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研究員レポート


ユーザー創作コンテンツ(CGM/UCC)の課題

マルチメディア振興センター 電波利用調査部 研究員 鈴木 俊介

1. CGMと、その発達要因

 インターネットの参加型サイトや情報発信型のサービスなどにおいて、ユーザー自らが作成したデータをアップロードして、公開されているコンテンツを、CGM(Consumer Generated Media)、あるいはUCC(User Created Contents)と呼んでいる。具体的には、ブログ、MixiやMySpaceなどに代表されるソーシャルネットワークサービス(SNS)、Youtubeやニコニコ動画、Flickrなどに代表される写真や動画の共有サイト、オンライン百科事典事典であるWikipediaなどのことを指している。
  近年になってCGMが盛んになった理由は何であろうか。まず、技術的な要因が考えられる。ソフトウェア的な技術要因として、参加型サイトのプラットフォーム技術(RDF,RSS,Atomなどを含むXML関連技術)の発達があり、またコンテンツを作成するパソコンの技術として、画像や音楽や動画を作成し編集するためのソフトウェアの発達、低価格化(あるいはフリーソフトウェア化)が考えられる。ハードウェア的な技術要因としては、コンテンツがアップロードされるサーバの処理能力の向上や、動画や音楽などを作成するためのパソコンの処理能力向上と、低価格化が考えられる。
  しかしCGMが盛んになった最大の理由は、やはりインフラ的な要因、つまりブロードバンドの普及だと考えざるを得ない。ナローバンド時代には、大半のユーザーはアナログモデムによる低速な通信環境の下で、従量制課金による接続を余儀なくされていた。したがって、取り扱えるデータは必然的にテキスト中心となり、また大半のユーザーは接続時間を気にしながらアクセスをせざるを得なかった。しかし、ブロードバンドの普及は、取り扱えるデータの種類を画像、音声、動画などのリッチコンテンツに拡大した。そして定額制の常時接続環境は、ユーザーがコンテンツを鑑賞し、ダウンロードやアップロードを行うためのインフラを実現したのである。
  そして、これらの普及要因に付け加えるとするならば、より人間的な要因、つまり社会的、文化的な要因が考えられる。重要なことは「表現の場」が提供されたということである。インターネットは個人の情報発信を可能とするメディアである。これにより従来のマスメディアでは作品の発表が不可能であった、アマチュアの音楽家、写真家、イラストレーター、映像作家などが表現の場を獲得した。それに加え、人間には誰しも「他者からの承認を求める願望」がある。純粋に創作活動を楽しんでいた人々に対して発表の場が与えられ、その作品に対して、他者からのコメントやトラックバックを受けることは、アマチュア作家達の創造意欲を促進する。そしてこれらの作品を鑑賞した人々が、自分自身も作品を製作しようと思うようになり、人々のクリエイティビティが向上する。そしてネットワーク上で、様々なコラボレーションを行うことにより、人的なネットワークも形成されていくのである。


2. CGMの問題点

 以上のように、CGMはインターネット上の単なるサービスにとどまらず、社会的、文化的に大きな意義を持つものだと言えるだろう。しかし同時に、このCGMは多くの問題を抱えている。
  まず、CGMを支えているプラットフォームの最大の問題は、著作権が所属するコンテンツの不法なアップロードの問題である。数々のCGMのプラットフォームにおいては、そのサービスの使用承諾条件の項目において、他者が著作権を保有するファイルのアップロードを禁じている。しかし、実際には、これらのサービス・プラットフォームにおいては、数多くの既存メディア企業の作成した映画、テレビ番組や音楽などが数多くアップロードされている。
  もう一つの問題は、CGM作品内部の問題である。CGM作品の内容が、完全なるオリジナル作品であり、著作権が完全に製作者に属する場合は、問題は存在しない。しかし、そのオリジナル作品を他者が何らかの形で引用、改変、編集して発行した場合、著作権の問題はどのように考えるべきなのだろうか。これについては、以下の三つのケースが想定されうる。
  (1) ユーザーの作成したCGM作品を、別のユーザーが編集した場合
  (2) 既存の商業メディアの作成した著作権の所属する作品を、ユーザーが編集した場合
  (3) ユーザーの作成したCGM作品を、既存メディアが商業作品として発売する場合
  最初のケースの場合、現在の所、大きな問題とはなっていない。ユーザー同士の間で、メールやメッセージングサービスによって、再利用や編集の許可を得たり、あるいは編集を加えた作品の中に、原作者の名前(多くはハンドルネームであるが)を掲載することによって、トラブルを避けるような手段が講じられているが、これについては明確なルールが存在しているわけではない。
  二番目のケースは、「マッシュアップ」「二次創作」といった様々な名称で呼ばれている「引用、編集行為」である。編集された作品が営利目的で使用される場合には、当事者間における合意のもとで、著作権の所在を明確にするための努力が行われてきた。しかし非営利目的のCGMの場合、引用、編集によって行われる創作活動に対して、明確なルールは存在していない。とりわけ、既存の商業メディアによって作成された著作権の存在するコンテンツに対して引用、編集行為を行うことは、事実上の黙認状態となっている。
  そして、問題となることが多いのは、もっぱら3番目のケースである。この場合は、誰に著作権が所属し、著作権料を受け取る主体が誰になるのかが明確に定義されていないことに問題がある。近年においては、掲示板における書き込みや、SNSにおける日記の著作権の扱いにおいて、様々な議論がおこっている。


3. 海外における取り組み

 以上のように、現在のCGMには、数々の問題が山積しており、様々な立場から解決へのアプローチが考えられよう。まず一つ目には、参加型サービス事業者による管理強化という手段である。現在提供されている参加型サービスのほとんどにおいて、著作権所有者による申告に従って、著作権を侵害したコンテンツの削除が行われている。また管理者による監視が行われているサービスも多い。しかし、目視による監視には限界があり、次から次へとアップロードされるコンテンツ全体の監視を行うことは不可能である。現在では、フィルタリングによる選別、電子透かし技術を利用した認証、DRMによる保護など、技術的な解決方法が模索されている。
  2007年10月、米国のメディア企業、IT企業の9社(ディズニー、マイクロソフト、CBS、デイリーモーション、フォックス、マイスペース、NBC、ヴァイアコム、Veoh)は共同で、「UGC原則」(User Generated Content Principle)を発表し、UGCの健全な発展のためのガイドラインを発表した。この原則の要点は、以下のようになっている。
 ・ UGCサービス事業者は、最新のフィルタリング技術を導入する。
 ・ フィルタリング・システムは、著作権を侵害したコンテンツがアップロードされ、一般に公開される前に、これをブロックするように運用する。
 ・ フィルタリング・システムを導入する以前にアップロードされた著作権を侵害したコンテンツも、同様に削除する。
 ・ フィルタリング技術を実装する際には「フェアユース」を含む、法的要求をバランスよく満たすように協力する。
 ・ 合法コンテンツのアップロードの際、誤ってブロックされてしまった場合に備え、適切なクレーム処理手続きの作成について協力する。
 ・ 明らかに違法にコンテンツを流通させることを目的としたサイトへのリンクを識別し、削除する。
 ・ UGC原則をアップデートすることによって、合法コンテンツとリッチコンテンツのサービスを促進する。
 この原則を策定した9社の中に、最大手の動画共有サイトのYoutube、およびその親会社であるGoogleが参加していないのが印象的である。しかしYoutubeにおいても2007年よりフィルタリング・システムが試験的に運用されている。
  二つ目に考えられる解決策としては、政策レベルにおける解決である。現在のところ、CGMに対する包括的な政策を打ち出しているのは、韓国である。
  情報通信部は2007年6月、UCC(韓国ではUCCが一般的な表現である)の急速な普及に対応するため、ユーザーの責任意識や倫理意識向上を目的として「UCC利用者のための実践的ガイドライン」を発表した。ガイドラインは大きく分けて、ユーザーの10大行動原則、法律ガイドライン、健全なUCC文化のチェックリストの3部分で構成されている。
  まず、10大行動原則では、UCCのアップロードと公開行為の責任、著作権、名誉毀損などの社会的危険の最小限化などを盛り込み、ユーザーの責任意識向上を図る。法律ガイドラインでは、どのような場合が違反行為に当たるのかを認識してもらうために詳細な法律情報を提供する。チェックリストでは、UCC製作者とユーザーが、UCCを製作・公開・利用しながら自分で点検しなければならない最小限の項目をリストアップしている。


4. 自律的な問題解決へ向けて

 以上のように、まず一番目にCGMプラットフォーム事業者による問題解決、二番目に政策による問題解決の方法を見てきた。そして三番目の解決方法があるとするならば、それはユーザー自身による自律的問題解決であろう。問題の中心となっている著作権については、コンテンツ作成者自身が、その著作権のあり方を決定するという解決が最も望ましい。つまり、自らが作成した作品が、どのような方法で公開されるのか、誰に対して公開するのか、改変を認めるのか、営利目的の利用を認めるのか、といった著作権のあり方を自分自身で決定し、これを明示することが最善の解決策である。このデジタルコンテンツ全盛の時代に対応したライセンスのあり方を提案しているのがクリエィティブ・コモンズ・ライセンス(CCL)である。これはスタンフォード大学ローレンス・レッシグ教授を中心に策定された新しいライセンスである。その目的は、情報共有の際に生じる著作権や知的所有権の問題を回避することにある。現行法においては、作品の創作と同時に著作権が発生し、著作権は(譲渡しない限り)すべて著作者本人に帰属する。そして著作者に予め承諾を得ない限り、第三者が作品を公開、改変することは認められていない。つまり、二次創作やマッシュアップの前提となる、自由な作品の共有が不可能になっているのである。
  CCLは著作権法や著作権の概念を否定するものではなく、現行の著作権法の範囲内で、作品を自由に共有し、情報流通を促進させるものである。つまり全ての著作権を保持するわけでもなければ、破棄するわけでもなく、一部の著作権を保持することが大きな特徴である。CCLにおいては、作者は以下の四つの項目について採否を選択するようになっている。
  (1)表示(Attribution) その作品の利用に関しての著作者の表示を求めるか
  (2)非営利(Noncommercial) 非営利目的に限ってその作品の利用を認めるか
  (3)改変禁止(No Derivative Works)その作品をそのままの形でのみ利用を認めるか
  (4)継承(Share Alike)その作品につけられたライセンスを継承することを求めるか
著作者は、自分の作品に、これらの項目を組み合わせて表示することによって、自分の作品の使われ方を、自分自身で決定することが出来るのである。
  以上のように、CGMの問題解決方法を考察してきた。しかし、最も大切なことは、技術の問題でもなければ制度の問題ではないのではないだろうか。違法な行動や不適切な言動に対して、自律的な抑制を働かせるには、やはりネットワークコミュニティ内部の人々の意識にかかっているのではないだろうか。しかし、この意識という難問は、技術や制度の問題を超えた、はるかに長い議論を積み重ねて、時間をかけて解決していかなければならない最大の課題であろう。

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