中国と韓国では、5Gなど高度なICTインフラを背景に、AIを活用したスマート教育が国策として推進されてきた。本調査研究では、両国の政策および市場動向を整理し、日本の政策への示唆を得ることを目的とする。
中国は「教育情報化2.0」(2018年)以降、「AIによる教育強化アクション」(2024年)や「教育強国建設規画綱要」(2025年)など、中央と地方が連動した体系的な政策により教育デジタル化を強力に推進している。産業界では、科大訊飛(iFLYTEK)が音声対話可能なバーチャル教員を開発し、10万以上のクラスに導入されるなど、大規模な実装が進展している。通信事業者では、中国移動が「LIGHT灯台」と呼ばれるフレームワークを導入している。LIGHTは、Link(接続)、Intelligence(学習指導)、Guard(安全)、Hatch(産研連携)、Teamwork(エコシステム)の五つの中核能力を示す造語で、AIと教育の融合を推進する取組みとなっている。
一方、韓国では、世界初を掲げて導入されたAIデジタル教科書が、政権交代の影響を受け、導入からわずか1学期間で廃止される結果となった。十分な効果検証を経ず、政策立案から導入までの期間が極端に短かったことが主要因である。また、開発に多額の投資を行った教科書会社が損失を抱え提訴するなど、産業界にも大きな混乱が生じた。韓国のEduTech市場は中小企業が多数を占め、公教育参入の壁が高いことから、12歳以下向け・外国語・リスキリングなど民間領域が中心となっている。AI活用の新規性の有無によってスタートアップの成長に明暗が分かれ、ポストコロナ期には投資の選別が進んでいる。通信事業者も子ども向け教育サービスや、学校向けAI校務支援ソリューションなど、新規性あるサービスを通じて公教育分野への参入を模索している。
中韓を比較すると、両国とも国策レベルでAI教育を重視している点は共通しているものの、政策の方向性、実装状況、産業界との連携体制には違いが見られる。中国はインフラ整備からAIリテラシー育成まで一体的に推進しているのに対し、韓国は拙速な導入が失敗につながったことが大きな特徴である。今後、日本がAI教育を推進するにあたっては、十分な検証と現場の声を重視しつつ、AI導入に伴うサイバー攻撃や依存症などのリスクへの対応を強化し、AIを活用した教育の質的向上を図ることが望まれる。
(報告書内容)
■はじめに 問題意識と目的
■中国におけるスマート教育政策・市場動向
■韓国におけるスマート教育政策・市場動向
■中韓市場の政策・サービス動向比較
■おわりに 日本への示唆
■【参照資料】
(執筆者)
三澤 かおり(調査研究部 研究主幹)
裘 春暉(調査研究部 主席研究員)
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