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2013.10.01

  • 最新研究
  • 田中 絵麻

米国のネット・サービスにおけるビッグデータ活用の動向
パーソナライゼーションと情報共有によるネット・サービスの進化

 2010年代に入り、ネット・サービスのモバイル化、クラウド化を背景に、オンライン上を流通する大量のデータを解析する「ビッグデータ」活用への注目が高まっている。このビッグデータ活用に対する期待が急速に高まったことから、「ビッグデータ」を一過性のバズワードであると指摘する声もある。しかし、大量データの解析により、事業効率の改善、新サービスの開発やサービス改善、公共サービスの利便性向上等が現実的なものになってきており、そのため、米国のみならず、欧州や日本、韓国等のアジア諸国においても、ビッグデータ活用型社会に向けた市場の動きや政策展開が活発化しているところである。
なかでも、米国は、2010年以降、新旧の多数のネット・サービス企業、IT企業がビッグデータ関連サービスの強化に力を入れており、ビッグデータ・ブームの震源地となっている。また、政府も積極的にビッグデータ活用を支援する制度整備を展開しているところである。本報告書では、こうした米国発のビッグデータ利活用の進展に着目し、以下の3つの観点から、ビッグデータ利活用のための要件を考察した。

・ビッグデータ・ソリューションの観点:ビッグデータ解析のための技術やソリューションの価格は低下傾向、選択肢も増加しつつある。この要因として、①ICT市場の変化(モバイル化、クラウド化、ソーシャル化)、②技術革新によるモジュール化の進展と、それによる市場競争の活性化と価格低下、③ビッグデータ・エコシステムの形成とビッグデータ・ソリューションの多様化の進展が発生している。

・ビッグデータ活用型サービスの観点:ビッグデータ活用の種類としては、①自社サービスでのビッグデータ活用、②ビッグデータ基盤にアクセスするAPI提供、③他社へのビッグデータ提供という3つの形態がある。ビッグデータを活用する形態の違いが、各社のサービスや収益の違いにつながっている。

・ビッグデータ利活用の推進政策の観点:ビッグデータ関連政策としては、①研究開発支援策、②オープン・データ推進策、③個人情報保護策の3つがある。①と②はビッグデータ市場の活性化に寄与するばかりでなく、ビッグデータ活用型社会への移行を視野に入れ、公共的な分野でのビッグデータ利活用促進に重点が置かれている。

 本報告書は、本報告書のアプローチ等を提示する「はじめに」、上述の3つの観点に対応する3章、各章のまとめと結論からなる「おわりに」で構成される。
 「はじめに」では、2010年代に高まったビッグデータ・ブームの背景にあるICT市場環境の変化を取り上げるとともに、本報告書の分析アプローチを提示する。本報告書では、マクロな市場分析、ミクロな企業戦略分析、政策分析という3つの分析アプローチから、ビッグデータ利活用進展の条件を考察する。

 第1章「ビッグデータ・ソリューション市場の動向-技術変化と市場拡大」では、マクロな視点からビッグデータ市場の変化を捉えることを試みた。本章では、米国におけるビッグデータ利活用の機運の高まりの背景に、組織内システムの変化、ネット・サービスの変化、解析技術のクラウド化、データ解析基盤の変化(SaaS化、Hadoop)があることに着目した。なかでも、データ解析基盤のミドルウェアであるHadoopのオープンソース・ソフトウェア化により、ビッグデータ・ソリューションの多様化と市場競争の活性化、多様な企業群からなるビッグデータ・エコシステムが形成されつつあることが注目される。また、同エコシステムの中核企業のなかから、4社(IBM、Cisco、Amazon、Google)を取り上げ、市場競争によるビッグデータ・ソリューション価格の低廉化が発生しつつあること、これによりビッグデータ・ソリューション需要の拡大と市場成長が期待されていることを述べた。また、ビッグデータ関連の業界カンファレンスであるStrata Conferenceの参加企業の拡大を分析、ビッグデータ・ソリューションの多様化も進展していることを指摘した。

 第2章「ビッグデータ活用型サービスの動向」では、多数のユーザー基盤を持つネット・サービス事業者6社(Amazon、Apple、Google、Facebook、Yahoo!、Twitter)を取り上げ、各企業のビッグデータ活用戦略について分析した。自社が保有するビッグデータをクローズドとするデータ戦略を採っているのは、Amazon、Google、Appleである。いずれも、ネット・サービス、自社のデータセンター、データ解析アルゴリズム、端末までを提供しており、垂直統合型でサービスを提供している。一方、Facebook、Yahoo!、Twitterは、形態は異なるものの、何らかの形で自社サービスのデータを他社と共有している。三者とも、程度の違いはあれ、自社では十分に提供出来ない分野(データ解析、多様なアプリ開発等)がある点が共通している。データ提供により、Win-Winの関係構築に成功しているのは、Facebookで、ソーシャル・グラフというユーザーデータを活用したアプリが増加することで、Facebook側にも、サード・パーティ側にも、ユーザー側にもメリットがある。

 第3章「ビッグデータ活用に向けた関連政策-データを巡る政策展開と課題」では、オバマ政権のビッグデータ関連政策の動向をフォロー、その課題を考察した。オバマ政権では、活用型社会への移行支援に向けて、①ビッグデータ関連の研究開発支援策、②オープン・データ推進策、③個人情報保護策の3つを展開している。①の施策は、公共的な分野におけるビッグデータ解析の技術開発、アプリ開発、人材育成を目的としている。また、②では、政府が保有するビッグデータを活用したアプリやサービスが増加することで、公共サービスの利便性・効率性向上が進展することが期待されている。こうした技術開発支援、人材育成、個人情報を多く含まないデータの活用は、社会に資することが期待されている。一方で、商業的価値の高い個人情報の保護をいかに図っていくかは米国にとっても大きな課題となっており、米国議会や連邦取引委員会では、データ・ブローカーに関する調査や取り締まりを行っている。また、IoT(Internet of Thins)市場でのセンターデータや個人情報の流通のあり方についても検討を開始、匿名化処理のあり方も含めて、今後の制度整備が注目されている。

 本報告書での米国における状況の分析からは、米国のビッグデータ利活用が活性化している要因として、以下の点が挙げられる。

・市場環境:技術革新によりビッグデータ・ソリューションの多様な選択肢が増加中。
・企業戦略:自社サービスの付加価値向上と結びついたデータ解析基盤の強化がさらに進展中。
・政策・法制度:市場変化を見据えた将来指向の政策ビジョンと公共分野でのビッグデータ利用促進。

 以上の要件は、2010年代に入り急速に注目が集まった市場黎明・拡大期におけるものだと言えよう。米国の場合、ネット・サービス分野でのサービスのパーソナライゼーションは、ビッグデータ解析・利活用を基盤としている。また、Hadoopを契機として、その技術基盤がネット・サービス分野以外にも波及、ビッグデータ利活用の広がりが期待されている。米国政府は、この市場の変化を的確に捉え、公共分野におけるビッグデータ利活用も推進し、公共分野の現代化につなげようとしている。
 本報告書でみたように、米国では、ビッグデータ利活用の社会的な注目がこの数年急速に高まった状況にあり、市場での活発なトライアル・アンド・エラー、ビジネス・モデルの模索が行われているステージだと言えよう。実際の公共分野を含む多様な分野での利活用進展やそれに伴う市場拡大は、今後展開していくと思われる。また、世界各国においても同時進行で、多様な企業がビッグデータの市場機会の収益化に動いている。ビッグデータ時代に合致するデータ流通の制度設計と、利用者の信頼感をもたらす個人情報保護の制度設計の両面が求められていると思われる。


【目次】

はじめに
1 高まるビッグデータ活用への関心と取り組み
2 米国が牽引するビッグデータ・ブームと市場拡大
3 ビッグデータ活用の契機としての環境変化-モバイル化、クラウド化
4 ビッグデータ活用における展望と課題
5 調査研究方法と本報告書の構成

第1章 ビッグデータ・ソリューション市場の動向-技術変化と市場拡大
1-1 「ビッグデータ」ブームに至る経緯とビッグデータ分析技術の普及
1-1-1 米国発のビッグデータ・ブームとデータ活用型社会への移行背景
1-1-2 組織内システムのクラウド化とデータのオープン化
1-1-3 ネット・サービスのソーシャル化、モバイル化と個人情報の増加
1-1-4 データ分析技術への期待とデータ活用型社会の展望
1-1-5 ビッグデータ・ブームの引き金としてのHadoopの登場
1-2 ビッグデータ関連企業からみるビッグデータ・エコシステム
1-2-1 IBMとビジネス・パートナーとしてのビッグデータ・エコシステム
1-2-2 Ciscoからみる新たなデータ・エコシステムとしてのビッグデータ
1-2-3 AmazonにおけるAWSを中核としたエコシステムとビッグデータ
1-2-4 GoogleにおけるBig Queryの強化とHadoopエコシステムへの対抗
1-3 ビッグデータ・コミュニティを形成する企業と技術トレンド
1-4 米国におけるビッグデータ・ブームと市場競争によるイノベーション普及

第2章 ビッグデータ活用型サービスの動向-パーソナル化とデータ戦略
2-1 ビッグデータ活用によるネット・サービスのパーソナル化の進展
2-2 ビッグデータ活用における垂直統合型のクローズド・データ戦略
2-2-1 Amazonによるレコメンデーション革命と自社データ活用
2-2-2 Googleの個人向けネット・サービスのデータ戦略-検索から「Google Now」まで
2-2-3 AppleのiPhoneを中核としたクラウド・サービスとデータ解析の強化
2-3 ビッグデータ活用における提携型のデータ共有戦略
2-3-1 Facebookの利用者拡大とソーシャル・グラフ・データの共有
2-3-2 Twitterにおけるツイート・データ活用と自社サービスの価値向上策
2-3-3 Yahoo!におけるビッグデータ活用型広告とモバイル・サービス強化
2-4 ネット・サービスにおけるビッグデータの収集・分析・活用の要件

第3章 ビッグデータ活用に向けた関連政策-データを巡る関連政策の特徴
3-1 ビッグデータ研究開発支援策の展開
3-1-1 オバマ政権における情報通信分野における科学技術開発政策
3-1-2 「ビッグデータ研究開発イニシアティブ」の展開
3-1-3 超高速ブロードバンド整備・アプリ開発支援策「US Ignite」
3-2 公共的なデータ共有を可能にする関連政策・法制度の概況
3-2-1 オバマ政権におけるオープン・ガバメント指令と連邦情報公開法
3-2-2 公共情報のオープン化とパートナーシップによるビッグデータ活用
3-3 ビッグデータを巡る個人情報保護関連政策
3-3-1 個人情報保護策の検討と強化-データ・ブローカーに対する調査
3-3-2 データ利用拡大に対する対応策-連邦取引委員会(FTC)における検討状況
3-4 米国におけるビッグデータ関連政策の特徴

おわりに-米国にみるビッグデータ活用型社会の条件

添付資料 米国ITサービス化動向に関する調査報告書

【執筆分担】

監修 情報通信研究部 部長 山口純子
執筆 情報通信研究部 副主席研究員 田中絵麻

{HREF[http://www.fmmc.or.jp/pdf/report/publicresearch_1.20140124.pdf]@[ エグゼクティブ・サマリーの英語版]}