2013年7月に、テレフォニカ・ドイツはオランダKPNと、KPNのドイツ子会社Eプラス買収で合意した。買収価額は86億ユーロとされている。2013年12月から、欧州委員会はテレフォニカ・ドイツによるEプラスの買収が、ドイツの移動通信市場における競争環境への影響について検討を開始した。
テレフォニカ・ドイツは買収によるMNO数減少が競争環境を悪化させるという懸念を払しょくするため、以下の3つを実行するとしている。
- MVNOの短期間での参入もしくは拡大を目的として、合併前の段階から、合併後の企業のネットワーク容量の最大30%までを固定料金でMVNOに提供する。
- 周波数及び関連の資産を他の新規事業者またはMVNOに提供し、MNOおよびMVNOの新規参入および拡張を支援する。
- テレフォニカおよびEプラスと提携しているMVNOとサービスプロバイダへの2G・3Gの卸売条件を他社にも提供し、4Gの卸売も可能とする。
欧州委員会は、この3条件について検討し、以下のとおりの結論を得た。
- ネットワーク容量の提供により、ドイツのMVNOは魅力的な価格と画期的なサービスにより活性化し、ドイツの移動通信小売市場の競争環境は保たれると認定。
- 周波数資産の提供と今後の規制当局による周波数オークションにより新規の移動通信事業者が生まれることが期待されると認定。
- MVNOへの提供条件改善により、ドイツのMVNOおよびサービスプロバイダーの地位が改善し、2G、3G及び4Gの活性化が図られると認定。
以上により、欧州委員会は買収による競争環境への影響はないと2014年7月2日に認定した。
ドイツでは、MVNOとして、フリーネットほか100社が参入し、移動通信契約件数の約27%を占めている。MVNO最大手のフリーネットの契約件数は、1,519万件(2012年末現在)である。なお、テレフォニカは欧州委員会の認定の数日前に、MVNOのDrillischと、同社にネットワーク容量の20%を今後5年にわたって提供、追加で最大10%の容量を売却する権利も与えることで合意している。
ドイツのMNO間では、、3位のテレフォニカと4位のEプラスが合併すると、契約件数42百万件のドイツ最大のモバイル企業が出現するが、合併企業の3G及び4Gの整備状況は、国内第3位と低位であり、買収後に3Gおよび4Gへの投資が増加することが期待されている。
表 ドイツの移動通信事業者別契約件数等(2014年3月現在)
|
ドイツテレコム |
ボーダフォン |
テレフォニカ |
Eプラス |
契約件数¹ |
39百万件(35%) |
32百万件(28%) |
19百万件(17%) |
23百万件(20%) |
3G+4Gの契約件数比率 |
45.1% |
45.3% |
44.8% |
29.2% |
4Gの契約件数比率 |
8.9% |
10.1% |
3.7% |
0.0% |
4G人口カバー率² |
70% |
70% |
40% |
0% |
出所: 欧州委員会報道発表、Telegeographyより作成
なお、アイルランドでは、Hutchison 3がO2 Irelandを買収することを2013年6月に発表し、欧州委員会は2014年5月に承認している。Hutchison 3は、買収の際に、MVNOを支援し、そのうちの1つを新規事業者に成長させることで、競争環境を悪化させないとしており、これがドイツでの買収承認の背景となった。
欧州のモバイルサービスは成長産業の花形として、高い普及率と安価な通信料金を実現してきた。数年来の不況を経て、モバイル業界の疲弊と投資意欲の減退が顕著となってきており、欧州委員会は、モバイル規制について見直しが必要な時期が来たとしている。今後、欧州委員会は、各国のモバイル企業MNOを4社以上としていた方針を撤回し、各国3社体制も認めていくものと考えられる。
¹ かっこ内は契約件数におけるシェア
² 2010年5月にLTE用として、800MHz, 1.8GHz, 2.6GHzが割り当てられている。