EUのデジタルプラットフォーム事業者関連規制にみられるデジタル市場における競争政策デジタルプラットフォーム(DPF)は、技術⾰新を通じて消費者及び事業者に多⼤な便益をもたらす⼀⽅、市場⽀配⼒の集中、不透明な取引慣⾏、データの囲い込み、違法・有害コンテンツの拡散といった新たな社会的課題を顕在化させている。特に、データとアルゴリズムを活⽤したビジネスモデルは強⼒なネットワーク効果を⽣み出し、「勝者総取り(Winnertakes-all)」の状況を固定化しつつある。
欧州連合(EU)は、これらの課題に対し、従来の競争法(TFEU の第101 条、102 条)による事後規制に加え、デジタル市場法(DMA)及びデジタルサービス法(DSA)という強⼒な事前規制・リスク管理規制を導⼊し、法執⾏を強化している。特にDMA は、巨⼤プラットフォーマーをゲートキーパーと指定し、⾃⼰優遇の禁⽌や相互運⽤性の確保を義務付けることで、競争環境の構造的な是正を図っている。また、⼀般データ保護規則(GDPR)違反を競争法上の濫⽤として認定する司法判断も確定し、規制の枠組みは相互に補完し合う形で進化している。
⼀⽅、我が国においても、「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に
関する法律(透明化法)」の運⽤に加え、2026 年に本格施⾏を迎えた「スマートフォンにおいて利⽤される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律(スマホソフトウェア競争促進法)」等、新たな規律が導⼊されている。
本報告書は、⽇欧の制度⽐較及びGAFA 関連の主要紛争事例の詳細な分析を通じ、我が国の競争政策への⽰唆を導出したものである。調査の結果、以下の結論を得た。
第⼀に、規制⼿法の転換である。従来の⾃主規制・共同規制中⼼のアプローチから、EU 同様の強⼒な事前規制(Ex-ante)への部分的移⾏が進⾏中である。第⼆に、執⾏体制の強化である。仮にDMA のような強⼒な規制を運⽤するためには、技術・経済・法律の⾼度な専⾨性を有する執⾏体制の拡充が不可⽋である。特に、正当化事由等の技術的評価能⼒が問われるであろう。第三に、消費者救済の必要性である。EU のDSA に⾒られるような、DPFのシステム設計責任を問うアプローチや、消費者による裁判外紛争解決⼿続(ADR)等への容易なアクセスの提供等についても我が国においても検討されるべきである。
これらの分析から、我が国では、省庁横断の「統合的なデジタル戦略」の策定、モバイルOS以外(広告、SNS 等)への新たな規制やその⼿法、消費者救済メカニズムの強化等について検討を開始すべきであろう。
(報告書内容)
はじめに
第1 章 我が国におけるDPF 規制の動向
1−1 基盤的規制(競争法・事業法等)
1−2 消費者保護規制
1−3 特定の⽬的をもって新たに⽴法された法律(特定新法)
1−3−1 特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律
(透明化法)
1−3−2 取引デジタルプラットフォームを利⽤する消費者の利益の保護に関する法
律(取引DPF 消費者保護法)
1−3−3 スマートフォンにおいて利⽤される特定ソフトウェアに係る競争の促進に
関する法律(スマホソフトウェア競争促進法)
1−3−4 特定電気通信による情報の流通によって発⽣する権利侵害等への対処に関
する法律(情報流通プラットフォーム対処法)
1−4 我が国のDPF 関連規制に係る罰則⾯での特徴
第2 章 欧州(EU)におけるDPF 規制の現状
2−1 EU 競争法
2−1−1 Google Shopping 事件(2017 年決定、2024 年確定、T-334/19)
2−1−2 Google Android 事件(2018 年決定、AT.40099)
2−1−3 Google AdSense 事件(2019 年決定、AT.40411)
2−1−4 Apple アンチステアリング条項事件(2024 年決定、AT.40437)
2−2 DSA
2−2−1 Amazon 及びZalando 事件(2023 年決定、2025 年確定)
2−2−2 X への透明性義務違反(2025 年決定)
2−3 DMA
2−3−1 Apple App Store 事件(AT.40437、2025 年決定)
2−3−2 Meta 同意事件(2025 年決定、DMA.100055)
2−3−3 Meta ドイツ競争法違反事件(C-252/21)
2−4 GDPR と消費者保護法制
2−4−1 GDPR
2−4−2 加盟国各国の消費者保護法制
2−5 その他関連規制
2−5−1 電⼦商取引指令(2000/31/EC、Directive on Electronic Commerce:ECD)
2−5−2 オーディオビジュアルメディアサービス指令(2010/13/EU、Audiovisual
Media Services Directive:AVMSD)
2−5−3 P2B 規則((EU) 2019/115、Promoting Fairness and Transparency for
Business users of Online Intermediation Services:P2B)
2−5−4 デジタル単⼀市場における著作権指令((EU) 2019/790、Directive on
Copyright in the Digital Single Market:DSM)
第3章 DPF 関連の競争政策に係る⽐較分析と我が国への⽰唆
3−1 情報流通プラットフォーム対処法とDSA の⽐較
3−2 スマホソフトウエア競争促進法とDMA の⽐較
3−3 我が国への⽰唆となる検討
附録 主要紛争事例の概要
附録1 Google Shopping 事件(AT.39740)
附録2 Google Android 事件(AT.40099)
附録3 Google AdSense 事件(AT.40411)
附録4 Apple アンチステアリング条項違反事件(AT.40437)
附録5 Meta のGDPR 違反とデータ結合事件(C-252/21)
附録6 Google Spain 対 Mario Costeja González 事件(C-131/12)
附録7 フランス競争・消費者・詐欺防⽌総局(DGCCRF)によるApple への制裁⾦
附録8 イタリア競争当局(AGCM)によるApple 及びSamsung への制裁⾦
附録9 消費者団体等によるAmazon プライム解約改善
附録10 Zalando SE とAmazon のVLOP 取消し事件(T-348/23、T-367/23 R)
附録11 ルイ・ヴィトン他対Google France 事件(C-236/08〜C-238/08)
附録12 ロレアル(LʻOréal SA(UK))対eBay 事件(C-324/09)
附録13 Frank Peterson 対YouTube 他(C-682/18)
附録14 Google、Amazon 他対イタリア規制当局C-662/22〜C-667/22)
附録15 Facebook ユーザ対Meta 事件(05 O 2351/23)
(執筆者)
上⽥ 昌史 (調査研究部 上級研究員)
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