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2010.10.01

  • 最新研究
  • 坂本 博史
  • 鈴木 俊介

オンライン・コンテンツとICTビジネス戦略

インターネットを利用したマルチメディア・コンテンツの配信は、1990年代の後半から開始されていた。しかし、アナログモデムによるナローバンド接続で提供できるコンテンツの品質には限度が存在していた。2000年代前半には、ブロードバンドの爆発的普及により、リッチ・コンテンツの提供が可能となったが、その一方で違法コンテンツおよび違法配信が蔓延する結果となった。2000年代後半には、違法配信に対する取り締まりが開始される一方で、合法的なコンテンツ配信サービスが数多く開始されるようになった。コンテンツ配信を10年期で総括すると、90年代がホップ、00年代がステップとなり、10年代はジャンプの時期を迎えている。
 オンラインコンテンツが全盛の時代と言われるが、実際には、それほど大きな普及を遂げているわけではない。J.ムーアは「ロジャースの普及曲線」において、初期市場からメインストリーム市場に移行する際に存在する普及率16%の壁を「キャズム」と呼んだ。オンラインコンテンツ配信は現在、まさにキャズムの状態にあると言える。国内市場において、オンライン配信利用経験者はすでに16%を超えているが、利用実態としては、PCのインターネットによるリッチ・コンテンツよりも、携帯電話による品質の低いモバイルコンテンツが主流であり、また「着メロ」に代表される「端末アクセサリー」の範疇を出ないものである。
 では、オンラインコンテンツの普及を阻んでいる要因とはなんだろうか。デジタル・デバイド、違法ダウンロード、ユーザーのニーズ、クオリティの問題、パッケージ商品固有の付加価値、価格など様々な要因が想定できる。一般的には、違法ダウンロードに関する言及が多いが、実際に問題となっているのは価格である。携帯電話向けコンテンツは言うまでもなく、国内配信事業者のオンラインコンテンツはPC向けであっても、パッケージメディアと比較しても、比較的高額な価格設定がなされている。この高価格の背景には、現在のコンテンツホルダーたちの「クリック&モルタル」さもなければ「モルタルオンリー」のビジネスモデルの問題にたどり着く。コンテンツホルダー達は、パッケージメディアに対して敵対的な存在となりうるオンライン配信に警戒心を持っており、オンライン配信の価格的ブレイクスルーを実現不可能にしている。ラディカルな考え方に立てば、現在は、コンテンツ産業が産業構造を変換するための過渡期的な状態だと考えることもできる。しかしながら、現在注目されている電子書籍などが顕著な例であるが、パッケージメディアとオンライン配信は、そもそも矛盾するものではないとも言える。
 このような現状を踏まえ、現在のオンラインコンテンツのビジネスモデルとしては、Yahoo GyaO!、ShowTime、DMMなどの「コンテンツ配信専業モデル」Apple、レーベルゲート、アクトビラなどの「付加価値モデル」、Youtube、ニコニコ動画などに代表される「プラットフォーム提供モデル」の三つに分類することができる。
「コンテンツ配信専業モデル」は、課金形態(コンテンツ販売型と広告型)、配信形態(ダウンロード型とストリーミング型)、販売形態(売り切り型とサブスクリプション型)などでさらに細かい類型化が可能だが、一般的に、ストリーミング型とサブスクリプション型、ダウンロード型と売り切り型とは、親和性が高く、理念的にはこの2類型に収束しているとも言える。このビジネスモデルは比較的シンプルなモデルであり、事業単体の評価をしやすい。
 「付加価値モデル」は、コンテンツ配信事業そのものから収益を得ることよりも、コンテンツ配信に関連する事業から収益を得ることを主眼としたビジネスモデルである。ここでは、「Appleのパラドックス」として、世界最大のコンテンツ配信企業が、コンテンツから収益を得ていないというパラドックス、コンテンツはハードウェアの付加価値であるというアイロニーが存在する。
 「プラットフォームモデル」は、コンテンツ配信を事業戦略の中核に位置づけるのではなく、コンテンツ配信のプラットフォームを提供することをビジネスの中核に位置づけるビジネスモデルである。実質的には、上位レイヤー企業というよりもインフラ企業として位置づけられるべきであろう。
 現状において、コンテンツ配信専業モデルは、映画、スポーツ、音楽などのメジャーコンテンツを配信していた企業は次々に撤退し、成功している企業は、三大人気ジャンル(韓国ドラマ、アニメ、アダルト)というマニア向けのニッチコンテンツを提供している。コンテンツ配信事業を開始する際の参入動機としては、関連するなんらかの製品及びサービスと配信するコンテンツのバンドリングより、当該製品ないしはサービスの付加価値を高めていくための事業とすることが最適であると思われる。
 最後に、経営戦略論の大家であるM.ポーターの理論を参考にすれば、コンテンツ産業に新規に参入する際には、ポーターの指摘する「先端業界」の戦略を選択することが重要である。先端業界は不確実であり、戦略策定は困難であるというデメリットがあるが、その反面、多様な戦略を選択しうるというメリットがある。したがって、市場そのものを開拓すると同時に、業界の秩序を自らが作ることが可能である。自社発展のために、業界を発展させるという「協調戦略」が重要となるだろう。

目次

第1章 オンライン・コンテンツ配信ビジネスの現状
第2章 オンライン・コンテンツ配信の課題
第3章 国内コンテンツ配信事業者の事業戦略
第4章 コンテンツ配信ビジネスの位置づけ
第5章 コンテンツ配信ビジネスの競争戦略
第6章 コンテンツ配信ビジネスにおける参入戦略

執筆担当

・第1章、第2章、第3章、第6章
財団法人マルチメディア振興センター 鈴木俊介(情報通信研究部)

・第4章
和光大学 杉本昌昭(経済経営学部経営メディア学科)

・第5章
財団法人マルチメディア振興センター 坂本博史(情報通信研究部)