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調査研究成果

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2011.10.01

  • 最新研究
  • 宇髙 衛

開発途上国において特徴的な携帯アプリケーション・サービスの調査研究

 開発途上国における携帯電話の普及は、これまで電気通信サービスの恩恵に浴してこなかった人口層へサービスを供給することにより、社会や経済を変化させるインパクトを現実のものとしている。具体的な数字を見ると、約65億の世界人口に対し、2010年末に概算で世界的な携帯電話の加入数は約53億に達した。また、世界人口の90パーセントが携帯電話を利用可能で、ルーラルに生活する人口で見ても既に80パーセントがカバーされている。その意味では、携帯電話はコミュニケーションを実現することによって、その普及を拡大してきたといえる。一方では、今後さらに普及を加速化し、利活用を進めるためには、ICTセクター以外のとのコラボレーションが、社会変化の主要な推進力となると考えられる。
本研究においては、途上国での需要に訴求したアプリケーションやサービスについて考察する。中でもアフリカ各国において、需要を牽引しているとされている支払いサービスを含む金融サービスとのコラボレーションを中心に考察を行った。また、利便性を向上させることは、ユニバーサル・サービスの実現という理由以外にもネットワーク整備の必要性を喚起し、更なる普及をもたらす可能性が強い。
まず、第1章では、途上国における携帯電話の普及の現状と、特に新興国における経済発展の状況を概観した。経済発展については、その後の章での考察の関係から、特にインドネシア、フィリピン、ベトナムについて少し掘り下げて観察している。
第2章が本報告の中心で、各分野における携帯アプリケーションの展開について調査した。本報告で取り上げた分野は、電子商取引、金融、コミュニケーション、情報サービス、医療・保健、教育、行政事務の各分野である。
様々な分野での携帯アプリケーションの利用が、途上国においても急速に進行している。インフラの整備による通信速度の向上は、多様なアプリケーションの展開に欠かせないが、インフラが弱い地域においては、使用方法に工夫が凝らされて、様々な形での利便性の向上が図られている。たとえば、ショート・メッセージ・サービスを利用した送金などは、先進国では現れえない携帯の利用方法であろう。
ケニアやフィリピンでの例でみるように、単純送金機能を持たせるだけでも、金融系のアプリケーションやサービスが途上国の社会と通信インフラの拡充に与えるインパクトは確認されている。さらに、携帯に預金口座機能を持たせた場合、信用創造の機能が付け加わり、インパクトが更に拡大することは容易に想像できるし、そのことに気付いている国においては、通信を利用した金融ビジネスの展開が急速に進行している。今後の課題は、携帯端末環境では、どの程度PC環境と同様のサービスが提供できるのかというところにあると考えられる。
電子商取引の進展は、通信網の利活用を進めることは、先進国の例と同様である。これまで、途上国では電子商取引を進める上で大きな障害となっていたクレジットカードの普及が進んでいないといった問題は、携帯のプリペイド方式の隆盛によって、回避することができることが証明された。一方では、物流網の整備が進んでいない地域が広いことや、消費者保護の措置が整備されていないことが今後の課題となる。
他サービスについては、インパクトは大きくないものの今後、スマートフォンが普及してくると様々な可能性が考えられるし、スマートフォン自体が、ラジオやテレビに代わる各家庭の一台目の情報通信機器となる日も遠くないと考えている。
第3章では、実際に東南アジアの人口大国に輸出するにふさわしいアプリケーションやその使用法について、若干の考察を行った。東南アジアは、我が国企業がこれまで得意としてきた、丁寧な市場の開拓が意味を持つ市場だと考えられる。ここで、どれくらいBOP層やその少し上の層を丹念に掘り起こしていくかが、今後の日本企業の成長のカギを握っている。

■目次
序章 携帯電話の普及が変える世界

第1章 開発途上国における経済と携帯電話サービスの状況
1-1 携帯電話の急速な普及
1-2 新興国経済の成長

第2章 アプリケーションやサービスの提供状況
2-1 どのようなアプリを開発途上国ではこれから使うのか
2-2 電子商取引
2-3 金融
2-4 ソーシャル・ネットワーク・サービス
2-5 情報サービス
2-6 医療・保健
2-7 教育
2-8 その他(行政事務等)

第3章 今後のアプリケーションやサービスの展開

■執筆者一覧
宇高 衛 情報通信研究部 研究主幹