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調査研究成果

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2025.04.14

  • 最新研究
  • 米谷 南海

動画配信時代のスポーツ放映(前編)-放映権ビジネスとユニバーサルアクセス権-

 近年、放送の独壇場であったスポーツ放映権市場に動画配信が参入している。欧米では市場・制度面への影響や対応策について議論が始まっているが、日本では動画配信時代のスポーツ放映について論じる調査研究は実施されていない。これを踏まえ、本調査研究では、日本におけるスポーツ放映の商業的・社会的価値を再評価し、その在り方を見直すための定性的・定量的データを提供することを試みた。具体的には、スポーツ放映権ビジネスの先端を拓く米国と、政策議論の先端に立つ欧州の動向を整理したうえで、日本のスポーツ放映の実態や特徴を明らかにした。 具体的な調査研究成果は以下のようにまとめられる。
 米国の最新市場動向:放送事業者はこれまで報道やスポーツ放映といった「ライブ性のあるコンテンツ」を武器にオンデマンド動画配信との差異化を図ってきたが、動画配信がスポーツ放映権市場に参入しライブ動画配信が台頭したことで、放送の優位性が揺らぎ始めている。また、動画配信の参入が視聴者に及ぼす影響としては、視聴方法の選択肢拡大というポジティブなものと、視聴方法の煩雑化や視聴費用の高額化といったネガティブなものがある。
 欧州の最新政策動向:放送事業者に対して主要なスポーツ行事を無料であまねく放送することを義務付けるユニバーサルアクセス制度を、動画配信に適用させるための見直しが進んでいる。ただし、見直し議論の論点や動画配信へのアプローチ方法には国によって相違がみられる。本調査研究では、英国、オランダ、オーストラリアにおける制度見直しについて取り上げた。
 日本の現況と課題:日本ではユニバーサルアクセス制度がないにもかかわらず無料放送でのスポーツ放映が一般的であったが、昨今、放映手段は「無料」から「有料」へ、「放送」から「動画配信」へと移行しつつある。本調査研究の一環として独自に実施したアンケート調査では、若年層と高年層における潜在的な「スポーツ視聴弱者」の存在も浮き彫りになった。そのようななか、地上放送事業者やスポーツ組織からは無料放送機会の減少を懸念する声が上がっているが、スポーツ視聴弱者対策のための政策議論は実施されていない。
 今後の展望:わが国の「2011年スポーツ基本法」で謳われている、スポーツに関する基本理念に照らし合わせると、スポーツ視聴弱者対策の検討は重要かつ喫緊の課題である。ただし、欧州のユニバーサルアクセス制度を日本にそのまま導入するには高いハードルがある。日本では、放送と動画配信によるメディアの壁を越えた協業体制を業界合意として形成するなど、法的規制によらない独自の方策を模索することも検討すべきと考える。
 
(報告書内容)
■問題意識と目的
■スポーツ放映の概略史
■米国の最新市場動向
■欧州の最新政策動向
■日本の現況と展望
■参考資料
・付録(アンケート調査結果)
・参考文献
 
(執筆者)
米谷 南海(調査研究部 上級研究員)

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