、2.1GHz帯が国際的に分配され、多くの国で周波数割り当てが進んでいるが、インドやロシアなどでは一部地域で同帯域を軍が使用しているため、現状では全国規模での3Gサービスの展開が困難となっている。そのため、軍用システムの周波数移転や周波数の明け渡しが喫緊の課題となっている。
また、欧州では2.6GHz帯が4G(LTEやモバイルWiMAX)に分配され、ノルウェー、スウェーデン、フィンランドで早々にオークションによる周波数割り当てが実施されたが、同帯域を軍やMMDSなどが使用している欧州諸国も少なくない。そのため、現行のユーザやシステムの周波数移転が必要となり、4Gに使用できるまでには時間を要する国もでてくる。
さらに欧州では、2.6GHz帯を割り当てるにあたり、アナログ跡地の800MHz帯や、GSMの免許が切れる900MHz帯と組み合わせて周波数を割り当てる方法が、英国、フランス、ドイツなどで検討されている。その背景には、都市部では2.6GHz帯を、農村地域ではセルカバレッジの広い低い800MHz帯や900MHz帯を使用して、LTEの全国カバレッジを早期に実現するねらいがある。しかし、低い周波数帯は、割り当て可能な周波数量が限られていることから、携帯キャリアの数に応じていかに公平に電波を割り当てるかが最大の争点となっている。
このように3Gや4Gに向けた電波の割り当ては、電波の使用状況や割り当て方針などの違いによって、割り当てられる帯域や割り当て時期などが各国ごとに異なる。そのため、グローバルに事業展開している携帯キャリアにとっては、複数市場で共通に使用できる周波数帯の特定化や、戦略上重要な市場における周波数の買い時などの決定が、戦略上重要になってくる。特に端末機器調達の観点からみると、対応バンドが少ない方が製造コストは安くなり、端末機器のスケールメリットを得ることができる。

このスケールメリットを様々な局面で享受することをねらって、海外市場に積極的に進出しているのが、グローバル携帯キャリアである。
現在進行している携帯キャリアによるグローバル展開は、主に以下の理由によるもので、加入者の増加をねらった量的拡大戦略が中心である。
・ 隣接国や関係国へ移動するユーザの利便性を上げるために周辺地域へ市場を拡大する
・ 国内市場における競争導入や競争激化によって収益源を海外市場へ求める
・ 国内の市場規模が小さいために海外市場へ進出する
海外進出の方法は現地キャリアへの資本参加を基本とするが、いわゆるメガキャリアと称されるVodafone(イギリス)やOrange(フランス)などは、現地キャリアを買収して100%子会社化、完全に経営権を掌握して、世界共通ブランドで事業展開するのが特徴となっている。こうした傾向は中東系キャリアのZain(クウェート)などにもみられる。
また、携帯普及率の低い途上国や新興国では、国営企業の民営化や独占・複占体制の廃止などの規制緩和を契機に、新規のモバイル事業免許が増発され、グローバルキャリアが単独または現地キャリアとの合弁で免許を落札し、新規参入するケースもある。こうした状況は、パキスタンやバングラデシュ、またイランやイラクなどでみられる。
今後は、携帯普及率が世界的に飽和状態になるのを見越し、これまでの量的拡大戦略から質的拡大戦略、つまりデータ通信サービスの導入や拡大に向けた取組みが活発化することが予想される。したがって、世界の携帯キャリアは、グローバル市場で調達可能な安価なスマートフォンを導入し 、サービス・アプリケーション開発に資源を集中させる傾向を強めることが予想される。特に、インド、中国、ASEAN諸国を中心としたアジア・オセアニア市場でのスマートフォンの拡大が見込まれている。 その結果、特にグローバル携帯キャリアにおいては、3Gや4Gに向けた新たな電波の獲得や、新たなネットワーク整備にかかるコスト負担増を抑え、設備投資や運用コストをいかに効率的に管理するかが鍵となる。そのため、ネットワークの共同構築やネットワークの共用化などを含む、各市場におけるパートナーシップ戦略が、グローバル携帯キャリアにとって重要な位置づけを占めるようになるとみられる。こうした流れは、新たな合併買収や合併統合の契機を秘めており、携帯キャリアの世界的な合従連衡が進むことも予想される。

iPhoneに代表されるスマートフォンの台頭に伴い、3GやLTEといったネットワークの高度化が進展し、オープンプラットフォームをベースとしたスマートフォンによるモバイルブロードバンド利用が飛躍的に世界規模で拡大することが予想されるなかで、日本もこの大きな流れに飲み込まれつつあり、日本独自の進化を遂げたとされる超高機能携帯端末である「ガラケー」から世界標準のスマートフォンへのソフトランディングが模索されている。
このようなモバイル市場のグローバル化が進むなかで、日本企業としても国内市場が頭打ちの状況を鑑みれば、収益源を海外へ求める傾向は今後高まるであろう。そのため、国内市場での競争を中心とした業界構造から海外展開を視野に入れた業界再編や、グローバル市場での事業展開を強化することを目的とした事業買収や企業買収が進展することが見込まれる。東芝と富士通の携帯端末事業の事業統合(2010年6月)、日本の半導体メーカのルネサスによるノキアの無線モデム事業の買収(2010年7月)、NTTによる英国ITサービス企業であるディメンションの買収(2010年7月)は、まさにグローバル市場における生き残りをかけた動きである。もっとも、日本の携帯キャリアは、これまで主として資本参加を通じて海外市場に進出しており、NTTドコモはインド(Tata Teleservices)、バングラデシュ(Axiata)、フィリピン(PLDP)の携帯キャリアに、KDDIはバングラデシュ(bracNet)のISP 、米国のMVNO(Locus Telecommunications, Inc.、Total Call International, Inc.) と、それぞれ通信キャリア系への資本参加により海外収益事業の拡大を図っているところである。また、NTTドコモでは、2009年にドイツの携帯コンテンツ配信会社(ネット・モバイル)へ資本参加し、2010年には、米国の動画再生ソフト会社(パケットビデオ)を買収している。今後、日本企業は、グローバル市場で戦うために、自身の強みと弱みを見極め、相互補完の関係が構築できる、戦略的な事業・企業買収(M&A)、あるいは資本参加をさらに活発化することが予想される。

世界的に見れば、3Gの普及とスマートフォン需要の拡大は、現状では、SNSやWebブラウジングをモバイル環境でも実現したいとする、欧米等のネット利用先進ユーザが牽引しているものである。しかし、この流れは、2015年頃には、インターネットの普及率が低い途上国にも広がり、パソコンではなくスマートフォンがインターネットへのアクセス手段となり、途上国のインターネット普及率上昇に、スマートフォンが大きな役割を果たすことが予想される。
一方の日本では、販売奨励金による「ガラケー」販売の終焉により、国内の端末市場の成長性が頭打ちとなり、海外市場へ活路を見い出す必要に迫られるであろう。2015年頃には、日本の端末ベンダーは、規模の経済を活かした端末開発を実施する結果、世界で売れるスマートフォンが日本で流通することになり、日本の携帯端末市場はスマートフォン中心の市場になると予想される。ただし、端末は世界共通仕様のスマートフォンであっても、サービスやアプリケーションは携帯キャリアが日本仕様に独自に構築するため、特にキャリア課金、マーケット管理、アプリのレコメンド機能の分野で、携帯キャリアの依然として重要な役割を果たすことになる。
モバイルネットワークについては世界的にLTEに収斂しているが、TDD帯域をめぐってはLTE(TD-LTE)とWiMAXの攻防が繰り広げられることが予想される。しかし、最終的にはFDDであれTDDであれLTEが世界市場を席巻する可能性が見込まれる。その結果、2015年頃には、2Gと3G又はLTEのデュアルモードが主流となり、音声とデータをネットワークで使い分けることになると見られる。ただし、スマートフォンでのVoIP利用の普及状況や、LTEでの音声通話の実現のタイミングによっては、2Gから3G/LTEへの完全な移行が進む可能性も否定できない。3G/LTEへの移行により使われなくなった2G(特に欧州におけるGSM)は、テキスト通信を主目的としたスマートメーターなどのM2M機器や、緊急時における音声通話として公共安全機関が使用することが見込まれる。また、携帯キャリアがサービス・アプリケーション開発への資本投入を強めることに伴い、キャリア間での基地局設備やネットワークの共用化や、ネットワーク管理業務のアウトソーシングが、世界的に進展することが予想される。
2015年のLTEの本格到来により、低遅延性を活かしたリアルタイム性が要求される分野で、ネットワーク側で処理するクラウド型サービスや、位置・空間情報を活用した現実世界と仮想世界の融合サービスが普及することが予想される。また、これらのサービスは、HTML5の登場により、Webを基盤としたアプリケーション利用が一般化し、端末上での汎用アプリは必要なくなる時代になると見込まれる。さらに、LTEはビットコストを安くしてリッチコンテンツの流通・拡大を可能とすることから、携帯キャリアのビジネスは、従来のトラフィックビジネスから、位置・空間・移動等に関するデータや情報を収集・加工・分析し、価値化してユーザや企業に提供するデータビジネスへと移行する動きが高まり、認証機能や、匿名化や統計化による個人情報管理機能の徹底が一層重要になってくると見られる。

本報告書は、2015年の世界のモバイルブロードバンド市場予測に資することを目的に、世界のモバイル市場を把握するとともに、各国・事業者のモバイル動向を総覧できるよう、取りまとめている。また、今後台頭が予想されるスマートフォンの世界動向を概観し、2015年のモバイル市場について携帯端末、ネットワーク、サービスの観点からの予測を試みた。

目 次
第1章 世界のモバイル市場現況
1-1 世界の携帯普及率
1-2 世界の3G比率
1-3 世界のHSPAの普及状況
1-3-1 HSPA導入状況
1-3-2 GSM900でのHSPAの導入状況
1-4 世界のLTEの普及状況
1-4-1 LTE導入状況
1-4-2 TD-LTEの動向
1-4-3 世界初のLTE商用サービス
1-5 世界のモバイルWiMAXの普及状況
1-5-1 概要
1-5-2 モバイルWiMAX事業者
1-6 モバイルブロードバンドの周波数割当てをめぐる世界動向
1-6-1 概要
1-6-2 アナログ跡地の再編
1-6-3 GSM900の再編
1-6-4 450MHz帯のLTE利用
1-6-5 オークション市場へのベンダーの参入
1-6-6 公共セクターの周波数再編
第2章 モバイル市場の各国・事業者概況
2-1 モバイル市場の各国概況
2-1-1 中国
2-1-2 インド
2-1-3 ベトナム
2-1-4 バングラデシュ
2-1-5 パキスタン
2-1-6 UAE
2-1-7 ナイジェリア
2-1-8 英国
2-1-9 フランス
2-1-10 ドイツ
2-1-11 米国
2-1-12 カナダ
2-1-13 ブラジル
2-1-14 アルゼンチン
2-2 モバイルキャリアの事業概況
2-2-1 ハッチソンワンポア(香港)
2-2-2 中国移動(中国)
2-2-3 Bharti Airtel(インド)
2-2-4 Axiata Group(マレーシア)
2-2-5 Etisalat(UAE)
2-2-6 MTN Group(南アフリカ)
2-2-7 Vodafone Group(英国)
2-2-8 Orange(フランス)
2-2-9 T-Mobile(ドイツ)
2-1-10 Telefonica(スペイン)
2-1-11 Telekom Austria(オーストリア)
2-1-12 KPN Mobile(オランダ)
2-1-13 Turkcell(トルコ)
2-1-14 Verizon Wireless(米国)
2-1-15 AT&T Mobility(米国)
2-1-16 Sprint Nextel(米国)
2-1-17 America Mobil(メキシコ)
第3章 モバイルサービス・端末市場の世界動向
3-1 モバイルサービスの世界動向
3-1-1 モバイルキャリアのコンテンツサービス
3-1-2 国際ローミングサービス
3-1-3 モバイルバンキング/マネーサービス
3-1-4 モバイル広告
3-1-5 モバイルソーシャル・ネットワーキング
3-1-6 モバイルヘルスケア
3-1-7 マシン・ツー・マシン
3-1-8 位置情報サービス
3-2 オープンモバイルプラットフォームの市場概要
3-3 アプリケーションストアの世界動向
3-4 モバイル端末市場の世界動向
3-4-1 スマートフォンの市場動向
3-4-2 スマートフォンの企業戦略
第4章 2015年の世界のモバイルブロードバンド市場予測
4-1 携帯電話端末のゆくえ
4-1-1 世界のケータイ市場のゆくえ
4-1-2 我が国のケータイ市場のゆくえ
4-2 モバイルネットワークのゆくえ
4-2-1 LTEに収斂する世界のモバイル市場
4-2-2 GSMと3G/LTEの共存
4-2-3 TDDバンドをめぐるWiMAXとLTEの攻防
4-2-4 ネットワークの共用化とアウトソーシング
4-3 モバイルサービスのゆくえ

執筆者
中田 一夫 電波利用調査部 部長
佐川 永一 電波利用調査部 研究主幹
飯塚 留美 電波利用調査部 主席研究員
木賊 智昭 電波利用調査部 副主席研究