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2015.05

  • フランス
  • セキュリティ、プライバシー
「通信傍受法案」が国民議会で可決

仏国民議会(日本の衆議院に当たる)は5月5日、首相Valls氏が3月19日の閣僚会議で提出した「通信傍受法案」を賛成多数で可決した。この法案の目的は、テロ予防手段として容疑者捜査の許容範囲と利用技術の枠組みを定めることとされている。

法案では、仏国内でのテロ行為が疑われる人物への身辺捜査技術として、住居への盗聴器や監視カメラの設置、通信記録の入手といった従来の手段に、国際通信を含む通信回線上の交信の傍受を加え、通信内容がテロの実行に関するものであれば交信を遮断できるとしている。

一般の人々のプライバシー侵害の可能性については、通信傍受の適用を「それ以外の手段で情報を入手できない」場合に限り、捜査期間も限定される。傍受行為の是非の判断に際しては、国家通信傍受技術利用委員会(CNCTR)という新組織を創設する。通信傍受の実施を意図する機関は、その属する省を通して首相に申請を出し、首相はCNCTRへの意見聴取の後是非の判断を下すとされている。また、傍受の実施要件が十分でないとCNCTRが判断したにもかかわらず許可が与えられた場合、CTCNRは行政裁判所である国務院に提訴することができる。国務院はこの法に関する一般市民からの提訴も受け付けるとされている。

この法案については、国内のインターネット・サービス事業者協会が発表後直ちに反対の意を表明したのみならず、法案の発表に際して諮問を受けた政府関連機関も概して批判的な見解を発表した。

仏個人情報保護機関(CNIL)は、傍受記録ファイルの取扱につき、交信の記録や保管が、個人情報基本法が禁じる個人データコントロールに当たるのではないかと懸念し、国家デジタル化委員会(CNNumerique)は、傍受対象である「疑いのある人物」の定義や傍受実行期間が明確に示されておらず、条文の拡大解釈がマスコントロールに陥る事態を危惧しているという意見を述べた。

電子通信・郵便規制機関(ARCEP)も、政府の意見聴取に対して、傍受の実施に当たっては、通信事業者のネットワーク運用及び消費者サービスに支障を来たさないことに留意すべきであり、通信事業者には事前の通告が必要であること、傍受による通信網混乱の予防及び支障が生じた際の復旧に対する補償体制を確立することが必要という回答を返した。

国民議会は法案の審議中に、対テロ捜査の目的が「国益の維持」であることを明示する、傍受の方法について通信事業者等に事前に資料を請求する等、CNCTRの権限を強化する、傍受に関する情報の提供を拒否あるいは誤った情報を与えた通信事業者への処罰等、幾つかの改変を加えた。

この法案について、フランスのもう一つの議会である元老院(日本での参議院に当たる)での審議は6月2日に開始の予定である。