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2021.12.01

  • 最新研究
  • 裘 春暉
  • 三澤 かおり
  • 米谷 南海

With/Afterコロナ時代における国内外のOTT-V動向

 世界の動画配信サービス(OTT-V)利用者数は2020 年、コロナ禍の巣ごもり需要を追い風に前年比26%増の11 億人に達した。特に利用者数を伸ばしているのはグローバル展開に積極的な米国製OTT-V で、諸外国では米国製OTT-V から自国の放送産業、コンテンツ産業、ひいては文化を保護する目的でOTT-V 規制を導入・検討する動きが本格化している。一方、日本においては、OTT-V 関連議論として地上放送の常時同時配信を巡り国内放送市場の競争環境に関する議論はあったものの、グローバルな競争状況を視野に入れた政策議論は十分になされていない。
 そこで本報告書では、日本においてOTT-V がどのように利用されているのか、特に視聴者と米国製OTT-V の関係性に焦点を当てながら検討し、日本のOTT-V 政策議論の基礎となる材料を提供することを目指した。具体的には、文献調査を通して国内外のOTT-V 市場・政策動向を整理したほか、全国アンケート調査(2021 年6 月実施)を通して日本におけるOTT-V 利用実態を分析し、それらのデータをもとに我が国におけるOTT-V 政策の方向性について若干の考察を加えた。
 本報告書は全7 章で構成される。各章の要旨は以下の通りである。
 
第1章「はじめに」
 本研究の概要(背景・問題意識・目的・方法)を説明し、本報告書で使用される用語の定義を示した。
 
第2章「世界のOTT-V 市場・政策動向」
 グローバル展開する米国製OTT-V の躍進を受け、諸外国ではOTT-V 規制を導入・検討する動きが本格化している。議論のポイントとなっているのは、大手米国製OTT-V から自国産業をどのように保護するかという点であり、特に、放送事業に課されている規制がOTT-V 事業には課されていないという「規制の非対称性」が問題視されている。なお、欧米のOTT-V 市場は既に成熟期を迎え、今後はアジアがOTT-V 市場の主戦場となることが見込まれている。大手米国製OTT-V も2020 年頃からアジア戦略を本格始動している。
 
第3章「韓国のOTT-V 市場・政策動向」
 韓国では、OTT-V が今後最有力のメディアプラットフォームになると認識されており、官⺠両セクターがその育成に注力している。特にNetflix 対抗が目標として掲げられ、政策面では、OTT-V 分野におけるコンテンツ制作支援、規制最少化、国内プラットフォーム支援が講じられている。市場面においては、国内OTT-V 二強とされるTving とwavve が2022 年から段階的に海外展開を進める計画である。
 
第4章「中国のOTT-V 市場・政策動向」
 中国では、OTT-V 市場の将来性を見据え新規参入を試みる事業者が相次いだ。特に愛奇芸、騰訊動画、優酷をはじめとするOTT-V 事業者の間では激しい競争が繰り広げられ、市場拡大に寄与している。ただし、政府は映像メディアサービスをコントロール下に置く方針を徹底しており、OTT-V に対しても、参入制限やコンテンツ許可制等、既存放送サービスと同程度の厳しい規制を設けている。
 
第5章「日本のOTT-V 市場・政策動向」
 日本は2015 年に「OTT-V 元年」を迎え、2021 年現在のOTT-V 利用率は50%を上回る。複数の事業者が協力して一つのOTT-V プラットフォームを提供する事例もあるが、多くの場合は各事業者がそれぞれにプラットフォームを運営しており、多数の競合がひしめき合っている。日本にはOTT-V を特別に規律する法律や規制は存在しない。また、IP ユニキャストであるOTT-V は「放送法」の対象外であり、放送事業者に課される参入規制や番組規律から免除されている。
 
第6章「日本のOTT-V 利用動向」
 2021 年6 月に実施した全国アンケート調査の結果を紹介した。全国アンケート調査には本調査A と本調査B の二つがある。本調査A は何らかの映像メディアサービスを利用している日本全国の男女を対象に実施したもので、①日本では地上放送が最もよく利用されているものの若年層を中心にOTT-V の利用が拡大していること、②最も利用されているOTT-V プラットフォームは、定額制OTT-V の場合は米国製、無料広告型OTT-V の場合は日本製であること、③最も視聴されているOTT-V コンテンツは日本製コンテンツであること、④OTT-V のオリジナル/独占配信作品への関心度が低いこと等が明らかになった。本調査B は2019 年に実施したコード・カッティング調査の定点調査である。ケーブルテレビ多チャンネルサービス又は定額制OTT-V の契約者本人を対象に実施したところ、①2021 年現在もコード・カッティングはほとんど起こっていないこと、②新規加入サービスとしてはケーブルテレビ多チャンネルサービスよりも定額制OTT-V が人気であること、③2019 年には低所得の若年層を中心に構成されていたコード・ネバー(Cord Never:これまでに一度もケーブルテレビ多チャンネルサービスに加入したことがなく、現在定額制OTT-V に加入している視聴者)が、2021 年には幅広い所得・年代層で構成されるようになったこと等が確認された。
 
第7章「おわりに」
 グローバル展開する米国製OTT-V の国内産業に対する影響について考察した。放送事業・OTT-V 事業間の規制の非対称性が他国ほど大きくない点や、視聴者が日本製コンテンツを圧倒的に好んでいる点に鑑みると、米国製OTT-V が直ちに国内産業に打撃を与えるとは考えにくいと思われる。ただし、中⻑期的には、日本のクリエイティブ資源が米国製OTT-V に流出するというネガティブな可能性も存在する。今後のOTT-V 政策の可能性としては、日本製OTT-V プラットフォームの海外展開支援がある。世界各地の日本コンテンツ・ファンをターゲットとする日本製OTT-V プラットフォームを官⺠連携で構築・育成し、米国製OTT-V に対抗できる国際競争力を強化することで、放送産業やコンテンツ産業のビジネス機会を確保しつつ、クリエイティブ資源の海外流出も阻止できると考える。
 
(執筆者とリンク)
米谷南海(ICT リサーチ&コンサルティング部 チーフ・リサーチャー)
第1、2、5、6、7 章担当
三澤かおり(ICT リサーチ&コンサルティング部 シニア・リサーチディレクター)
第3 章担当
裘 春暉(ICT リサーチ&コンサルティング部 シニア・リサーチャー)
第4 章担当