2025.03
郵便市場での電気自動車(EV)導入が対峙する様々な事情
電気自動車(EV)の導入が隆盛に向かいつつある中、郵便市場でのEV導入状況は、予算や機能といった問題にとどまらない多様な状況に向き合っている。
米国で2025年3月、共和党上下院議員が、USPSの電気自動車(EV)導入計画から資金を引き上げる法案を提出した。バイデン政権の「Inflation Reduction Act」がUSPSのEV導入のために割り当てた30億ドルのうち、未使用分を回収するというもの(「Return to Sender Act」法案)。背景には、トランプ政権の「EV義務化の廃止」がある。USPSでは、この予算を用いて、6万台のEV配達車両を購入する予定で、3年以内に初期注文分の5万台が納入されることになっているが、2024年11月時点で納入されたのは93台で、大幅な遅延が発生しているという報道もある。
ドイツでは、環境政策に積極的で、EV導入を含む「Go Green」にも力を入れているDHLが2025年2月に、スウェーデンのトラックメーカー、スカニア(Scania)と共同で、燃料駆動の発電機を搭載した電気トラックを開発した。DHLによると、今のところ、重量物輸送の急速な電動化は、充電スタンドの不足などの理由で成功していないため、「このトラックは、DHLのドイツの小包ネットワークで、バッテリー電気トラックへの完全切り替えまでの過渡的なトラックとして使われる」という。
一方、フランスでは、2019年にモビリティー基本法(LOM)が施行され、毎年100台以上の車両を運用する企業や行政機関に対して、電気自動車(EV)やハイブリッド車(HV)といった低排出ガス車の導入目標を定めており、罰則規定はないものの、24~26年の目標は20%で、22~23年の10%から引き上げられた。2024年に、この基準を満たした企業は全体の4分の1という結果だが、ラ・ポストは4,588台の保有車両の低排出ガス車の割合が72%(EV69%、HV3%)と報告されている。それにもかかわらず、ラ・ポストは、2018年から導入してきた都市物流ネットワーク「ユルビー(Urby)」を2023年に打ち切った。「ユルビー(Urby)」は、同社が都市に設置した、商品保管用の地域共有センターのネットワークで、配送をまとめて行うことで、積載量の少ないトラックが都市内を循環するのを防ぎ、配達には、自転車や、「ユーロ6(Euro6)」排ガス規制などに適合したCO2低排出車、電動軽商用車、「ユーロ6」適合のトラック、および天然ガストラックを使用した。
ラ・ポストは、ユルビーの営業網の拡大を目指し、2022年11月には大規模な投資も発表していた。しかし、フランスが掲げていた国家規模の環境対策に盛り込んだ「ZFE:zone à faibles émissions(低排出ゾーン)」(※大気汚染の緩和を目的として、都市内の特定の区域で特定の車両の通行を制限する)の導入の大幅な遅れにより、現在の状況では将来的にプラスの結果に戻ることが見込めないと判断したラ・ポストは、2023年にユルビー事業の中止を決定している。