[HTML]
H1

詳細ページ

お知らせ表示

2020.07

  • アメリカ
  • モバイル
オープンRANと米国の5G投資
携帯電話事業者が大手通信機器ベンダーの囲い込みを避け、オープンな仕様に基づいて、自由にさまざまなベンダーの機器を組み合わせて5Gネットワークを構築するオープンRAN(Open Radio Access Network)について、米国での動きを紹介する。

携帯電話基地局は、複数ベンダーで相互運用することが難しく、同一ベンダーの機器でそろえる必要があった。LTE市場では囲い込みが進み、基地局市場は中国ファーウェイ(華為技術)、スウェーデン・エリクソン(Ericsson)、フィンランド・ノキア(Nokia)の大手ベンダー3社が8割近いシェアを握る寡占市場となっている1。また、基地局を制御するサーバもプロトコルが独自のものを用いているため、大手ベンダーの専用機器を用いて高コストの原因となっていた。オープンRANには、O-RAN AllianceやTelecom Infra Project(TIP)等の団体を中心に複数の規格が提案されている。それらの一つに、さらに踏み込んで、無線アクセスネットワークに対して、汎用プロセッサーを用いた仮想化技術を活用することで、よりオープンで柔軟性が高い形で実装するvRANもある2

下院エネルギー・商業委員会は、7月15日、一連の超党派通信関連法案を可決した。4時間の逐条審議で可決された法案は30件に上った。同委員会の委員長を務める民主党のフランク・パローン議員は、これらの法案の意義を「国民をより安全にし、無線インフラのセキュリティを改善し、連邦周波数管理を最新化するために、8つの重要法律を通過させた。5Gネットワークのより多様で持続可能で競争力のあるサプライチェーンを確保するための機器と技術を推進する超党派法案をとくに誇りに思う。疑わしい5G機器の信頼できる代替品の開発を促進する必要があり、そうすることで、ファーウェイとの戦いにおいて、重要ネットワークを保護できる。」3としている。

その核となる法案である「2020年Utilizing Strategic Allied Telecommunications Act(USA Telecommunications Act)」では、相互運用可能なオープンRAN無線ネットワークを全国で展開するために、国家電気通信情報庁(NTIA)に競争ベースで最大7億5000万ドルの助成金を交付する「ワイヤレス・サプライチェーン・イノベーション補助金プログラム」を設置する。

なお、NTIAは、毎年議会に詳細な報告を行い、法施行から180日以内に5Gネットワーク・サプライチェーンの現状を詳述する報告書を提出し、FCC、連邦機関、その他の代表からなる諮問委員会を設置する。

Multichannel Newsによると、ソフトウェアに大きく依存するオープンRANは、米国通信ネットワークから中国製通信機器を排除する一環として推進されており、法案提出者等は、これによりファーウェイやZTEに代わる信頼できる選択肢を提供することが可能と主張している4

国家電気通信情報庁(NTIA)は、6月29日、「安全な5Gに係る国家戦略実施計画」に対して提出された80件の意見を発表した5。その中で、オープンRANが中国による傍受から国内通信ネットワークを守る壁になり得るかを巡って議論が活発化している。

オープンRANベンダーのマベニールは、「米国は連邦助成金を国内でのオープンRANの導入推進に充てることで、外国の通信機器ベンダーに代わる米国企業を支援・優遇すべき」とする意見を提出した。さらに、オープン・インターフェース、オープンRANにより、将来もネットワークが有効に使われ、セキュリティも確保できる5G機器・サービスの購入を奨励すべきとしている。また、オープンRANポリシー・コーリションも、議会に10億ドルを投じて、オープン・アーキテクチャのソフトウェア・ベースの無線技術の研究開発と展開を促進することを要求した。

一方、エリクソンは、「5G競争で視点を見失うことなく、政府の助成金や資金へオープンRANと統合RANが平等かつ公正にアクセスすることを支援する技術的に中立な市場ベースのアプローチを維持すべき」とする。ノキアも、「オープンRAN関連の研究開発への1回限りの資金提供だけでは欠陥がある」と主張。同社は、オープンRANや5G、6Gにまたがる新たなチップ技術を含む、その他の幅広い技術の研究に最低でも15億ドルを割り当てるべきであるとしている。

米国最大無線事業者のベライゾンは、オープンRANのみでは、ベンダー市場における多様性と競争を促進するのは不十分で、オープンRANのみに依存しないようすべきと指摘している。また、オープンRANを前進させるには、米国と世界の両方でより堅牢で競争力のあるサプライヤー・エコシステムを構築するための努力が必要であり、このため、米国と同盟国がプラハ勧告を実施するための政策推進を継続することを要求している。

AT&Tは、5G展開に際して政府は引き続き「ライトタッチ」のアプローチを採用することを奨励している。ネットワークのアーキテクチャーや5G標準策定の完全性、そして、サプライチェーンに関するさまざまな懸念に対応するためには、政府間、そして、標準策定機関との関係に注力すべきとしている。

上院でもオープンRANに関する動きがあり、民主党のマーク・ワーナー上院議員は、6月30日、自身が推進するオープンRANを対象にした5G資金法案が、国防授権法(NDAA)案の次回修正案に盛り込まれたことを明らかにした6。オープンRAN研究開発に初年度5,000万ドル、国際協力に2,500万ドルの予算があてられる予定のNDAA法案は、年内に可決される見込みである。


1 https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01273/00003/
2 https://mavenir.com/portfolio/access-edge-solutions/radio-access/vran/
3 https://energycommerce.house.gov/newsroom/press-releases/pallone-applauds-committee-passage-of-communications-legislation

4 https://www.multichannel.com/news/house-e-c-approves-bipartisan-communications-bills
5 https://www.ntia.gov/federal-register-notice/2020/comments-national-strategy-secure-5g-implementation-plan
6 https://www.ustelecom.org/event/securing-the-nations-5g-future/