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2023.11

  • インド
  • 郵便・物流
インドの「2023年郵便局改正法案」について
インドの郵便市場は、現在、「1898年郵便局法(The Indian Post Office Act, 1898)」によって規制されている。「1898年郵便局法」は、中央政府の事業部門であるインド・ポストを規制するものであり、民間宅配会社は、特定の法律に基づいて規制されていない。2023年8月10日、Ashwini Vaishnaw電子情報技術大臣により、「2023年郵便局改正法案(The Post Office Amendment Bill, 2023)」がインド議会上院(ラジャ・サバ:Rajya Sabha)に提出された。しかし、この法案には、さまざまな問題が指摘されている。

現在の郵便法(「1898年郵便局法」)では、政府に書状の運搬に関する独占的特権が与えられているが、今回の法案では、そのような独占的特権を規定していない。さらに、現行法では所定の規則に従って郵便切手の発行を規定しているが、この法案では、切手発行についてはインド・ポストが独占的特権を有すると規定している。また、現行法では、インド・ポストが提供するサービスを、1)書状・はがき・小包といった郵便物の配達、および2)為替と規定しているが、法案では、インド・ポストは中央政府の規定に従ってサービスを提供するとしている。

問題になっているのは、現行の「1898年郵便局法」に既に存在している枠組みを今回の法案でも維持しているところ。1つは、現行法が、インド・ポストを通じて送信される郵便物を傍受するための枠組みを提供していることで、民間の宅配サービスにはそのような規定はない。もう1つは消費者保護枠組みに関する点で、現在の1898年法は、明示的な条件で責任が負われる場合を除き、サービスの失効に対する政府の責任を免除している。2019年消費者保護法は、民間の宅配サービスには適用されるが、インド・ポストによるサービスには適用されないこととされており、2023年郵便局改正法案は、これらの規定を維持している。

すなわち、改正法案は、中央政府が国家の安全、外国との友好関係、公の秩序、緊急事態、または公共の安全を理由に、郵便職員に郵便物を傍受、開封、または留置する権限を与えることができると規定している。この条項は、また、郵便職員は単なる義務逃れの疑いを理由に、国内外から受け取った郵便物を税関に引き渡す権限を有するとも規定している。

さらに、この法案は、郵便職員が紛失、遅延、または誤配の原因となった不正行為または意図的な行為が証明されない限り、紛失、誤配、遅延または損傷によって生じる可能性のあるあらゆる責任から郵便職員を免除することを規定する。

現在の郵便法では、さまざまな違反行為と罰則を規定しているが(郵便職員による郵便物の不法開封は2年以下の懲役もしくは罰金、あるいはその両方に処せられることになっている)、2023年8月に成立したヤン・ヴィシュワス(規定の改正)法(※)により、削除された。今回の郵便法案では、1つを除き、いかなる違反や結果についても規定していない。

このように、今回の法案での、当局が具体的な証拠なしに郵便物を恣意的に精査・押収可能にすることや、配達中の事故に対する郵便職員の責任免除は、郵便サービスの説明責任と効率性を損なう。そのため、国民のプライバシーと郵便サービスの効率性に関して重大な疑問を引き起こしている。

「1898年郵便局法」の大幅な修正は、これまでにも何度か提案されたが、大きな改正には至らなかった。1986年に議会を通過した法案は、郵便で送信される郵便物の傍受の根拠を、憲法に基づく基本的権利の合理的な制限と一致させることを目的としていたが、大統領の承認を得られず、後に撤回された。2002年には、民間宅配サービスへの規制を含む法案が練られたが、最終的には失効し、2006年、2011年は、これに基づいた修正法案も議会に提出されずに終わっている。2017年に行われた改正は、料金決定権限を議会から中央政府に移行する内容だった。

インドの連邦議会は両院制で、法案は原則として両院により可決されることが必要である(ただし、下院(ロク・サバ:Lok Sabha)の判断が優越する場合もある)。法案が法律として成立するためには、さらに大統領の同意が必要となる。

(※)ヤン・ヴィシュワス(規定の改正)法(Jan Vishwas (Amendment Provisions ) Act 2003):42の法律にわたって罰則を軽減し、犯罪を非犯罪化することでビジネスを促進することを目的としている(これにより、1957年の著作権法、1970年の特許法、1999年の商標法、1999年の地理的表示法といった主要な知的財産権法も改正された)。ただし、大企業は利益を得る一方、小規模企業は苦境に陥る可能性も指摘され、政府がこの法律を通じて、どのような事業を推進しようとしているのか疑問視されている。