ドイツで2015年5月27日に開始されたマルチバンドオークションは、既存の携帯事業者3社(テレフォニカ、ドイツテレコムおよびボーダフォン)が入札に参加し、合計16日間にわたって181ラウンド実施され、同年6月19日に終了した。オークションにかけられたのは、700MHz帯(2×30MHz)、900MHz帯(2×35MHz)、1500MHz帯(1×40MHz)および1800MHz帯(2×50MHz)の合計270MHz幅で、落札総額は50億8,100万ユーロ(57億5,000万US$)となった。
今回のオークション落札総額は、2010年に実施されたマルチバンドオークションと同程度で、オークションバブルとも称された2000年の3Gオークションの落札総額と比べると10分1程度となった。事業者別の落札総額は、ボーダフォンが21億ユーロと最高額となり、次いでドイツテレコムの18億ユーロ、テレフォニカの12億ユーロとなった。
表1 ドイツのオークション落札総額の比較
実施年 |
オークション帯域 |
対象帯域幅 |
落札総額 |
2015年 |
700MHz、900MHz、1500MHz、1800MHz |
270MHz |
57.5億US$ |
2010年 |
800MHz、1800MHz、2GHz、2.6GHz |
360MHz |
55.0億US$ |
2000年 |
2GHz(3Gオークション) |
155MHz |
576.2億US$ |
出所:各種資料をもとに作成
表2 事業者別・周波数帯別の落札結果
免許人 |
周波数帯 |
落札幅 |
落札額(ユーロ) |
落札総額(ユーロ) |
テレフォニカ |
700MHz |
2×10MHz |
333,244,000 |
1,198,238,000 |
900MHz |
2×10MHz |
385,478,000 |
1800MHz |
2×10MHz |
479,516,000 |
ドイツテレコム |
700MHz |
2×10MHz |
338,216,000 |
1,792,156,000 |
900MHz |
2×15MHz |
545,104,000 |
1800MHz |
2×15MHz |
744,939,000 |
1500MHz |
1×20MHz |
163,897,000 |
ボーダフォン |
700MHz |
2×10MHz |
328,985,000 |
2,090,842,000 |
900MHz |
2×10MHz |
415,105,000 |
1800MHz |
2×25MHz |
1,180,994,000 |
1500MHz |
1×20MHz |
165,758,000 |
合計 |
270MHz |
5,081,236,000 |
700MHz帯は、既存の地上デジタル放送の放送規格がDVB-T2方式へ移行することによって開放されるもので、ドイツが欧州初の700MHz帯オークション実施国となった。1500MHz帯(1452~1492MHz)は、衛星デジタル音声放送(Satellite Digital Audio Broadcasting:S-DAB)から移動/固定通信ネットワーク(Mobile/Fixed Communications Networks:MFCN)へ用途が変更されたもので、欧州郵便電気通信主管庁会議(CEPT)の電子通信委員会(ECC)決定に従って、追加の下り回線(Supplemental Downlink: SDL)での利用が期待されている。
900MHz帯および1800MHz帯は、2016年12月31日に免許期限を迎えるGSM免許で、その再割当にあたって、ドイツではオークションが採用された。ドイツでは2014年に、携帯市場シェア第4位であったテレフォニカが、第3位のE-Plusを買収したことにより、それまで第1位であったドイツテレコムを抜いてトップに立った。また、本買収によって、テレフォニカ/E-Plusが保有する1800MHz帯の周波数量が、過度に集中するという事態が生じた。これに対して、通信規制当局の連邦ネットワーク庁(BNetzA)は、テレフォニカ/E-Plusが保有する、2016年12月末が免許期限の900MHz帯および1800MHz帯について、免許期限を2015年末に前倒しすることを決定したことから、テレフォニカ/E-Plusは、オークションを通じて買い戻さない限り、周波数を返上しなければならなくなった。
900MHz帯については、1事業者が落札できる最大周波数量に、2×15MHzの上限が課せられたことから、オークション後の3社間の周波数保有量は均衡しており、テレフォニカ/E-Plusは900MHz帯の買い戻しには成功した。一方で、1800MHz帯については、保有していた70MHz幅のうち20MHz幅を獲得したのに留まり、50MHz幅を手放す結果となった。代わって、1800MHz帯を大量に落札したのがボーダフォンで、40MHz幅を落札し、それまで10MHz幅しかなかった1800MHz帯の増強に成功した。このボーダフォンの買い増し戦略によって、1800MHz帯が他の帯域に比べて高騰したと見られている。700MHz帯、900MHzおよび1500MHz帯は、1ロット当たりの平均落札額が最低価格の2倍強であるのに対して、1800MHz帯は6倍以上の高値が付いた。
表3 900MHz帯および1800MHz帯の免許人別の周波数保有量
帯域 |
免許人 |
免許期限 |
周波数保有量 |
周波数保有量合計 |
オークション前 |
オークション後 |
増減 |
900MHz |
テレフォニカ/E-Plus |
2016年12月31日 |
20MHz |
20MHz |
±0 |
20MHz |
ドイツテレコム |
2016年12月31日 |
25MHz |
30MHz |
+5 |
30MHz |
ボーダフォン |
2016年12月31日 |
25MHz |
20MHz |
-5 |
20MHz |
1800MHz |
テレフォニカ/E-Plus |
2016年12月31日 |
70MHz |
20MHz |
-50 |
40MHz |
テレフォニカ/E-Plus |
2025年12月31日 |
20MHz |
|
|
ドイツテレコム |
2016年12月31日 |
10MHz |
30MHz |
+20 |
60MHz |
ドイツテレコム |
2025年12月31日 |
30MHz |
|
|
ボーダフォン |
2016年12月31日 |
10MHz |
50MHz |
+40 |
50MHz |
出所:BNetzA資料をもとに作成
表4 帯域別の最低価格と平均落札額
帯域 |
1ロット |
最低価格 (ユーロ) |
平均落札額 (ユーロ) |
平均落札額/ 最低価格 |
落札総額 (ユーロ) |
700MHz |
2×5MHz |
75,000,000 |
166,740,833 |
2.2倍 |
1,000,445,000 |
900MHz |
2×5MHz |
75,000,000 |
192,241,000 |
2.6倍 |
1,345,687,000 |
1800MHz |
2×5MHz |
37,500,000 |
240,544,900 |
6.4倍 |
2,405,449,000 |
1500MHz |
1×5MHz |
18,450,000 |
41,206,875 |
2.2倍 |
329,655,000 |
出所:BNetzA資料をもとに作成
ドイツでは、1990年代初頭から順次割当てられてきたGSM免許のうち、1800MHz帯については事業者間で割当幅に偏りがあったことに加えて、テレフォニカのE-Plus買収によって1800MHz帯が合併会社に極度に集中するという事態に対して、オークションという市場メカニズムを利用して事業者間の電波の再配分の最適化を図り、電波割当の公平性を実現しようとした点が注目されよう。