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2015.09

  • 欧州
  • 事業者のM&A・国際展開
欧州モバイル市場で進むM&Aと公正競争の確保

欧州のモバイル市場では、いわゆる水平統合と称される企業結合が増え、4社体制から3社体制への移行が進みつつある。

表 欧州モバイル市場における水平統合型の主なM&A
関係事業者 合併・買収合意 合併・買収承認 電波資源に係る問題解消措置
英国 T-Mobileと
Orangeの合併
2010年1月 2010年3月 1800MHz帯の2×15MHzの返上(2012年8月に3 UKへ無料で売却)等
オーストリア 3のOrange買収 2012年2月 2012年12月 基地局の一部売却や、MVNOへのネットワーク開放等
アイルランド 3のO2買収 2013年6月 2014年5月 MVNOへのネットワーク開放等
ドイツ Telefonicaの
E-Plus買収
2013年7月 2014年7月 ネットワーク設備資産の一部売却、MVNOへのネットワーク開放等
ノルウェー TeliaSoneraの
Tele2買収
2014年7月 2015年2月 Tele2の周波数・ネットワーク設備資産のICEへの売却等
デンマーク Telenorと
TeliaSoneraの合併
2014年12月 2015年9月に
合併申請取り下げ
新規事業者への2100MHz帯の2ブロックの売却および全体のネットワーク容量の15%までの貸出等
英国 3のO2買収 2015年1月 - -
イタリア 3とWindの合併 2015年8月 - -
注:英国のT-MobileとOrangeの合併は5社から4社体制へ、その他事案はすべて4社から3社体制への移行の合併・買収となっている。
出所:各種資料に基づき作成

欧州モバイル市場において、4社体制から3社体制への移行の契機となったのが、2012年に欧州競争当局に承認された、3 Austria(加入者シェア第4位)によるOrange Austria(同第3位)の買収である。3 Austriaは、基地局の一部売却やMVNO(仮想移動体通信事業者)への一定量のネットワーク容量の提供など、競争を阻害しないことを担保するための問題解消措置を提示し、承認を得ることに成功した。3は、アイルランドでも、2013年6月にO2 Ireland(同第2位)の買収で合意、2014年5月にMVNOへのネットワーク開放等を条件に、欧州競争当局の承認を得た。

4社体制から3社体制への移行はドイツにも波及した。Telefonica Deutschland(加入者シェア第4位)は2013年10月にE-Plus(同第3位)の買収で合意し、MVNOへのネットワーク開放やネットワーク設備資産の売却等を条件に、2014年7月に欧州競争当局の承認を獲得、同年10月に取引を完了した。この事案に関連し、ドイツのメルケル首相は2014年5月、欧州域内における電気通信事業者間の統合を支持する発言をしていた。
ノルウェーでは、スウェーデンの通信グループTele2(スウェーデン加入者シェア第2位)が、NetCom(ノルウェー加入者シェア第2位)を傘下に持つスウェーデン最大手のTeliaSoneraに、Tele2 Norway(同第3位)を売却することで2014年7月に合意した。ノルウェーの競争当局は、全国事業者が3社から2社へ減少することに対して、競争圧力の低下による料金の高騰やサービス品質の低下を懸念していたが、Tele2 Norwayのネットワーク設備や周波数資産、また顧客基盤を第4位のICE(同加入者シェア2%)へ売却することなどを含む問題解消措置の実施を条件に、2015年2月に承認した。

デンマークでは2014年12月、Telenor(加入者シェア第2位)とTeliaSonera(同第3位)が合併し、新たな合弁会社を折半して設立することで合意した。この合併が承認された場合、最大手のTDCを追い抜きデンマーク第1位の事業者になる。欧州競争当局は2015年4月に詳細な審査を開始したが、料金の高騰やイノベーションの低下を懸念し、同年6月に本合併案について異議を唱えた。これを受けて両社は同年8月に、合併承認を得るために、周波数の売却や競争事業者へのネットワーク開放などを含む問題解消措置を提示した(注1)ほか、合弁会社のインフラ事業会社の株式40%を新規参入者に売却し、その新規参入者にTelenorのプリペイド事業部門BiBob(契約数は約15万)を処分することを申し出た(注2)。欧州競争当局による最終的な判断は、2015年10月7日までに発表される予定であったが、TelenorとTeliaSoneraは合併承認を得るのは困難と判断し、2015年9月11日に合併申請を取り下げた(注3)。

2014年11月に、欧州競争当局の委員長に就任したMargrethe Vestager氏は、前任者のJoaquín Almunia氏に比べて、企業の合併・買収に対して強硬な姿勢を示しているとされており、デンマークにおけるTelenorとTeliaSoneraの企業合併が承認されるかどうかが、今後の欧州モバイル市場をめぐる事業再編の行方を左右すると見られていた(注4)。

モバイル市場の水平統合に向けた動きは、英国やイタリアでも進行している。英国では2015年1月に、3 UK(加入者シェア第4位)の親会社である香港Hutchison Whampoaが102億5,000万ポンドでO2 UK(同第2位)を買収することで合意し、イタリアでは2015年8月に、3 Italia(加入者シェア第4位)の親会社HutchisonとWind(同第3位)の親会社であるロシアのVimpelComが、出資比率50%ずつの合弁会社を設立し、両社の通信事業を統合することを発表した(注5)。しかし、デンマークでのTelenorとTeliaSoneraの合併承認が得られなかったことを受けて、英国とイタリアで進行中の合併・買収合意は見直しを迫られることになるかもしれない。