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2023.05

  • アメリカ
  • 放送・メディア
ハリウッド脚本家スト突入、動画配信サービス台頭とAI利用拡大への対応等を要求
2023年5月2日、全米脚本家組合(Writers Guild of America:WGA)は、待遇改善を巡って、2007/2008年以来となるおよそ15年ぶりの大規模なストライキに突入した。

これは過去数週間に及ぶ映画テレビ制作者協会(Alliance of Motion Picture and Television Producers:AMPTP)との労働条件改善を巡る交渉で、当初の期限となっていた2023年5月1日までに双方が合意に至ることができなかったため。

WGAは、およそ1万1,500名の映画、テレビ番組の脚本家等で構成される職能別団体。

AMPTPは、ハリウッドの映画5大スタジオ(Paramount Pictures、Sony Pictures、Universal Pictures、Walt Disney Studios、Warner Bros.)や、TVの4大ネットワーク(ABC、CBS、NBC、Fox)、一部ケーブルネットワークや、動画配信事業者(Netflix、Apple TV+、Amazon)等が加盟する業界団体。

WGAは、今回の要求がすべて受け入れられる場合の制作側の費用負担増は年間4億2,900万ドルと試算している。

今回の主な争点には、動画配信サービスが主流となる時代に向けて脚本家の待遇改善と、人工知能(Artificial Intelligence:AI)利用の位置付けが含まれる。

▼動画配信サービス台頭を見据えた待遇改善
動画配信向けのシーズンは、一般に地上波向け番組よりも構成される番組数が少なく、制作決定に至るプロセスが異なるほか、制作チーム維持期間も短く、他のプラットフォームへの番組提供機会も少ない傾向にあるため、作品の再使用収入(residuals)を含む、脚本家の収入機会が限られるとの見方がある。こうした背景を踏まえ、WGAは、動画配信サービスでの再生回数や国外加入者数を考慮して再使用収入を見直すこと等を求めている。

▼AI利用の位置付け
2022年11月にOpenAIが対話型の生成AI「ChatGPT」(バージョン3.5)を公開して以来、その完成度の高さから、世間では様々な活用法が話題となる一方、知的労働に従事する者の雇用を奪うといった懸念に加え、著作物が違法にAI学習のために使われる、あるいは、AIが生成する文章が著作権を侵害するといった懸念も示されている。

このため、WGAは、今回の基本合意においてAIの利用に対して一定の制限を設けることを求めており、具体的には、①AIは文学作品を執筆又は書き直すことはできない、②AIは原作として使えない、そして、③労使基本合意の対象となる作品はAIの訓練のために使えない、という3点を明確にすることを求めている。

しかし、AMPTPは、これら提案を拒絶し、その対案として、AI技術の進展を協議する年1回の会合を提案しており、両者の溝は埋まっていない。

▼各方面への影響
今回の15年ぶりのストライキは、さまざまな方面で既に影響を及ぼしている。

例えば、毎年5月にニューヨークで行われる、大小メディア企業が今後の制作スケジュールを示し、著名人をゲストに招いて広告主にアピールするUpfrontイベントでは、NBC Universalのイベントでデモ活動が行われたほか、こうしたデモ活動により交通混乱等をNY市警が懸念したことを受け、Netflixは予定していた初の対面でのプレゼンテーションをオンラインで実施した。

また、制作面でも既に遅れや中断も出ており、ABCやCBS、NBCの深夜トーク番組は再放送に切り替えられ(ABC「Jimmy Kimmel Live」、CBS「The Late Show with Stephen Colbert」、NBC「Tonight Show with Jimmy Fallon」)、制作中断に追い込まれた番組等も複数報告されている(Netflixの「Stranger Things」最終シーズン、「Cobra Kai」第6シーズン、Huluの「Handmaid’s Tail」最新シリーズ、Maxの「Game of Thrones」前日譚「A Knight of the Seven Kingdoms: The Hedge Knight」、Walt Disneyの「Daredevil: Born Again」など)ほか、地上波TVの秋シーズン新番組の制作にも影響が懸念されている。

さらに、こうした労働条件を巡る対立は、今回のWGAのストライキを支持する立場を表明しているハリウッドの他の団体にも飛び火するおそれもある。1万9,000人以上の監督等が加盟する全米監督組合(Directors Guild of America:DGA)は5月10日からAMPTPとの交渉を開始、また、俳優等の演者やニュース編集者等16万人が加盟する映画俳優組合-米国テレビラジオ放送芸術家連盟(Screen Actors Guild - American Federation of Television and Radio Artists:SAG-AFTM)は6月7日から条件を巡る協議を開始する予定となっている。DGA、SAG-AFTMともに、現在の基本協定の期限は6月30日となっており、状況が注視されている。

▼経済損失
2007/2008年のストライキは100日間継続し、数多くの映像制作スタジオが所在するハリウッドを擁するカリフォルニア州への経済的な損失は21億ドルに上ると試算する民間研究所の試算もあった。今回のストライキが長期化するとこれを上回る規模の損失となる可能性も指摘されている。

▼ホワイトハウスも関心
ホワイトハウス広報官カリーヌ・ジャン=ピエール氏は、2023年5月2日、継続中のストライキに関してはコメントできないとしつつ、大統領はストライキを行う労働者の権利の強力な支持者であり、双方が交渉を続けることを推奨すると発言。

また、バイデン大統領は、2023年5月8日、Asian Americans, Native Hawaiians, Pacific Islanders Heritage Monthのイベントで、このストライキが一刻も早く解決され、脚本家がその仕事にふさわしい公正な契約を獲得することを心から願うと発言した。