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一般財団法人マルチメディア振興センターでは、ICT分野の発展に資することを目的として、ICT分野の政策・制度整備、市場開拓・拡大、技術発展、社会での利活用といった視点からテーマを設定して、調査研究を行っています。主要な研究テーマについては、研究報告書としてとりまとめています。
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2010.10.01

  • 最新研究
  • 坂本 博史
  • 高橋 幹
  • 田中 絵麻
  • 劉 雪雁

ネット・サービス拡大要因の解明と関連政策動向に関する調査研究

インターネットの商用利用が解禁されてから15年以上が経過、ネット・サービスは先進国の先進ユーザーのみならず、一般利用者にも日常的に利用されるようになり、世界各国でも利用が拡大しているところである。なかでも、インターネット発祥の地の米国では、新旧併せて多くのネット・サービス事業者が活躍、Googleを始めとする大手ネット・サービス事業者も日々新たなサービスや製品を発表しているほか、次々に新興ネット・サービス事業者が誕生している。また、インターネット関連の政策でも米国は注目されてきた。米国では、早くは、1993年にクリントン政権が全米情報基盤(National Information Infrastructure: NII)構想を打ち出したほか、1996年には通信と放送の融合や通信市場の競争促進を規定した「1996年電気通信法」が成立するなど、インターネット時代を先取りする制度整備を行ってきた。
こうした米国のネット・サービス分野の成功については、シリコンバレーにおける産業集積や、ベンチャー・キャピタルによる先行投資が米国のネット・サービスの立ち上がりに寄与していると指摘されている。政策的には、インターネットに対する規制を最小限にしつつ、既存の通信市場やメディア市場における競争促進政策が市場の再編に影響を与えてきた。なお、2000年末のITバブルの崩壊後には、ネット・サービス事業者は大きな打撃を受け、市場から撤退した事業者も多かったものの、その数年後にはブロードバンドの普及拡大を背景に、大手事業者の収益性も改善し、新規事業者による市場参入も回復した。結果、GoogleやAmazonなど、売上高が100億ドルを超える企業へと成長したネット・サービス事業者も出てきた。また、米国のネット・サービス事業者は海外展開への事業展開も積極的であり、海外での利用者も多い。さらに、この数年は、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)事業者が台頭している。
米国におけるネット・サービスは、数年毎にその主役が交代するというスピードの速い市場である。だが、商用化後20年近く、ブロードバンドが登場してから約10年が経過しており、数年間の短期的な視点のみならず、10年~20年のタイム・スパンでの中期的な視点から、米国のネット・サービス事業者や政策を分析することができるようになってきた 。このように、中期的な視点からみることによって、米国のネット・サービスの変遷と拡大の様子を浮き彫りすることができると思われる。
そこで、本調査研究では、米国の主要なネット・サービス事業者を取り上げ、各社がどのように事業を展開・拡大してきたのか、言い換えれば、利用者を獲得してきたのかについて調査した。その際、米国におけるネット・サービスの拡大は、事業者間の市場競争が活発であったことも寄与しているとの仮説を立て、ネット・サービスの競争状況を概観した上で、主要各社のサービスの利用動向、事業展開、事業戦略(競争戦略、サービス戦略、国際戦略)を分析した。また、米国では、ネット・サービス事業者間の競争のみならず、ネット・サービス事業者以外の事業者(異業種)のネット・サービスへの参入も活発である。異業種事業者による市場参入により、事業者間の競争関係が複雑化している。こうした事異業種間競争における複雑な競合関係や合従連衡なかから多様な新サービスが登場し、ネット・サービスの高度化、多様化をもたらしていると考えられる。そこで、Googleの動向を中心に、ネット・サービス巡る異業種間競争の状況についても整理した。関連政策については、インターネットとブロードバンドの普及過程と照らし合わせつつ、主な動向を取り上げた。なお、本報告書は、以下のような章立てとなっている。
・米国のネット・サービスを牽引してきた事業者を抽出(第1章)
・各事業者の事業戦略を分析(Google、Microsoft、Amazon、Yahoo!)(第2章)
・異業種競争戦略を分析(Googleのケース・スタディ)(第3章)
・米国のネット・サービス関連政策の時系列展開の分析(国内政策、国際政策)(第4章)
・米国のネット・サービス拡大要因の分析(第5章)
 本調査研究結果からは、当然のことながら、インターネットの利用拡大に伴って、米国の各社のネット・サービスの利用者数が増加していた。また、ネット・サービスの利用者数は先進国では飽和するものの、先進国においてもブロードバンドや無線ブロードバンドの利用者数拡大の余地が大きいと言える。
米国では、ネット・サービス事業者間の競争が激しく、1999年現在の利用者数ベースでみた上位15社のうち、2009年にはその約3分の2が入れ替わっていた。また、主要事業者のサービス展開からは、ネット・サービスの急速な発展には、各社が相互にサービスを模倣する模倣戦略と、他社が提供していないサービスに注力する差別化戦略の両方が影響していると考えられる。また、各事業者がサービス展開の早期から国際市場に積極的に進出したばかりでなく、中期的に国際市場開拓に取り組みみ、徐々に国際市場からの売上比率を向上させていた。しかし、全てのネット・サービス事業者が自社のサービスに利用者を集めることに成功したわけではなく、より安価により利便性の高いサービスを提供しつづけることができた事業者-利用者のロックインに成功した事業者-のみが、利用者数を拡大しつづけていった。また、これらの事業者は、ネット広告やネット小売りなど、新たなビジネスモデルの確立に成功した事業者でもある。
 言い換えれば、米国のネット・サービス事業者のうち、大手事業者として生き残る、もしくは新規参入に成功して大手事業者に成長した事業者は、インターネットの利用者数の成長率よりも高い成長率で利用者を集め、収益性のあるビジネスモデルの開発に成功した事業者に他ならない。また、2000年代にはインターネットがナローバンドからブロードバンドへと転換する時期に該当しており、ブロードバンド対応のネット・サービスの開発と利用者ニーズを満たすことに成功したネット・サービス事業者が利用者を集めた。こうした事業者は、インターネット利用者数やブロードバンド利用者数の伸びよりも高い成長率を達成しており、同様のサービスを提供する競合他社との差別化に成功した事業者であったと言える。
 結果として、ある分野のネット・サービスにはある特定の事業者がその大部分の市場シェアを獲得するものの(オークションではeBay、検索サービスではGoogle、書籍のオンライン販売ではAmazon等)、ネット・サービス分野は多岐に亘るため、各分野で市場競争に生き残った強い事業者が乱立しているのが、米国のネット・サービス市場の特色となっている。その過程のなかで、各利用者が利用するサービスの種類や利用時間数も増加し、ネット・サービス市場全体が発展してきたと言えよう。
政策的な観点では、米国は、インターネットを非規制にしたばかりでなく、既存の通信分野やメディア分野の制度改革や競争促進を行い、新規サービスの参入機会を創出する将来指向(forward looking)の政策を採った。同様に、2000年にはデジタル時代に対応した著作権法を整備している。また、インターネットの利用者の増加に対応する形で、消費者保護政策を実施した。このように、米国では普及初期段階では市場環境整備を行う経済政策を重点的に実施し、普及中盤からは社会政策を強化するなど、普及段階に応じた施策を講じてきたと言える。国際政策としては、1990年代初頭に民間主導でインターネット関連の標準化や通信資源配分を行う体制を整えた。その後は、通信分野の自由化や国際機関における普及促進合意など、国際的な枠組みの中で、インターネットが発展していった。
以上のように、米国におけるネット・サービスの拡大においては、事業者の戦略に加えて、政策的な環境整備がプラスに働いたと考えられる。ただし、米国では、ブロードバンドの普及率に課題があるとの認識から、「国家ブロードバンド計画」(2010年3月)で、ブロードバンドの普及支援策と合わせて、政府部門、教育部門、エネルギー部門、医療部門といった公共部門における情報化もさらに推進することとなった。これは、インターネットのさらなる発展と普及には、サービス、インフラの両面に働きかけ、イノベーションのエコ・システムを構築していくということが必要であるとの認識に基づく施策となっている。
関連する動向として、近年、米国では、ネット・サービス事業者と機器メーカー、通信事業者間においては、競合関係もみられるものの、協力関係も活発化している。モバイル・サービス分野や放送サービス分野では、米国内外の複数の事業者間での協力による新サービスの開発と提供が進展している。このことは、これまで規模が小さいことが国際展開の課題となってきた日本のネット・サービス事業者にとっても市場拡大機会であると思われる。もともと日本のでは、分野の異なる複数の事業者が協力し新サービスを構築してきた。代表的なサービスとしては、iモードやアクトビラがある。こうしたモバイル・サービスや放送サービス分野は、洗練されたサービスが発展してきた分野である。こうした強みを生かし、日本でもネット・サービスのエコ・システムを国内外ともにさらに発展させていくことが可能ではないかと考える。
今後、先進国のみならず、中進国・途上国においても、ブロードバンド化やモバイル化が進展し、利用者数が増加していくことが予想されている。本稿で分析したように、ネット・サービスの規模を拡大し、収益を上げるまでには、利用者獲得とビジネスモデルの確立に向けた中期的な取り組みが必要である。ネット・サービス分野は、参入障壁は低いものの、継続的な投資やサービス開発が求められる。サービス開発については、自社開発、M&A、事業者間協力・提携など、多様な選択肢があるが、自社の中核サービスの確立と強化が重要であると言える。今後とも、ネット・サービス分野の動きは速いことが予想されるが、短期的な動向に注目しつつも、将来指向の中期的な観点からの事業戦略や政策立案も必要であると考える。


目次

はじめに
1 本調査研究の目的
2 ネット・サービス拡大要因分析のアプローチ
2-1 4つの分析アプローチ
2-2 本調査研究の分析アプローチ-ネット・サービス事業戦略と政策動向
3 分析方法
3-1 ネット・サービス企業の戦略分析
3-2 異業種企業との戦略比較
3-3 米国における関連制度の動向
4 報告書の構成

第1章 ネット・サービス拡大要因分析のフレームワーク
1-1 ネット・サービス市場の拡大-10年間の市場変化
1-1-1 ネット・サービス市場の拡大とは何か?-複数の視点
1-1-2 世界におけるネット利用者数と普及拡大予測
1-1-3 米国におけるネット・サービス利用者数
1-2 ネット・サービス事業者の戦略分析の視点
1-2-1 ネット・サービスの市場特性と事業戦略
1-2-2 ネット・サービス市場における事業戦略の分析視点

第2章 米国におけるネット・サービス企業の戦略分析
2-1 Google-検索サービスによるグローバル・コンシューマー市場の開拓
2-1-1 企業概要
2-1-2 ネット・サービスの利用状況
2-1-3 事業内容
2-1-4 企業戦略
2-1-5 財務状況
2-1-6 Googleの企業戦略のまとめ
2-2 Microsoft-基幹ソフトを基盤とした事業分野の多角化の推進
2-2-1 企業概要
2-2-2 ネット・サービスの利用状況
2-2-3 事業内容
2-2-4 企業戦略
2-2-5 財務状況
2-2-6 Microsoftの企業戦略のまとめ
2-3 Amazon-「顧客中心主義」のネット小売りの雄
2-3-1 企業概要
2-3-2 ネット・サービスの利用状況
2-3-3 事業内容
2-3-4 企業戦略
2-3-5 財務状況
2-3-6 Amazonの企業戦略のまとめ
2-4 Yahoo!-検索サービスとポータル・サービスの先駆者の陰り
2-4-1 企業概要
2-4-2 ネット・サービスの利用状況
2-4-3 事業内容
2-4-4 企業戦略
2-4-5 財務状況
2-4-6 Yahoo!の企業戦略のまとめ

第3章 ネット・サービスの異業種間競争-Googleの挑戦とその課題
3-1 ネット・サービスを巡る異業種間競争
3-2 通信サービスへの進出とその課題-通信事業者との異業種間競争
3-2-1 IP電話サービスへの進出-IP電話サービス「Google Voice」の概要
3-2-2 IP電話サービスを巡る異業種間競争の現状
3-2-3 IP電話サービス提供におけるGoogleの戦略と課題
3-3 モバイル市場への進出とその課題-端末事業者との異業種間競争
3-3-1 モバイル市場への進出-OS、端末、サービスの統合
3-3-2 モバイル市場を巡る異業種間競争の現状
3-3-3 モバイル市場におけるGoogleの戦略と課題
3-4 ネット動画配信を巡る異業種間競争
3-4-1 ネット動画配信市場への進出-利用者参加型サービスの買収
3-4-2 ネット動画配信市場を巡る異業種間競争の現状
3-4-3 ネット動画配信市場におけるGoogleの戦略と課題
3-5 垂直統合モデルへの参入障壁-Googleの異業種競争戦略の課題

第4章 米国のネット・サービス関連政策-国内政策と国際政策の展開
4-1 米国の国内関連政策の展開
4-1-1 第1期 普及前史(1970年代~)-政策枠組みの決定と「非規制」
4-1-2 第2期 普及初期(1990年代~)-商用利用解禁と情報基盤整備構想
4-1-3 第3期 普及拡大期(1990年代後半~)-制度整備と利用促進策
4-1-4 第4期 国際普及期(2000年代~)-国際化する制度的課題
4-1-5 第5期 規模拡大期(2000年代後半~)-プラットフォーム関連政策
4-1-6 第6期 普及支援期(2010年前後~)-普及支援と新市場創出政策
4-2 米国のネット・サービスの国際展開の制度枠組み
4-2-1 第1期 黎明期(1980年代-1990年代前半)
-デファクト標準化の確立期
4-2-2 第2期 拡大期(1990年代)-自由化の合意形成期と各国自由化の実施
4-2-3 第3期 普及期(2000年代)-中進国・発展途上国の普及拡大期
4-2-4 第4期 発展期(2000年代中盤~)
-サービス分野の拡大と関連標準化動向

第5章 ネット・サービス拡大要因のまとめと今後の方向性
5-1 ネット・サービスの多様化の進展と規模の拡大
5-1-1 ネット・サービスの変遷とサービスの多様化
5-1-2 サービスの多様化の要因-ネットワーク外部性とサービス・イノベーション
5-2 ネット・サービス事業者のサービス分野の変遷
5-2-1 Googleの事業分野の推移
5-2-2 Microsoftの事業分野の推移
5-2-3 Amazonの事業分野の推移
5-2-4 Yahoo!の事業分野の推移
5-3 米国におけるネット・サービス関連政策の特色と課題
5-3-1 国内関連政策の特色-技術政策、経済政策、社会政策
5-3-2 国際関連政策の特色
-インターネット・ガバナンスと市場主導型の普及促進
5-3-3 米国のネット・サービス関連政策のフレームワークの特色
5-4 米国のネット・サービス拡大要因のまとめと今後の方向性
5-4-1 米国のネット・サービス拡大要因のまとめ
5-4-2 ネット・サービスの今後の方向性―ソーシャル化とモバイル化
5-4-3 米国におけるネット・サービスのエコ・システムと日本への示唆

執筆分担
田中 絵麻(情報通信研究部):はじめに、第1章、第2章2-3、2-4、第3章~第5章
高橋 幹 (情報通信研究部):第2章2-2
坂本 博史(情報通信研究部):第2章2-1
劉 雪雁 (情報通信研究部):第2章(海外戦略のうち中国市場進出部分)