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2022.06

  • アメリカ
  • セキュリティ、プライバシー
最高裁が中絶の権利覆す判決、個人情報保護の懸念も浮上
連邦最高裁は6月24日、妊娠15週以降の人工妊娠中絶を禁止するミシシッピ州法の合憲性を巡る裁判の判決で、中絶を憲法上の権利と認めた1973年のロー対ウェイド事件最高裁判決を覆す判断を下した。今回の判決により、中絶の是非は州政府に委ねられ、各州が中絶を禁止したり制限したりできるようになる。グットマッカー研究所によれば、南部や中西部を中心に26州が中絶を制限する州法を導入する見通し。長きにわたって米国を二分してきた中絶議論だが、11月の議会中間選挙でも大きな争点になることが予想され、更なる論争と政治対立を引き起こすとみられている。
 
ICT分野においては、中絶希望者等の個人情報をいかに保護すべきかに注目が集まる。中絶権を支持する民主党議員らは、5月に判決原案がリークされて以降、連邦取引委員会(FTC)や大手テック企業に書簡を送付し働きかけてきた。その主な内容は以下の通りである。
 
*FTCへの書簡(5月19日送付)
データブローカーが中絶処置を行う医療機関を訪問した人の位置情報を売買していると報じた5月4日付ヴァイス記事を受け、16人の民主党上院議員がFTCに対して、生殖医療受給者のデータプライバシーを保護するよう要請した。消費者がオンラインで個人情報を確認・削除できるようにするための対策、位置情報を収集・販売するスマホアプリへの対策、データブローカーのデータアクセス防止等についてFTCがどのような取組みを実施しているのか説明を求めている。
 
*グーグルへの書簡(5月24日送付)
42人の民主党上下院議員がグーグルのスンダー・ピチャイCEOに対して、生殖医療受給者を特定し得るような位置情報の収集・保管を止めるよう要請した。議員らは、保守派検察官が生殖医療受給者を取り締まるために、ジオフェンス令状(法執行機関が事業者に対して時刻と場所を提示し位置情報データの提供を要請する令状)によってグーグルから取得したデータを利用する可能性があると懸念している。
 
*グーグル及びアップルへの書簡(5月27日送付)
5人の民主党上院議員がグーグルのスンダー・ピチャイCEOとアップルのティム・クックCEOに対して、両社のアプリストアで配信されているアプリが中絶希望者をターゲットとするデータマイニングを行うことを禁じるよう要請した。議員らは、アプリが「中絶希望者や中絶経験者を犠牲とするデータ慣行」に従事しないために、必要に応じてアプリストアのポリシーを改訂することを求めている。
 
デジタル時代における市民権の拡大を目的に設立された電子フロンティア財団(EFF)も、テック企業に対し、個人情報の収集・保管を最小限に抑え、不適切な情報開示請求は断固拒否するよう求めている。また、一般ユーザに対しては以下の事項を推奨している。
*DuckDuckGoやFirefox、Brave等、データ収集・保管を最小限に留めている検索エンジンやブラウザを使用すること
*検索履歴を保管しないプライベートブラウジングモードを使用すること
*機微情報のやり取りにはSignal等メッセージを暗号化するサービスを使用すること
*ProtonmailやTutanotaといった強固なプライバシー対策を講じる電子メールサービスを使用すること
*Google Voiceで別の電話番号を用意すること
*VPNを使用すること
*法執行機関の監視対象になりやすい場所を訪れる際には端末の電源を切って位置追跡を回避すること
 
全米を二分する中絶問題に対し沈黙を守る企業が少なくないなか、アマゾンやメタ、コムキャスト、ディズニー、ネットフリックス、電気自動車大手テスラ等は、中絶を禁止していない州で中絶手術を受けようとする従業員に渡航費用を支給する方針を発表している。その他、ライドシェア大手のウーバーが中絶手術を行う医療機関までの移動手段を提供したドライバーに対して法的支援を行うことを宣言し、マイクロソフトも従業員への医療支援を継続する姿勢を表明してる。