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研究員レポート


情報通信ビジネスの自立的発展を目指すアフリカ地域

マルチメディア振興センター 電波利用調査部 副主席研究員 木賊 智昭

1. はじめに

 低開発地域として援助対象のイメージのみが伴いがちなアフリカであるが、情報通信分野においては、ここ数年、内外からの投資を通じて情報通信市場を成長させ、それを牽引に経済水準を向上させようとする努力が目立っている。2007年10月にルワンダで開催された「コネクト・アフリカ・サミット」(Connect Africa Summit)では、2012年までにアフリカ地域における各国首都と主要都市を対象に、また2015年までにはアフリカ地域の全村にブローバンドを拡大することを目標に、GSM協会、世界銀行、欧州連合(EU)、アフリカ開発銀行(AfDB)、ITUなど団体・機関が総額550億ドルの投資をアフリカ地域に対し実施することで合意するなど、諸外国からの投資による情報通信インフラの整備が期待されている。そのほか、サービス普及が遅れるルーラル地域において、現地コミュニティに根ざした独自の通信ビジネスを展開するなどの取組みも見られており、今後の情報通信市場の発展に注目が集まっている。


2. 移動体通信市場の急速な成長

 現在、アフリカ地域における通信サービス市場の特徴は、移動体通信サービスが著しい成長を遂げていることにある。加入者数の推移を見ると、固定電話の加入者数がほぼ横ばいであるのに対し、移動電話加入者数の前年比増加率は、2003年43.4%、2004年51.6%、2005年71.8%、2006年45.2%、2007年34.7%の推移で伸び、2007年にはアフリカ全体で2億7,000万加入を超えている。アフリカ全体の移動電話加入者が、固定・移動を合わせた全電話加入者数に占める割合いは89.3%である。低開発国やルーラル地域においては、市況情報の入手、緊急連絡、情報伝達・取得のための移動コストの節減などの手段として通信への潜在的需要は高いと言われており、移動体サービスが通信の基本手段としての役割を担っている。(図表1参照)
 制度面では、各国において競争環境の整備が進められており、これが通信市場の成長要因の一つを成している。例えば、移動電話分野における市場開放は、1994年に南アフリカ共和国など計2か国のみで実施されたが、その後、多くの国が移動電話サービスの規制緩和政策の採用を通じて競争市場を形成し、2006年現在、アフリカ55か国中44か国で競争が導入されている。この結果、民間資本の参入とネットワーク敷設への積極的投資が促されるとともに、各国の通信サービスへの潜在的需要が顕在化され、現在の移動体通信市場の成長に至っている。また、移動体事業の多国籍展開を行っているアフリカ内外の資本が各国市場に広く進出しており、例えば、MTN(南アフリカ)、Vodacom(南アフリカ)Orascom(エジプト)などの現地企業のほかOrange(フランス)、Millicom(ルクセンブルグ)、Estisalat(UEA)など外国資本が、複数国の事業免許を取得して、アフリカ地域全体のサービス市場の拡大を牽引しているのが現状である。

図表1 通信サービスの成長推移
図表1
出所:ITU統計(http://www.itu.int/ITU-D/icteye/Indicators/Indicators.aspx#

図表2 アフリカ地域において多国籍展開する事業者(2006年)
(加入者単位:1,000加入)
事業者
加入者数
投資対象国
MTN 24,300 ベニン、カメルーン、コートジボアール、コンゴ、ガーナ、ギニア、ギニアビサウ、リベリア、ナイジェリア、ルワンダ、南アフリカ共和国、スワジランド、スーダン、ウガンダ
Vadacom* 23,520 コンゴ民主共和国、レソト、モザンビーク、モーリシャス、南アフリカ共和国、タンザニア
Orascom 21,128** アルジェリア、エジプト、チュニジア、ジンバブエ
Celtel 15,270 ブルキナファソ、チャド、コンゴ、コンゴ民主共和国、ガボン、ケニア、ニジェール、ナイジェリア、マダガスカル、マラウイ、シエラレオネ、スーダン、タンザニア、ウガンダ、ザンビア)
Orange ボツワナ、カメルーン、コートジボアール、エジプト、マダガスカル、マリ、モーリシャス、レユニオン、セネガル
Millicom 12,800 チャド、コンゴ民主共和国、ガーナ、モーリシャス、セネガル、シエラレオネ、タンザニア
Etisalat*** ベニン、ブルキナファソ、中央アフリカ共和国、コートジボアール、ガボン、ニジェール、スーダン、タンザニア、コンゴ
*南アフリカTelkomと英国Vodafoneが株式の各50%所有。シリア、イエメンでも事業展開。
**アフリカ地域以外(バングラデシュ、イラク、パキスタン)での加入者を除く。
***UAE資本。アフリカ地域以外では、パキスタン、カタール、サウジアラビア、UAEで事業展開
出所:World Economic Forum, 'Competitiveness and Information and Communication Technologies (ICTs) in Africa'(http://www.weforum.org/pdf/gcr/africa/1.5.pdf


3. ルーラル地域における通信サービスの立遅れ

 移動通信サービスを中心に成長を遂げているアフリカ地域の通信市場であるが、全世界の加入者数33億加入の約8%程度を占めるに過ぎず、世界の中では大きく立ち遅れている。更に、アフリカ域内に目を向けると、経済水準の違いによる国・地域間のサービス格差、或いは都市部とルーラル地域とのサービス格差が深刻な問題となっている。例えば、相対的に経済水準の高い北部アフリカ(エジプト、リビア、チュニジア、アルジェリア、モロッコ)や南アフリカ共和国を中心とする南部アフリカ地域に、電話、インターネットなどの通信手段が集中し、他の地域での普及は低い状況にある(図表3参照)。
  また、アフリカ地域の人口の約2/3は農村等のルーラル地域に居住していると言われており、この地域へのネットワーク拡張は進んでいない。ITUによれば、サブサハラ(北部アフリカを除くサハラ以南)地域を約40万区域に分け、うち99%(39万6,000地区)が村(village)に相当するとしており、これらのうち、移動電話、固定電話、インターネット(公衆アクセス・センタを含む)の各サービスが利用できる割合を45%、2.6%、0.38%と報告している(1)。アフリカ地域における情報通信分野の成長には、ルーラル地域における通信の立ち遅れが、取り組むべき大きな課題となっている。

図表3 地域ごとのICT普及状況
  固定電話加入者
(/100人)
移動電話加入者
(/100人)
インターネット利用者
(/100人)
PC
(/100人)
ブローバンド加入者
(/1,000人)
中部アフリカ
0.27
9.74
0.8
0.77
0.03
東部アフリカ
0.87
8.17
2.37
1.09
0.14
北部アフリカ
8.98
36.82
10.17
4.17
4.22
南部アフリカ
9.43
66.49
9.87
8.24
3.09
西部アフリカ
1.19
19.24
4.16
0.95
0.19
出所:ITU, Extending Rural ICT Access in Africa
http://www.itu.int/ITU-D/connect/africa/2007/summit/pdf/s3-backgrounder.pdf


4. ルーラル地域における通信ビジネスの取組み−ビレッジフォン

 ルーラル地域における通信事情を改善する取り組みとして、政府の公的資金を用いた通信インフラ整備計画や国際機関等の資金援助が行われてきたが、アフリカ地域の広い面積を占めるルーラル地域を対象とするには資金的に限界がある。また、事業そのものの収益性が確保されていないために、政府、国際援助機関等の資金援助が終了した時点でサービス運用が立ち行かなくなる場合も見られる。これに対し、近年、各地域のコミュニティに根ざした独自の通信ビジネスを起業し、これを継続的に運営して地域の自立的発展につなげていく取組みが行われている。例えば、移動電話分野では、現地のコミュニティ・レベルで小規模の電話サービスを起業し、共用ベースによる公衆サービスを提供する事業モデル「ビレッジ・フォン」(Village Phone:VP)が注目されている。あるコミュニティ住民が、小規模金融業者(Micro-Finance Institution:MFI)から小口融資を受けて移動電話端末等の通信施設とプリペイドの通話時間を購入し、ビレッジ・フォン・オペレータ(VPO)として、既存の移動体通信事業者のネットワークへの接続サービスを、再販ベースで、エンドユーザ(コミュニティの他の住民)に提供する通信ビジネスである。VPOは、MFIから受けた融資をサービス収入により返済し(期間はおおむね1年間程度)、完済後はサービス収入を自己所得にして経済的な自立へ向かうことができる。移動体事業者は、ルーラル地域でのマーケティングや料金回収などにかかるコストを負担することはなく、各地域への基地局の設置などネットワーク整備に専念でき、通信網の拡張が更にプリペイドの通話時間の販路の拡大につながる。また、エンドユーザは、通信サービスが提供されていないために得ることのできなかった便益を得るこことなる。
  元来は、バングラデシュで最大手の移動体事業者に成長したグラミンフォン(Grameen Phone)とその設立パートナーであるグラミン銀行が進めた「ビレッジフォン・プログラム」をモデルにした事業であり、既存の通信事業者による移動電話網の拡張、VPOとなるルーラル地域の住民(女性を対象)の経済的自立支援、エンドユーザであるコミュニティ住民による移動電話の利用など関係者相互の利益を成立させるビジネスモデルとしてアフリカに移植されたものである。既に、ウガンダ、ルワンダ、ナイジェリアで実施されているほか、セネガル、コンゴ民主共和国(DRC)においても実施が検討されている。(2)


5. インターネットへの取組み

 既存の事業者にとって事業収益の確保が難しいルーラル地域が多くの部分を占めるアフリカ地域では、コミュニティベースの独自かつ持続可能なビジネスの展開が、通信市場の発展にとって重要な役割を果たすものと考えられるが、このことは、上記のVPだけでなく、インターネットやブローバンドの分野においても同様である。アフリカ地域のインターネット利用者数が5,200万と、世界の利用者数が約14億7,000万に対し全体の3.5%程度を占めるに過ぎない(3)。更に、アフリカ地域内においては、固定網のインフラ未整備、高額な通信料金、情報通信技術(ICT)のリテラシーの水準の低さを背景に、インターネットの利用者は都市部の富裕層に限られ、ルーラル地域への普及は極めて低い状況にある。
  これに対し、コミュニティ単位にインターネット・アクセスへの共用設備を置くテレセンター(Telecenter)の普及が問題解決の手段として注目されている。電話、インターネット、eメールのサービスを提供するものから、教育・訓練、遠隔医療、eコマース、電子政府サービスを提供する多目的テレセンターまで、その形態は多様であるが、コミュニティ住民にICT活用の機会を提供する場として、アフリカ地域では1990年代後半からマリ、ウガンダ、モザンビーク、タンザニア、南アフリカ共和国で、公的資金援助を受けた公共施設として導入が始まった。ただし、事業収益の脆弱性のため、事業立ち上げ後の運営維持が困難となるケースが多いと言われており、課題を残しているのが現状である。
  医療、教育、その他公共サービスを利用するための社会インフラが不足しているルーラル地域においては、それらのサービス利用機会を可能にする手段としてインターネット或いはブローバンド・サービスへの潜在的需要が高いといえるが、具体的なサービス需要は各地域により多様である。このため、テレセンターの設立・運営に際して、@コミュニティの構成員の参加による現地のサービス需要(市況情報、医療情報、教育等)を把握し、A各コミュニティのサービス需要に適った付加価値を生むビジネスを展開し、またBステークホルダー(事業運用者、投資者、経営・技術支援面の事業サポータ、通信事業者など)が緊密に協業することで、現地コミュニテイに密着した付加価値の高いサービスを提供して収益性を確保し、持続可能な運営を行い得る手法や事業モデルの確立が求められている。
  また伝送技術面ではこれまでの有線網に代わり無線通信への注目が高まっている。設備コスト、簡易性、カバレッジ、伝送速度など、費用対効果の優位性を有する無線ブローバンド・アクセス(BWA)、特にWiMAX技術の活用が期待されている。WiMAXについては、既に、南アフリカ共和国、ナイジェリア、マリ、ウガンダ、エジプトなどで、サービスが開始されているが(4)、多くの場合、国内の主要都市を対象としており、今後、Telecenter等へのアクセス網敷設の技術検討の中でルーラル地域通信への活用が期待されている。


6. 今後の展望

 都市部より距離的に遠くなるにつれ、低い人口密度、電気供給、水道、道路などの公共インフラの未整備、住民所得の低水準等により事業収益の確保が難しくなることを踏まえると、地域の特性に応じ、@都市部、収益性のある地域、Aルーラル地域における独自事業の展開、B全く事業が成立しない地域に分け、それぞれの取組みの在り方を見ることができる。(図表4参照)

図表4 各地域の特性と取組み
図表4
出所:World Bank, A RURAL ICT TOOLKIT FOR AFRICA
http://www.infodev.org/en/Document.23.aspx)を参考に作成

 @の都市部については、投資の促進とットワークの継続的な拡大のための競争環境の一層の整備が今後の課題となる。Aのアフリカ地域の多くの部分を占めるルーラル地域については、VPやテレセンターなどのコミュニティ・ベースの起業を促すため、免許・料金などの規制面で柔軟に対応しうる制度運用のほか、資金面でも事業の立ち上げに1回限りの資金援助をユニバーサル・アクセス基金(UAF)(5)や国際援助等を通じて行うなどの政策的な配慮が求められると言えよう。
  Bの全く事業が成立しない地域については、公的助成を全面的に実施することが政策的に必要となるが、上記Aに挙げた通信事業の自立的運営を促し、かつサービス不在の地域を減らすことで、限られた支援資金が事業運営に真に適わない地域に効果的に投下されてルーラル地域全体の通信事情が改善されていくことが期待されている。このため、上記の3地域それぞれ特性に応じた情報通信の発展と相互の連動を図る官民の取組みが、今後、アフリカ地域における情報通信分野の自立的発展の焦点の一つとして注目されるところである。


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(1) Telecommunication/ICT markets and trends in Africa, 2007(http://www.itu.int/ITU-D/ict/statistics/material/af_report07.pdf
(2) Grameen Foundationの'Village Phone Direct Manual'によれば、電話設置場所から5km以内に100世帯が存在すれば事業は成立可能としている。通話1回に対する支払い額は、情報発信受信のため費やした従来の移動コストを勘案し、1か月の世帯収入の2.64〜9.8%と算出している。また、ルーラル地域での基地局−端末間の距離については、端末側に簡易アンテナを設置することで伝送距離を稼ぐなどの工夫が施される。(http://www.itu.int/dms_pub/itu-d/opb/hdb/D-HDB-VPD-2007-R1-PDF-E.pdf
(3) ITU統計(http://www.itu.int/ITU-D/icteye/Indicators/Indicators.aspx#
(4) Global Mobile (May 19, 2008) ほか
(5) ユニバーサル・アクセス(UA)は、共用ベースを含み、コミュニティや一定の区域内の住民すべてが通信サービスを利用できることを目指している。なお、アフリカの幾つかの国では、UA基金制度が導入されており、ルワンダ、モザンビーク、モロッコ、マダガスカル、コートジボアールブルキナファソが事業者収益の2%、ウガンダ、ナイジェリア、ガーナが1%、南アフリカ共和国、スワジランドが1%以下を徴収している。(GSM Association, Universal Access- how mobile can bring communications to all(http://www.gsmworld.com/documents/universal_access_full_report.pdf))

(注)各国のICT概要については、ITU's ICT Eye(http://www.itu.int/ITU-D/icteye/Default.aspx#)を参照。

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