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調査研究成果

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2010.10.01

  • 最新研究
  • 平井 智尚

ICT社会における新しい価値と市場の形成-「オーディエンス」の観点から-

本研究ではICT社会をオーディエンスの観点から検討を行った。「オーディエンス」とはメディア・ICTとかかわりを持つ人々を指す言葉・概念である。なぜ、消費者、顧客、ユーザーではなく「オーディエンス」という言葉・概念を用いるのか。それは、人々のICTサービスやコンテンツとのかかわりに焦点を当てるためである。
支配的なICT言説においてその利用者は様々に語られてきた。ICT社会論者はユーザーを「先端的ICTユーザー」と想定し、ICTを通じたエンパワーメントの可能性を喧伝してきた。放送事業者や大手通信事業者は利用者を「消費者」や「視聴者」と見なし、新たな市場の可能性を模索してきた。ジャーナリズムはネットユーザーを「逸脱者」と措定し、警鐘を鳴らしてきた。しかし、そのような「語り」は人々の日常生活におけるICTとのかかわりを蔑ろにしてきたのではないか。
こうした問題意識に基づき本研究では、人々とICTとのかかわりについて、コミュニケーション論、ICT動画サービスの言説と実態、ICTサービスの歴史的変遷という観点から調査・研究を行った。結果、ICTサービスやコンテンツを牽引してきたのは「先端的ICTユーザー」「消費者」「逸脱者」ではなく、日常に生活する「オーディエンス」であり、そうした普通のオーディエンスによるコミュニケーションがICTサービスやコンテンツの鍵であること明らかになった。この知見は決して刺激的ではない。だが、支配的なICT言説が看過・捨象してきたのも事実である。オーディエンスのコミュニケーションがICT社会の価値と市場を生み出す。この事実は所与に映るが、反省的に認識・評価する必要がある。
オーディエンスについて留意すべきことがもう一つある。それは、オーディエンスは一枚岩ではなく多様な存在である、ということだ。それゆえ、ICT事業者とオーディエンスのかかわり方も複数想定される。第一に、市民的なオーディエンスと協働する。第二に、オプションを重視せずにサービスを簡素化する。第三に、「上から目線」ではなく「友達目線」で接する。第四に、サービス・コンテンツが生成される「場」としてのウェブを維持する。第五に、ネタ的なネット文化とうまくかかわる。各々のICTサービス事業者は、流行のICT言説、サービス、デバイスの可能性ばかりに踊らされず、自らの強みと弱みを反省的に自覚しながらオーディエンスとのかかわり方を考えていく。それがICT社会における新しい価値と市場につながるのである。

目次

はじめに 「ネット時代のオーディエンス」再考

1 コミュニケーション研究のなかのオーディエンス
 1-1 マス・コミュニケーションと「受け手」としてのオーディエンス
 1-2 ニューメディアとオーディエンス――能動性への期待
 1-3 「期待どおり」ではないオーディエンス
 1-4 「受動―能動」図式を越えて

2 インターネット動画サービスにおけるオーディエンスの位置づけ
 2-1 日本におけるインターネット動画サービスの現状
 2-2 動画投稿サービスとオーディエンス
 2-3 ICTオーディエンスはどのように表象されてきたのか
 2-4 動画配信サービス事業者のオーディエンス像
 2-5 ニコニコ動画の考え方
 2-6 インターネットを生かす動画サービスのあり方

3 ICT社会におけるサービスの展開
 3-1 日本のICTサービスの歴史
 3-2 主なICTサービスの展開
 3-3 ICTサービスの歴史的変遷
 3-4 ICTサービスとオーディエンスの変容

4 「ネット時代のオーディエンス」の発見
 4-1 「理想」と「逸脱」から、取るに足らないオーディエンスの「日常」へ
 4-2 コミュニケーション的オーディエンスとの連携・融合
 4-3 オーディエンスと活動の「場」
 4-4 ICTサービス事業者のとるべき方向性

執筆者

山口仁(やまぐち ひとし)
担当:はじめに・第1章・第4章
帝京大学文学部社会学科助教

平井智尚(ひらい ともひさ)
担当:第2章・第4章
財団法人マルチメディア振興センター 情報通信研究部 研究員

玉川博章(たまがわ ひろあき)
担当:第3章・第4章
株式会社メディア開発綜研 客員研究員
共愛学園前橋国際大学非常勤講師
日本大学非常勤講師