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2012.10.01

  • 最新研究
  • 藍沢 志津
  • 高橋 幹
  • 木賊 智昭
  • 黒川 綾子

スマートシティをめぐるICT分野の海外動向

本報告書は、環境保全に配慮した持続可能な経済成長を確保しつつ、電力・交通等の都市インフラ/サービスの高度化を図る「スマートシティ」におけるICT分野の海外動向を調査したものである。スマートシティ分野に関連する政策事例、各プロジェクトの現状、ICT関連企業のサービスや取組み事例の情報を収集・分析し、政策面・ビジネス面の特徴を明らかにすると共に、今後の課題やビジネスのあり方に展望を得ることに努めている。
 第1章では、スマートシティに関する基本的事項を確認している。まず欧米・アジア各国において推進されているスマートシティに関して、その背景を環境問題、都市人口の増大、都市インフラの充足等の面から把握する。また、スマートシティが目指すサービスが、スマートグリッド等の環境分野から、交通、電子政府等の多岐の分野にわたるものであることを確認する。
 第2章では、米国、欧州(EU、英国、独国、仏国ほか)、アジア(中国、インド)のスマートシティ関連の政策内容を整理し、先進国と新興国の政策的特徴を対比している。世界的な傾向として、各国とも中央政府や都市当局が、スマートシティ構想を積極的に進めている一方で、欧米地域では、グリーン産業育成の一環、途上国では経済成長に伴う電力資源の確保と都市インフラの充足を目的にする傾向が強いことが指摘されている。
 また、先進国では、中央政府は政策的な枠組みの策定や資金援助を担当し、実際の推進主体は地方政府や都市当局が担当する傾向にあるが、新興国では、スマートシティが国家プロジェクトに位置づけられることにより、中央政府主導でプロジェクトが推進される傾向にある。また、政府支援に関して、新興国の場合、中央政府の資金援助のほか、海外資金による基金作りや、政府間協定により人材・技術交流を図るなど、海外からの資金援助・技術援助を獲得するよう政府が積極的な役割を果たしていることが確認される。また、インド-日本間で締結された協定では、プロジェクト構築に日本企業の参入を確約するケースもあり、政府間協力が日本企業の海外進出のチャンネルを開く事例として言及する。
 第3章では、欧米アジアの各国で推進されているスマートシティ計画の実施状況を把握するとともに、各通信キャリアの取組み動向を、提供サービスや他企業との提携状況等をを中心に取り上げている。米国、欧州(英国、仏国、独国、オランダほか)、アジア(中国、豪州、インドほか)のプロジェクトを概要及び実施状況を調査している。一般に、スマートシティ計画の事業領域は多岐にわたるため、中央政府、地方政府、都市コンサルタント、公共事業者、ICT事業者、電力インフラベンダ等がアライアンスを形成して事業を推進しており、各プロジェクトの調査においてもアライアンスの状況に適宜言及している。
 通信キャリアとして、AT&T、ベライゾン、スプリント、BT、ドイツ・テレコム、フランス・テレコム、ボーダフォン等を対象に、そのサービス動向を取り上げている。一般的に、通信キャリア全般にとっては、スマートシティは、センサー・デバイスやインテリジェント・デバイスを通信システムで相互に結ぶM2M(Machine to Machine)のサービス市場として注目されており、国内の携帯通信加入者の増加の鈍化が懸念される中、特にエネルギー消費に関するセンサー・デバイスやマートメーターの普及が図られているスマートグリッドへの期待が高いことを確認している。
 スマートシティにおける通信キャリアのサービス領域として、アクセス/コアネットワークのレイアにおけるデータ伝送のほか、電力網関連の機器/システム・ベンダーとエコシステムを形成し、市場参入を図る動きが顕著であることを明らかにするため、スマートメーター・ベンダー、電力網管理ソリューショ業者との提携によりトラフィックの取り込みを図る通信キャリアの事業状況を取り上げている。
 第4章では、今後の通信キャリアのあり方を展望する。現在、欧米の大手通信キャリアは、スマートグリッドを中心にスマートシティ市場への参入を積極的に進めているところであるが、他方、各キャリアとも、交通、医療、気象・災害、治安などの各領域でM2Mサービスを提供しているところから、今後、これらの個別のインフラ/サービスを統合する共通のプラットフォームの構築へ向けた戦略の重要性を指摘している。個々のデバイスからのデータトラフィックが小さいM2Mの場合、多様なサービス領域から発生する情報データをより広い範囲に取り込むロング・テール型(低トラフィック、多ユーザ)のビジネスモデルの追及が通信キャリアの基本戦略となる。このため、各通信キャリアが提供する多様なM2Mインフラと、スマートグリッドなどエネルギー分野で個別構築されている情報通信システムとの連携によるビジネス機会の拡大が、今後注目されることが指摘されている。そのほか、フランスやドイツなどの海外事例に言及しつつ、ICTを基盤にした新たなコミュニティ設計への積極的な関与や通信キャリア自身によるスマートシティ実証実験の実施など、M2Mビジネス拡大へ向けた通信キャリアの戦略の必要性も指摘している。

■目次
第1章 スマートシティの概要
1-1 定義と背景
1-2 スマートシティのサービス範囲
第2章 各国政策概要
2-1 各国グリーン政策におけるスマートシティの位置づけ
2-1-1 米国
2-1-2 EU
2-1-3 英国のグリーン政策
2-1-4 ドイツ
2-1-5 フランス
2-1-6 スペイン
2-1-7 中国
2-1-8 インド
2-1-9 オーストラリア
2-1-10 スウェーデン
2-2 スマートシティ政策の特徴
2-3 標準化等の動向
第3章 各国におけるスマートシティ計画と通信キャリア動向
3-1 スマートシティにおけるICTの位置づけ
3-1-1 多様なステークホルダーとアライアンスの形成
3-1-2 通信キャリアの位置づけ
3-2 米国
3-2-1 主要スマートシティ計画の概要
3-2-2 通信キャリアの取組み
3-3 英国
3-3-1 「カスタマーレッド・ネットワーク・レボリューション」
3-3-2 「低炭素ロンドン」
3-3-3 通信キャリアの取組み
3-4 ドイツ
3-4-1 E-Energy
3-4-2 T-City
3-4-3 ドイツ・テレコム
3-5 フランス
3-5-1 南仏ニース市の取組み
3-5-2 フランス・テレコム
3-6 スペイン
3-6-1 マラガ・スマートシティ
3-6-2 テレフォニカ
3-7 ストックホルム(ロイヤル・シーポート地区)(スウェーデン)
3-8 アムステルダム・スマートシティ(オランダ)
3-9 インド
3-9-1 デリー・ムンバイ間産業大動脈(DMIC)
3-9-2 ハリヤナ州マネサール
3-9-3 グジャラート州チャンゴダールとサナンド
3-9-4 グジャラート州ダヘジ
3-9-5 マハラシュトラ州シェンドラ
3-9-6 ハリヤナ州ジャッジャル
3-9-7 ラジャスタン州ニムラナ
3-10 オーストラリア(スマートグリッド・スマートシティ計画)
3-10-1 概要
3-10-2 NBNとの連携
3-11 その他のスマートシティ・プロジェクト
3-11-1 中国
3-11-2 UAE「マスダール・シティ」
第4章 まとめと展望

■執筆者一覧
木賊 智昭 電波利用調査部 上席研究員
黒川 綾子 情報通信研究部 上席研究員
藍沢 志津 情報通信研究部 副主席研究員
高橋 幹  情報通信研究部 上席研究員