オンライン上での児童性的虐待コンテンツ(CSAM)の検知及び削除を可能とする暫定規則(通称「チャットコントロール1.0」)の再導入が承認され、7月31日に施行された。適用期間は2028年4月3日までとなっている。
同暫定規則は、「eプライバシー指令」の対象となる事業者に対し、自社サービス上でのCSAMや児童へのグルーミングの自主的な検知・削除を可能とする法的根拠を与えるものである。2021年から運用されていた以前の暫定規則は、第一読会においてスキャン可能な対象を巡って欧州議会とEU理事会の延長交渉が決裂し、今年4月に期限切れを迎えていた。6月に欧州議会のロベルタ・メツォラ議長が政治的合意を促したことを受けて、EU理事会が第二読会に修正案を提出。欧州議会の立場は、一部会派によるエンドツーエンド暗号化されたメッセージサービスや通話サービスをスキャン対象から除外する修正案を採用しており、投票した議員の過半数が延長反対だったものの、これを全議員の絶対多数で否決することが出来なかった。この修正案をEU理事会が受け入れたため成立に至った形であり、お互いの妥協と立法手続の仕組みが延長を可能にしたと言える。ともあれ、恒久的なCSAM規制枠組みである「児童性的虐待防止及び対策規則(Child Sexual Abuse Regulation:CSAR)」(通称「チャットコントロール2.0」)の三者協議が続けられる中、暫定規則の復活によって法的な空白期間が解消されることになった。
ただし、EU理事会は、暫定規則にてスキャン可能な対象からエンドツーエンド暗号化されたメッセージサービスや通話サービスを除外したことは、CSARにおいても同様の修正案を受け入れることを意味しないとしており、あくまで迅速な暫定規則復活の必要性に従ったものとしている。
オンライン上での子どもの保護と通信の秘密の保護を巡る議論が進む中、欧州の通信事業者はCSAMに関するサイトへのアクセスブロックについて、より強い法的対応を求めている。暫定規則の復活を受け、欧州の主要通信事業者(ボーダフォン、オレンジ、テレノール、BT)のCEOらは8月7日、連名で書簡をEU政府(EU理事会、欧州議会及び欧州委員会委員長)に送付した。同書簡によれば、欧州では年間数千万件のCSAM事例が報告されており、犠牲者は主に7歳から10歳の女児であるという。2024年にはその62%が欧州諸国のウェブページに掲載されていた。4グループはこの事態に対して、EU政府に以下の対応を求めている。
- EU内にCSAMに関する専門団体を設け、CSAMに関するリストを作成、各国への通知や専門家の会合を容易化する。
- 上記のリストに従ってEU内のISPがCSAMサイトへのアクセスをブロックするため、行政命令より強力な法的規制条項を設ける。
- EUレベルの対応センターが機能し始める以前に、各国の規制機関が専門家の作成リストに従ってCSAMサイトへのアクセスブロックを命じることを可能にする法的枠組みを整備する。
なお、以前の暫定規則が失効した直後には、グーグル、メタ、マイクロソフト及びスナップチャットの大手IT企業4社も共同で声明を発表し、延長合意に至らなかったことを「無責任な失敗」であると非難。EUに対しては、CSARについて早急に合意するよう強く求めていた。
恒久的なCSAM規制枠組みであるCSARについては、5度の三者協議を経ても合意には至っておらず、暫定規則では棚上げしたエンドツーエンド暗号化されたメッセージのスキャンの可否について、今後もお互いに譲れない議論が続けられる見通しである。