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2011.10.01

  • 最新研究
  • 藍沢 志津
  • 飯塚 留美
  • 坂本 博史
  • 高橋 幹
  • 木賊 智昭
  • 黒川 綾子
  • 佐川 永一

国家ブロードバンド戦略に関する国際動向調査
-無線周波数の利活用を中心に-

日本は、2015年ごろをめどに日本のすべての世帯におけるブロードバンド利用の実現を目標とする「光の道」構想に関する基本方針が、2010年12月に決定された。本基本方針では、インフラ整備に向けたサービス競争促進の観点から、NTT東西が保有する家庭へのアクセス回線などのボトルネック設備を、他社も同等に利用できるよう、NTT東西のボトルネック設備保有部門について、他の部門から人事や会計などの面で切り離す「機能分離」を行うため、具体的内容を早急に確定し、関係法律の改正案を次期通常国会に提出するとしている。また、加入光ファイバーの接続料についても、低廉化に向けて総務省およびNTTにおいて、2011年度以降の算定方法の見直しに向けた具体的な検討を早急に開始し、年度内をめどに成案を得るとしている。また、第4世代移動通信システムなどの新たな無線システムに関しては、諸外国で実施されているオークションの導入を視野に入れ、早急に検討の場を設けて議論を進めることも、基本方針として決定されているほか、新たな周波数を獲得する事業者による、既存の周波数利用者の移行費用の負担については、オークションの考え方を取り入れた制度を創設するため、関係法律の改正案を次期通常国会に提出するとしている。
ブロードバンドネットワークを全国隅々に国家規模で張り巡らす、いわゆる国家ブロードバンド計画ないし国家ブロードバンド戦略は、いわゆる「リーマンショック」から立ち直るための経済復興策として2009年2月に米国が公表した「米国再生・再投資法」を契機として、世界的な広がりを見せている。米国では同法により、合計72億ドルの補助金をブロードバンド整備に投じるとし、2010年3月に議会に提出された「国家ブロードバンド計画」では、1億世帯以上の世帯に2020年までに100Mbps以上の安価なブロードバンドを利用できるようにするほか、「コネクトアメリカ基金(CAF)」を創設し、4Mbps以上の下り回線をユニバーサルブロードバンドとし、米国民全てがブロードバンドにアクセスできる環境を整備するとしている。
英国でも、米国と同じ2009年に、「デジタルブリテン」が公表され、2017年までにNGAN(Next Generation Access Network)を整備し、市場原理が働かないルーラル地域では、「次世代基金(NGF)」から事業者に補助金を出すなどの方針が示された。しかし、英国ではその後、政権交代により基本戦略が刷新され、現在では、2010年12月に公表された「英国の超高速ブロードバンドの未来」によって基本方針が示されている。同方針では、ブロードバンドの未整備エリア対策費として8.3億ポンドの公的資金を投入し、2015年までに全ての世帯に下り2Mbpsを提供するほか、2015年までに光ファイバ網を全国の3分の2の世帯に拡充するために、光ファイバ・アクセス網のアンバンドリングと、電柱・管路の開放を義務化するとしている。また、未整備エリア対策費8.3億ポンドのうち、6億ポンドをBBCのテレビ受信許可料から捻出するとしており、オンライン映像配信サービスが急速に拡大しているBBCにインフラコストを負担させる方針が特徴となっている。
フランスやドイツでも、景気刺激対策として、国家ブロードバンド網の整備計画に対して、政府の補助金が使われ、フランスでは、2025年までにFTTxによる100Mbpsのブロードバンドを全世帯に提供するとし、2010年から向こう7年間で20億ユーロの政府補助金を投じるとしている。
欧米主要国が、国家ブロードバンド整備において、未整備エリアの解消のために国が補助金を投じたり、支配的事業者に対する非対称規制を適用したり、また、ユニバーサルブロードバンドを義務化するなど、どちらかといえばブロードバンドの市場や事業者への規制介入によって“国民皆ブロードバンド”を実現しようとしている一方で、政府が株主となってブロードアンドアクセス網を専門に整備する新会社を発足させたのが豪州である。
豪州は、2009年4月に公表した国家ブロードバンド網(NBN)計画において、新会社NGN Co.を設立し、NGN建設に8年間で約410億豪ドルの財政支出をし、NGN Co.に約280億豪ドルを投資するとしている。ただし、政府は、NGN Co.の運用開始後5年以内に、保有する株式を売却する計画である。NGN計画では、NGN Co.にユニバーサルブロードバンドの提供義務を課し、2020年までに、家庭・学校・職場の93%をFTTHで結び、100Mbps以上のブロードバンドを普及させるほか、残る7%の僻地の住民に対しては、12Mbps以上のブロードバンドを提供するため、LTE(固定無線アクセス)や衛星による技術で代替するとしている。豪州政府では、NGN計画によって、向こう8年間で、毎年2万5000人の雇用を創出できるとしている。
ラストワンマイルを全面的に光ファイバ(FTTH)に置き換える方針を打ち出しているのは豪州のみであるが、不採算地域とされる山間僻地や農村地域を含むルーラル地域では、固定無線アクセスで代替するケースが多く、豪州をはじめ、ドイツやフランスでも、LTEを固定無線のアクセス手段として導入済ないし導入予定である。特に欧州では、アナログ跡地とされる800MHz帯を、農村地域のブロードバンドカバレッジに活用することが勧告されている。4G帯域とされる800MHz帯及び2.6GHz帯のオークションによる周波数割当てが終了したドイツでは、同帯域の落札者に対して、都市部でのLTEサービス開始の条件として、農村地域のブロードバンドカバレッジ義務を満たすことが課され、2010年より農村地域でのLTEによる固定無線アクセスの提供が開始されている。
また、ルーラル地域の無線アクセス手段としては、米国において、ホワイトスペース(地域によって使用されていないTVバンド)の活用が期待されており、現行のWiFiを高度化した「スーパーWiFi」の実用化に向けた動きが活発化している。スーパーWiFiは、現行WiFiの20倍以上の出力があり、かつ、電波の伝播距離が長いTVバンドを使用するため、広範囲のエリアを効率的にカバーできる無線アクセス手段として、米国だけでなく、英国でも、その導入に向けた制度整備が進められている。
ルーラル地域におけるブロードバンドアクセス手段として、LTEやホワイトスペースの利用が進みつつあると同時に、これらの通信システムを利用したサービスやアプリケーションの開発や導入も進められている。その多くは、教育、医療、救急などの、公的サービス部門によるもので、ルーラル地域におけるこられの公的サービスの補完・拡充を図ることが目的となっており、地方自治体による資金面やサービス開発面での関与が重要となっている。
未整備エリアをなくし、かつ、全ての人が何れかのブロードバンドにアクセスできる、“全国皆ブロードバンド”を目指す取組みは、景気刺激対策として始まったが、これらのインフラ整備が完了することによってもたらされるであろう経済効果に対する期待は、いずれの国も大きい。そのなかで、固定回線の敷設が難しい不採算地域や未整備エリアなどでは、無線技術の活用が進められ、セルラー技術として位置づけられるLTEを、固定無線アクセスとして利用する海外の動きは興味深い。日本においても、このような、携帯事業者がルーラル地域の無線アクセスサービスとしてLTEを提供することで、ブロードバンドゼロ地域を解消するというのも、一つの考え方としてあるかと思われる。また、ルーラル地域のブロードバンド普及においては、米国や英国のようなホワイトスペースの活用も、大いに検討の余地があるかもしれない。また何よりも、こうしたブロードバンドインフラの整備にあわせて、これらのインフラを活用したサービスやアプリケーションの利活用により、住民の生活向上や利便性の向上等を含む、特にルーラル地域の社会経済的な発展に寄与することが、国全体の発展に欠かせないものとなろう。

■目次
第1章 米国
1-1 ブロードバンドサービスの現状の調査及び整理
1-1-1 加入者系ブロードバンド(FTTH、DSL、CATV、衛星、WiMAX等)の動向
1-1-2 モバイルブロードバンド(3G、LTE、モバイルWiMAX等)の動向
1-1-3 ブロードバンドサービス市場の競争状況の整理
1-2 国家ブロードバンド政策とブロードバンド整備計画の調査
1-2-1 ブロードバンド整備の政策目標と実行計画に関する調査
1-2-2 ブロードバンドの利用率向上に関する調査
1-2-3 ユニバーサルブロードバンド政策に係る調査
1-3 ブロードバンド整備における無線周波数の有効利用方策に関する調査
1-3-1 モバイルブロードバンド政策
1-3-2 モバイルブロードバンドの周波数割当てと4G導入に関する調査
1-3-3 ユニバーサルブロードバンド実現に向けたモバイルブロードバンドの活用に関する調査
1-3-4 ブロードバンド整備に向けた周波数の柔軟な利用に関する調査
1-4 不採算地域(ルーラル地域)又は地域活性化におけるワイヤレスブロードバンドの導入(利活用)事例
1-4-1 資本・運営主体に関する調査
1-4-2 導入技術システムに関する調査
1-4-3 導入サービス・アプリケーションに関する調査

第2章 英国
2-1 ブロードバンドサービスの現状の調査及び整理
2-1-1 加入者系ブロードバンド(FTTH、DSL、CATV、衛星、WiMAX等)の動向
2-1-2 モバイルブロードバンド(3G、LTE、モバイルWiMAX等)の動向
2-1-3 ブロードバンドサービス市場の競争状況の整理
2-2 国家ブロードバンド政策とブロードバンド整備計画の調査
2-2-1 ブロードバンド整備の政策目標と実行計画に関する調査
2-2-2 ブロードバンドの利用率向上に関する調査
2-2-3 ユニバーサルブロードバンド政策に係る調査
2-3 ブロードバンド整備における無線周波数の有効利用方策に関する調査
2-3-1 モバイルブロードバンド政策
2-3-2 モバイルブロードバンドの周波数割当てと4G導入に関する調査
2-3-3 ユニバーサルブロードバンド実現に向けたモバイルブロードバンドの活用に関する調査
2-3-4 ブロードバンド整備に向けた周波数の柔軟な利用に関する調査
2-4 不採算地域(ルーラル地域)又は地域活性化におけるワイヤレスブロードバンドの導入(利活用)事例
2-4-1 資本・運営主体に関する調査
2-4-2 導入技術システムに関する調査
2-4-3 導入サービス・アプリケーションに関する調査

第3章 フランス
3-1 ブロードバンドサービスの現状の調査及び整理
3-1-1 加入者系ブロードバンド(FTTH、DSL、CATV、衛星、WiMAX等)の動向
3-1-2 モバイルブロードバンド(3G、LTE、モバイルWiMAX等)の動向
3-1-3 ブロードバンドサービス市場の競争状況の整理
3-2 国家ブロードバンド政策とブロードバンド整備計画の調査
3-2-1 ブロードバンド整備の政策目標と実行計画に関する調査
3-2-2 ブロードバンドの利用率向上に関する調査
3-2-3 ユニバーサルブロードバンド政策に係る調査
3-3 ブロードバンド整備における無線周波数の有効利用方策に関する調査
3-3-1 モバイルブロードバンド政策
3-3-2 モバイルブロードバンドの周波数割当てと4G導入に関する調査
3-3-3 ユニバーサルブロードバンド実現に向けたモバイルブロードバンドの活用に関する調査
3-3-4 ブロードバンド整備に向けた周波数の柔軟な利用に関する調査
3-4 不採算地域(ルーラル地域)又は地域活性化におけるワイヤレスブロードバンドの導入(利活用)事例

第4章 ドイツ
4-1 ブロードバンドサービスの現状の調査及び整理
4-1-1 加入者系ブロードバンド(FTTH、DSL、CATV、衛星、WiMAX等)の動向
4-1-2 モバイルブロードバンド(3G、LTE、モバイルWiMAX等)の動向
4-1-3 ブロードバンドサービス市場の競争状況の整理
4-2 国家ブロードバンド政策とブロードバンド整備計画の調査
4-2-1 ブロードバンド整備の政策目標と実行計画に関する調査
4-2-2 ブロードバンドの利用率向上に関する調査
4-2-3 ユニバーサルブロードバンド政策に係る調査
4-3 ブロードバンド整備における無線周波数の有効利用方策に関する調査
4-3-1 モバイルブロードバンド政策
4-3-2 モバイルブロードバンドの周波数割当てと4G導入に関する調査
4-3-3 ユニバーサルブロードバンド実現に向けたモバイルブロードバンドの活用に関する調査
4-3-4 ブロードバンド整備に向けた周波数の柔軟な利用に関する調査
4-4 不採算地域(ルーラル地域)又は地域活性化におけるワイヤレスブロードバンドの導入(利活用)事例

第5章 オーストラリア
5-1 ブロードバンドサービスの現状の調査及び整理
5-1-1 加入者系ブロードバンド(FTTH、DSL、CATV、衛星、WiMAX等)の動向
5-1-2 モバイルブロードバンド(3G、LTE、モバイルWiMAX等)の動向
5-1-3 ブロードバンドサービス市場の競争状況の整理
5-2 国家ブロードバンド政策とブロードバンド整備計画の調査
5-2-1 ブロードバンド整備の政策目標と実行計画に関する調査
5-2-2 ブロードバンドの利用率向上に関する調査
5-3 ブロードバンド整備における無線周波数の有効利用方策に関する調査
5-3-1 モバイルブロードバンド政策
5-3-2 モバイルブロードバンドの周波数割当てと4G導入に関する調査
5-3-3 ユニバーサルブロードバンド実現に向けたモバイルブロードバンドの活用に関する調査
5-3-4 ブロードバンド整備に向けた周波数の柔軟な利用に関する調査
5-4 不採算地域(ルーラル地域)又は地域活性化におけるワイヤレスブロードバンドの導入(利活用)事例
5-4-1 資本・運営主体に関する調査
5-4-2 導入技術システムに関する調査
5-4-3 導入サービス・アプリケーションに関する調査

第6章 EUのブロードバンド政策
6-1 EUにおける国家ブロードバンド網整備をめぐる関連施策
6-1-1 ブロードバンド整備の関連政策
6-1-2 景気対策:「欧州経済復興計画」
6-1-3 国庫補助規則に関するガイドライン
6-1-4 戦略:「欧州2020」
6-1-5 戦術:「欧州デジタル・アジェンダ」
6-1-6 分野別施策:「第1次電波政策プログラム案」
6-2 国庫補助の事例
6-2-1 アイルランド
6-2-2 フィンランド

おわりに
比較表 国家ブロードバンド戦略に関する各国比較

■執筆者一覧
佐川 永一 電波利用調査部 研究主幹
飯塚 留美 電波利用調査部 主席研究員
木賊 智昭 電波利用調査部 副主席研究員
藍沢 志津 情報通信研究部 副主席研究員
黒川 綾子 情報通信研究部 上席研究員
高橋 幹  情報通信研究部 上席研究員
坂本 博  情報通信研究部 研究員