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2020.05

  • アメリカ
  • セキュリティ、プライバシー
米国における接触追跡アプリの課題
米国ではプライバシー侵害を懸念して接触追跡アプリの導入が遅れている。しかし、疾病管理センター(CDC)は、4月29日、接触追跡(Contact Tracing)ツールの条件概要を提示する文書を発表した1。このガイドラインは、マサチューセッツ大学(MIT)が開発したBluetoothを使った接触追跡ツールに言及しているため、アップル、グーグルが共同開発している同じようなツールにとっては朗報となる。

スマートフォンのOSのほとんどを提供しているアップルとグーグルは、5月20日、新型コロナウイルス対策として共同開発を進めていた接触追跡技術の提供を開始した2。両社が「Exposure Notification(曝露通知)」と呼ぶイニシアティブにより、州や連邦政府は、Bluetoothを使うアプリを開発し、感染者の濃厚接触者に通知することが可能となる。アラバマ、ノースダコタ、サウスカロライナ各州は、それぞれ両社の新技術を採用する方針を表明済みである。

信頼できる接触追跡アプリは、経済活動の再開を支援すると考えられているが、その効果を発揮するためには、ある程度以上の利用者を確保することが条件となる。

アップルとグーグルは、プライバシー保護を理由に、公衆衛生当局が感染者問診に必要と主張するデータの一部の提供を拒否しているため、どれだけの州が両社技術を採用するかは分からず、その数次第では、接触追跡の効果が十分発揮されないこともあり得る。両社を信頼する一般市民がどれだけいるかが問われることになる。一方で、プライバシーへの懸念も検討されている。

ノースイースタン大学教授のウッドロー・ハートゾグ氏によれば、テクノロジーを新型コロナウイルス対策に使う上では、次の三つの懸念材料があるとしている。

一つは、テクノロジー企業が管理できる範囲が限られていること。アップル及びグーグルは、両社の技術を用いて接触追跡アプリを開発できるのは政府公衆衛生機関に限定し、政府がアプリの使用を義務付けることを許可しないとしているが、企業や学校などはアプリ開発者のような利用規約に縛られないため、就業や登校にアプリ利用を義務付ける可能性がある。

二つ目は、政府がこれらツールを別の監視目的に使う可能性があること。

そして、三つ目は、いったんこの監視技術が導入されれば、もう後戻りはできず、こうした監視ツールは今後も長く使われることが多いことを挙げている。

上院共和党は、5月7日、新型コロナウイルス対策として開発・導入が進むスマートフォンを使う接触追跡アプリのプライバシー保護を目的とした法案を提出した。

この「COVID-19 Consumer Data Protection Act」法案の特徴としては、保護すべきデータに「デバイス」情報が追加されたことが挙げられる。同法案は、FTCの管轄下にある企業が新型コロナウイルス対策として、個人の健康、デバイス、位置、接近情報を収集・処理・転送する場合、本人の承諾を得ることを義務付けている。

また、企業に対し、データ収集時にその用途や共有相手、保管期間を消費者へ説明するよう指示している。そのため、企業は、個人にデータ収集を拒否する権利を与えねばならず、不要になった時点でデータを抹消するか、匿名化する必要がある。

加えて、収集できる個人特定可能なデータを最小限に限定し、データセキュリティ基準も設けている。

一方で、同法案には、FTCがプライバシー保護を執行するためのリソースは含まれていない。また、移動通信事業者に関するFCCのプライバシー保護を無効化し、州がFTCに代わってより厳格なプライバシー保護対策を取ることも禁止する内容となっている。そのため、 民主党からの支持は得られておらず、下院での法案成立は現状では困難である。

1 https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/downloads/php/principles-contact-tracing-booklet.pdf
2 https://developer.apple.com/documentation/exposurenotification/building_an_app_to_notify_users_of_covid-19_exposure
https://blog.google/inside-google/company-announcements/apple-google-exposure-notification-api-launches/