2025.12
コンテンツ海外展開の新たな窓口として無料広告付きストリーミングTV(FAST)促進戦略を進める韓国

無料広告付きストリーミングTV(FAST)が放送コンテンツの新たなウィンドウとして海外で注目を浴びつつある。日本ではまだ視聴できるサービスが限定的なため一般の知名度が低いが、サムスン電子とLG電子のTVでは「サムスンTV+」、「LGチャンネル」といったFASTチャンネルが搭載されている。サムスンのFASTチャンネルは世界30か国で約3,500チャンネルと6万6,000編のVODコンテンツを無料提供中だが、両社のFASTは日本でのサービスは未提供である。
自国の映像コンテンツ海外展開に早くから力を入れてきた韓国では、サムスンとLGのTVのグローバルシェアが高いことを武器に、2025年からFASTチャンネルをコンテンツ海外展開の新たなウィンドウとして政策的支援を開始した。その一環として、海外での韓流イベント現場をFASTチャンネルで放映するなど、海外イベント現地向けFASTチャンネルを有機的に連携させている。FASTチャンネル向けのAI活用吹替等の技術開発支援も政府支援事業で進められ、AI吹替コンテンツを含めて計2,200編で構成した20の韓国コンテンツチャンネルが韓国産FASTプラットフォームの「サムスンTV+」と「LGチャンネル」を通じて北米・中南米・欧州の20か国に11月末から順次配信され、年内に12チャンネルが北米市場に配信される。
韓国ではコンテンツ海外展開にあたり自国プラットフォーム強化と海外展開にも力を入れていることが特徴であり、FASTのほかにOTTといった動画配信プラットフォームの強化も視野に入れられている。現在日本でもコンテンツ海外展開に力を入れるが、自国産プラットフォーム強化に目を向ける向きが少ないことが気がかりである。海外の動画配信プラットフォームの浸透率が高くなっている国内市場であるが、特に最近、NetflixによるWBC独占中継決定が大きな波紋を呼んでいる。WBC独占中継権の件は、日本の放送政策にはこれまで存在しなかったユニバーサルアクセス権保障という問題が大きく絡む。だが、このような事態が起きうることからも、自国プラットフォーム強化についても政策枠組みに入れることを検討してみてもよい時期にきているのではないだろうか。