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2024.01

  • イギリス
  • 郵便・物流
英郵便局ホライズン事件:現在までのいきさつ
2024年1月になり、英郵便局のコンピュータのソフトウェアの欠陥が原因のホライズン事件が再び注目を集めた。英国では、この事件を題材としたドラマが民放大手ITVで放映されて大きな話題となり、日本では、当初はあまり知られていなかったが、英国での反響の大きさが、ついに富士通の株式の暴落を引き起こした。
 
これは、英国の長い郵便局制度の運営を担ってきた準郵便局長(日本の昔の特定郵便局のようなもの)736人が2000~14年に富士通の会計システム「ホライズン」の欠陥により、不正会計や窃盗の罪で起訴された事件。不当に有罪判決を受け、一部は刑務所に入れられたが、後になって、原因はコンピュータのソフトウェアの問題だったことが判明した。
 
もともとの「ホライズン・システム(Horizon system)」は、英国の英コンピュータ企業ICL社が開発した会計システムで、1999年~2000年頃、英郵便局会社がこのシステムを導入した。その後2002年、富士通がICT社を買収した。
 
郵便局では一日の業務終了後、会計ソフトの表示額と手元の現金を照合するが、ホライズンの欠陥により、実際の現金が表示額を下回る現象が頻発した。郵便局会社では、これを(ソフトの欠陥ではなく)担当郵便局の不正であるとした。有罪判決を受けた700人以上の準郵便局長を含め、契約打ち切りによる失職や不足額の自費弁済などを合わせると、影響を被った郵便局長は同時期(2000~14年)に4,000人以上に上るという。
 
当初より、システムに対しての疑惑は上っていたものの、単発的な告発と見なされていた状況であったが、2009年、「正義を求める準郵便局長連合(Justice For Subpostmasters Alliance:JFSA)」がサイトを開設して、被害にあった準郵便局長の支援を開始した。
 
2013年7月には、郵便局会社は独立調査報告書の中間結果を公表し、ホライズンに関してはシステム全体に影響するような問題は見当たらなかったとしていたが、2019年、元準郵便局長555人が郵便局会社を提訴した裁判で、ホライズンの欠陥が認められ、郵便局会社は5,800万ポンド近い和解金を支払うことで合意した。郵便局会社は2020年10月、準郵便局長の誤認逮捕事件を謝罪し、有罪判決の取り消しを求める44の控訴裁判で抗弁しないと発表した。
 
郵便局会社はホライズン事件の被害者に補償金の支払いを進めており、また、スナク首相も、2024年1月、準郵便局長全員のえん罪を迅速に晴らすため、新たな法律を作ることを議会で表明した。年内にえん罪被害者全員の有罪判決を取り消し、補償を終えるとしている。
 
英国では、当時の郵便局会社CEOであったPaula Vennells氏は批判の高まりを受け、過去に授与された大英勲章の返還を申し出たほか、富士通に対しても、同社の責任への厳しい目が向けられている。
 
※郵便局会社:英国における郵便配達はロイヤルメールが行っているが、郵便局は別会社である郵便局会社が経営している。ロイヤルメールとは商業契約により、実際には長期的なパートナー協定を結んでおり、ロイヤルメールの業務を受託している。以前はロイヤルメールと姉妹会社だったが、2015年10月のロイヤルメール完全民営化時に、郵便局会社は政府の直接保有会社となった。(さらに2012年以前はロイヤルメールの子会社)