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2011.10.01

  • 最新研究
  • 飯塚 留美
  • 裘 春暉
  • 木賊 智昭
  • 楊 松

中国のICT発展動向分析

 本報告書は、中国のICT分野における最新動向について、政府の政策、事業者動向、および代表的なベンダーの取組みを中心に整理・分析し、日本企業のビジネス展開につながる有用情報の提示にしたいとしている。そのために、三つの章にわたり、約30のトピックを取り上げることにした。公式発表された市場基礎データの整理・分析にとどまらずに、可能な限り周辺情報も収集し、複合的な視点からの分析に基づき、分かりやすく解説を試みた。各章の主な概要は次のとおりである。
 第1章では、過去10年間にわたるデータを整理・分析し、ICT市場全体について概観した。同章では六つのトピックを取り上げた。まず、市場規模については、2000年以降の時系列およびクロスセクションデータをグラフ化し、中国において移動体通信による固定通信の代替傾向が日本以上に進行していることを示した。通信事業の重心が固定から移動へ移行したことは、政策立案、事業者やベンダーの取組み方にも影響を及ぼしており、後に取り上げられた多くのトピックに対する理解の助けにもなると考えている。
 また、第1章では、電子情報製造産業およびソフトウェア産業の発展状況にも触れており、国の育成政策も功奏して、両産業とも急成長を遂げている実態を明らかにした。その一方で、製造産業の場合は、付加価値の高い電子部品が依然日本からの輸入に頼っていること、ソフトウェア産業では、オフショアの発注元は主に日本であることから、両産業における両国間の緊密関係が浮き彫りとなっている。
 このほかにも同章では、IT分野におけるトップ100にランキングされた企業の特徴を概説した上で、電話とインターネット・サービスに関する普及・利用状況等を確認した。
 続く第2章では、中国のICT分野における技術力の向上を図る目的で、数年前から進められてきた「自主創新(セルフ・イノベーション)」政策、および同政策の実施によって得られた成果の実用化にかかわりの深いICT知財政策を取り上げた。ほかには、2010年において大きな進展を見せた政策として、「三網融合」の促進策および「家電下郷」政策についても概説した。「家電下郷」政策は実施してから4年目に入り、この間、中国国内企業のみならず、政策の条件をクリアした外資系企業も一定の市場シェアを確保することができたと見られる。
 第2章の第2節で取り上げたのは、ICT分野だからこそ依然多く適用されている規制政策(外資参入とコンテンツ)の関連内容である。同項目では、日系企業のビジネス展開の参考材料になるように、規制政策の内容だけではなく、その特徴や特徴をもたらした背景要因についても言及した。
 第3章では、六つのサービス(3G/LTE、NGN、モノのインターネット、CMMB、IPTV、デジタル放送)に関する最新動向を紹介したのに続いて、三つの通信事業者、三つのネット企業、そして二つのベンダーの生い立ちから直近の取組みまで、詳細に情報収集し・分析した。各種サービスの進展状況の紹介においては、外資系企業の参入可否をはじめ、既に参入されている企業の取組み状況について、先行事例として紹介した。
 事業者動向に関するセクションでは、まずは、国有通信事業者三社について、各社の顧客の獲得手法、付加価値サービスの導入、および新領域でのビジネス機会の獲得戦略、という三つの角度から分析した。
 ネット企業の代表として取り上げたのは、検索エンジン最大手の百度(Baidu)、インスタントメッセンジャー最大手のQQ、および電子商取引(EC)事業最大手のアリババの三社である。これらのネット企業の動向について日本で詳細に紹介された文献はまだ少ないことを踏まえ、本報告書は、三社に関する事情紹介だけではなく、この三つの事業分野への外資としての参入の可能性や留意点等に関しても解説を加えた。
 上記の個々のトピックを取り上げることによって収集・整理された大量の情報に基づき、本報告書の最終章にあたる第4章においては、中国ICT市場の特徴について5項目にまとめることにした。具体的には、基礎通信サービスは国有企業である通信事業者三社による提供に限定されていること;ICT分野においても地域間格差が顕著であること;同分野において中国の独自技術規格が相次いで導入されていること;ネット市場における大手各社はいずれも中国国内企業であること;華為(Huawei)とZTEの2社はますます競争力を高めていること、としている。
 これらの諸特徴を持ちながらも、中国のICT市場は近年、著しい成長を見せており、日本の同市場の発展レベルに近づきつつある。さらに2011年は、第12次5ヶ年規画がスタートする年にあたる。内需促進政策の推進により、国内消費の拡大が期待され、情報通信サービス分野への進出を図ろうとする日本企業にとっては、追い風ともとらえられる。
 本報告書は、日本企業が中国の同市場に進出するにあたって、既に進出した複数の日本企業の事例にも言及した上で、信頼のできる現地企業との連携が参入の前提条件であると指摘した。さらに、ビジネスの展開において、セグメント化された地域別、異なる消費者層別をターゲットした経営戦略は、ビジネスの成功の助けになると提言した。

■目次
第1章 ICT市場基礎データ分析
1-1 ICT市場規模
1-1-1 電気通信市場規模
1-1-2 電子情報製造産業の製造・輸出入状況
1-1-3 ソフトウェア産業動向
1-1-4 中国IT企業トップ100ランキング
1-2 ICTサービス契約数・普及率
1-2-1 電気通信サービス
1-2-2 インターネット・サービス

第2章 ICT政策概要
2-1 ICT産業振興政策
2-1-1 自主創新政策
2-1-2 ICT知財政策
2-1-3 「三網融合」促進政策
2-1-4 家電下郷政策
2-1-5 電子政府促進政策
2-2 ICT規制
2-2-1 外資参入規制
2-2-2 コンテンツ規制
2-2-3 ICT製品基準認証制度
2-2-4 国家標準・標準化活動・特許に関する動向

第3章 ICT市場動向
3-1 サービス動向
3-1―1 3G/LTE
3-1-2 NGN(次世代ネットワーク)
3-1-3 モノのインターネット(Internet of Things)
3-1-4 CMMB(China Multimedia Mobile Broadcasting)
3-1-5 IPTV
3-1-6 デジタル放送
3-2 事業者動向
3-2―1 通信事業者
(1)中国移動
(2)中国聯通
(3)中国電信
3-2-2 ネット企業
(1)百度
(2)QQ.COM
(3)アリババ
3-2-3 ベンダー
(1)華為技術(Huawei)
(2)中興通訊(ZTE)

第4章 中国ICT市場の特徴及び日系企業のビジネス展開について
4-1 中国ICT市場の特徴・課題
4-2 日系企業のビジネス展開について

■執筆者一覧
裘 春暉   情報通信研究部 上席研究員
楊 松    北京事務所 研究員
木賊 智昭  電波利用調査部 副主席研究員
飯塚 留美  同主席研究員