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2012.10.01

  • 最新研究
  • 裘 春暉
  • 楊 松

中国通信サービス市場の最新動向分析

2012年2月に「中国通信産業10大流行語(2011)」が発表された。2011年中に通信業界で注目度の高かったトップ10は、「ミニブログ」、「モバイルインターネット」、「クラウドコンピューティング」、「スマートフォン」、「TD-LTE」、「ブロードバンド中国」、「eコマース」、「ネットワークと情報セキュリティ」、「三網融合」、及び「モノのインターネット」が挙げられた。これらのキーワードは本研究で取上げた内容のキーワードと一致している。本研究は、直近の中国通信産業におけるホットなトピックをめぐり、最新動向を解説すると同時に、各主要新興サービス市場への参入にあたっての日本企業に対する若干のアドバイスを行った。
2011年は第12次5カ年規画のスタート年で、同年3月に発表された「国民経済・社会発展第12次5か年規画綱要」に基づき、各産業・分野ごとに同綱要を反映した第12次5カ年規画が相次いで発表された。情報通信産業関連するものだけでも10以上の政策があった。
このような背景もあり、本研究はまず、電気通信に関連性の高い第12次5カ年規画として、「情報通信産業の第12次5カ年規画」、「ブロードバンド分野の同規画」、「インターネット産業の同規画」、「モノのインターネット産業の同規画」、及び「電子商取引分野の同規画」という、五つの政策を取上げ、それぞれの概要紹介にとどまらず、作成の背景や特徴なども解説した。なお、読者に理解を深めていただける材料として、本報告書の付録には各政策の全文和訳も付け加えることにした。
総じて言えば、第12次5カ年規画期間(2011-2015年)は、中国において経済構造の転換が掲げられた重要な時期と位置付けられている。具体的には、経済規模の拡大につれ、都市化の促進や、外需依存から内需依存への方向転換、生産効率の向上に伴う産業構造の転換といった課題がいっそう重要視されてきている。これらを実現するには多方面からの取組みが不可欠だが、ICT利活用の役割がとりわけ注目されている。
たとえば、2015年までの発展に関する基本的な考え方が示された、計60章からなる「国民経済・社会発展第12次5か年規画綱要」では、23の章にわたり、通信・情報化の関連内容について言及されている。これらの内容がさらにブレークダウンされ、個々の分野ごとにまとめられ、実現目標や実施項目、保障措置などが規画の中に明文化されている。これらの中には、むろんインフラ構築関連の整備が含まれているが、モノのインターネット、電子商取引といったインターネットを活用した様々な新興サービスも取上げられており、これらは、今後において最も重要視される分野となるであろうことを示唆している。
その中でも、本研究では、「3G/LTEアプリサービス」、「モノのインターネット」、「クラウドコンピューティング」、「三網融合」、「ソーシャルネットワーク」、「インターネット動画サービス」、及び「電子商取引」という七つのトピックを取上げた。また、整理しやすいように、前者の四つを政府主導型サービスと、後者の三つを民間事業者主導型サービスと類型化した。
政府主導型の各種サービスはいずれもインフラの構築から手がける必要のある分野で、通信事業者三社が中心に進められてきている。ただし、資金の提供においては、地方政府が多く関わっており、また、各地方政府は中央政府の第12次5カ年規画をもとに自らの実情に合わせて、各関連部署を動員したアクションプランの実施を次々と打ち出している。このようなやり方は、短期間内で大掛かりな事業をやり遂げられるというメリットがある一方で、重複工事が多く、資源の浪費につながりかねないという評価もある。
後者の三つの民間事業者主導型サービスは、いずれも市場拡大がほぼ確実視される分野ではあるが、同時に、参入・撤退の激しい分野でもある。本報告書では、各分野の市場構造の特徴に加え、既存プレイヤーのビジネスモデルや取組み等を分析した。
上記の分析結果に基づき、報告書はこれら七つの分野への参入を検討する日本企業への提言もまとめた。
2011年以降、中国政府による内需促進政策が一段と鮮明になってきた。その一つの現われとして、各地で賃金の上昇が加速化している。このことは外資系製造業の収益を圧迫するとの声も聞こえてくるが、反面、中国における個人消費規模が伸びて市場規模の拡大につながって、ICTサービス分野に進出する日本企業にとっては追い風となる側面がある。
ただし、ビジネスチャンスが増えるとは言え、同じく中国市場をターゲットにする他国企業に加え、現地企業の台頭もあり、市場競争が一段と激化している。法人向けサービスでは、地方政府のニーズを汲み上げる不断の努力がビジネスの展開につながる可能性が大きいと見られており、また、既に進出した日系企業を足がかりにした事業展開が、現地中国企業との住み分けにも有効かと思われる。
一方、個人消費者を相手にするサービス分野は多様なニーズへの迅速対応が求められると同時に、価格設定というファクターも重要視されている。そうした中で、現地市場環境にマッチした日本企業の強みをいかに発揮し、値下げ競争の回避に有効な手立てを打てるか否かが、ビジネスの成功を左右するカギだと思われる。

■目次
第Ⅰ章 通信関連分野の第12次5カ年規画パッケージの解説
1-1 情報通信産業の第12次5カ年規画
1-2 ブロードバンド分野の第12次5カ年規画
1-3 インターネット産業の第12次5カ年規画
1-4 モノのインターネット産業の第12次5カ年規画
1-5 電子商取引の第12次5カ年規画

第Ⅱ章 通信サービス市場動向
2-1 政府主導型サービス
2-1-1 3G/LTE
2-1-2 モノのインターネット
2-1-3 クラウドコンピューティング
2-1-4 三網融合
2-2 民間事業者主導型サービス
2-2-1 ソーシャルネットワーク
2-2-2 インターネット動画サービス
2-2-3 電子商取引

第Ⅲ章 中国通信サービス市場への参入にあたって

付録:
・情報通信産業の第12次5カ年規画(全文和訳)
・ブロードバンド分野の第12次5カ年規画(全文和訳)
・インターネット産業の第12次5カ年規画(全文和訳)
・モノのインターネット産業の第12次5カ年規画(全文和訳)
・電子商取引の第12次5カ年規画(全文和訳)

■執筆者一覧
裘 春暉  情報通信研究部 副主席研究員
楊 松   北京事務所 研究員