◇タイの周波数割当て制度
タイでは、国家放送通信委員会(National Broadcasting and Telecommunications Commission: NBTC)が設立される2011年以前は、国有企業のTOTとCAT(いずれも財務省が保有)に対してのみ、周波数が割り当てられていた。一方で、民間企業(AIS、DTAC、True等)は、BTO(build-transfer-operate)方式により、国有企業からモバイル事業権(mobile concession)を付与されることによって、モバイルサービスを提供していた。BTO方式は、民間企業が整備したインフラ資産は国有企業が保有し、民間企業の収益はレベニューシェアによって国有企業へその一部が還元される仕組みで、現在でも存続している。
2011年のNBTC設立により、民間企業に対してオークションによって周波数を割り当てる権限がNBTCに付与された。同国初となる周波数オークションは2012年12月に実施され、3G免許が既存事業者3社(AIS、DTAC、True)に付与された。ただし、オークションによる周波数割当ては民間企業に対して適用されるもので、国有企業はオークション手続きを経ることなく周波数が割り当てられる。2015年11月に実施された1800MHz帯オークションでは、CATはオークションに参加することなく、20MHzが割り当てられた。
タイでは2011年以降、民間企業が周波数免許を保有することが認められるようになったが、現状、民間企業はオークションで、国有企業は優先的に周波数割当てが行われており、周波数割当て制度の一本化に向けた移行時期にあると位置づけることができる。
なお、TeleGeographyの調査によると、タイのモバイル市場の事業者別加入者シェアは、2015年9月現在、AIS(シンガポールのSingTel傘下)が45.4%、DTAC(ノルウェーのTelenor傘下)が30.6%、True(タイの農業財閥Charoen Pokphandグループ傘下)が22.1%、TOTが1.1%、CATが0.8%となっている。
◇周波数オークションの結果
2012年12月に実施された3Gオークションでは、2×15MHzの9枠を、既存事業者3社(AIS、DTAC、True)が争奪した。最終的に、3社それぞれが3枠を獲得し、均等配分される結果となり、落札総額は最低価格の2.8%増に留まった。
2015年11月に実施された、1800MHz帯4Gオークションでは、2×15MHzの2枠を、AIS、DTAC、True、Jas Mobile Broadband(固定ブロードバンド事業者Triple T Broadband(加入者シェア31.6%)の親会社Jasmine International傘下)の4社が争奪した。オークションは2日間にわたり86ラウンド行われ、最終的にTrueとAISの2社が落札した。落札総額は最低価格の3倍にのぼり、人口一人当たりの1MHz当たり(MHz/POP)の単価は20THB(0.56USD)と、先進国並みの価格となったとNBTCは評価している。1800MHz帯4Gの免許期間は18年間で、4Gの人口カバレッジは2年以内に50%、4年以内に80%を達成するほか、現行の3G料金よりも安く、低所得者向けには特別料金で4Gサービスを提供することが求められる。
900MHz帯4Gオークションは、2015年12月15日から19日まで、合計199ラウンド実施された。2×10MHzの2枠を、AIS、DTAC、True、Jas Mobile Broadbandの4社が争奪し、最終的にTrueとJas Mobile Broadbandが落札した。1枠当たりの最低価格は、2社以上による入札の場合は128億6,400万THBで、2社以下の場合は160億8,000万THBであったが、落札総額は1,500億THB以上にのぼり、4.7倍も高騰する結果となった。Reutersによると、この結果を受けてJasmineの株価は16.3%、Trueの株価は8.2%それぞれ下がったと指摘されている。
タイの周波数オークション(3G、1800MHz、900MHz)の結果
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AIS |
DTAC |
True |
Jas Mobile Broadband |
落札総額 |
3G (2012年12月) |
1950-1965/ 2140-2155MHz |
1920-1935/ 2110-2125MHz |
1935-1950/ 2125-2140MHz |
- |
416.25億THB |
146億THB |
135億THB |
135億THB |
- |
1800MHz (2015年11月) |
1725-1740/ 1820-1835MHz |
不落札 |
1710-1725/ 1805-1820MHz |
不落札 |
808.8億THB |
397.92億THB |
- |
409.86億THB |
- |
900MHz (2015年12月) |
不落札 |
不落札 |
905-915/ 950-960MHz |
895-905/ 940-950MHz |
1,519.52億THB |
- |
- |
762.98億THB |
756.54億THB |
出所:各種資料をもとに作成
一方で、1800MHz帯と900MHz帯の周波数オークションで、いずれも周波数免許を落札できなかったDTACの親会社Telenorは、DTACを売却してタイのモバイル市場から撤退するとの噂もあった。しかし、CATがDTACとの間でモバイル事業権の期限を2025年まで延長するとの見方が高まり、DTACは、CATが保有する1800MHz帯の20MHz幅を利用した新たな4Gサービスを開始すると見られている。