ネット中立性
アメリカ
オバマ政権下における「ネット中立性」規則を巡る動向
米国では、2000年代中盤ごろより、インターネット上で流通するトラヒック管理について、 「ネットワーク中立性(ネット中立性)」として政策的な対応のあり方について議論が高まり、2010年12月には、 連邦通信委員会(FCC)が関連規則を策定した。同規則は、もともと、2007年にケーブルテレビ事業者であるコムキャストが、 同社が提供しているブロードバンド接続サービスにおいて、P2Pのトラヒックに制限をかけたことから、議論が活発化したものである。
オバマ政権では、ネット中立性の維持を政策として掲げている。オバマ政権下で民主党系委員が優勢となっているFCCにおいては、 ネット中立性を維持する内容の規則が2010年12月に策定された。同規則では、固定ブロードバンド・プロバイダに対して、 ブロードバンド上におけるサービスについて、ウェブ・コンテンツやアプリケーションの不当な遮断を禁じる一方、 効果的なネットワーク管理の必要性も認めるものとなっている。また、モバイル向けのブロードバンド・プロバイダに対しては、 ウェブ・コンテンツや競合する音声サービス、映像サービスへの接続を妨害してはならないと規定され、 固定ブロードバンド・プロバイダに対するよりも緩やかな規定となっている。
このネットワーク中立性に関しては、大手ブロードバンド事業者が反発しており、FCC規則策定後には、同事業者から裁判が起こされたほか、 連邦議会においてもFCCの権限に関する議論が起こり、2011年3月には下院で同規則を廃止する決議案が採択されている。 しかし、同規則の連邦議会による無効化について法案が可決されたとしても、オバマ大統領が拒否権を発動すると見られており、今後の同規則の動向が注目されている。
チリ
世界で初めてネット中立性を法制化したチリ
チリ国会は2010年7月13日、ネット中立性原則を定めた電気通信法の改正案を可決し、改正電気通信法が2010年8月26日から施行された。 チリはネット中立性原則を法制化した世界で最初の国となった。 欧州ではオランダ下院が2011年6月22日にネット中立性法案を承認している。
従来の電気通信法に、ネット中立性原則に関する3項(第24条H、I、J)が追加された。 この改正法では、ISPはユーザが利用するコンテンツ、アプリケーション、サービスを意図的にブロック、介入、差別、妨害、又は制限することを禁止している。 その一方で、有害コンテンツに対するペアレンタル・コントロールサービスの提供と、提供サービスの透明性の確保(契約内容、通信速度、サービス品質などの情報公開)などを義務付けている。
フランス
通信基本法改正により、「ネット中立性」原則が示される
仏政府は2011年8月末、電気通信分野の基本法である「郵便・電子通信法典」の改正を発表した。 同法典は、1952年制定以来、EUの通信指令や市場の変化に応じて数度の改正を受けている。 今回の改正は、2009年にEU政府が発行した一連の通信指令を反映したもので、「ネット中立性」の原則が示されている。
同法典の「ネット中立性」の特徴は、「技術中立」である。通信事業者には、その用いるネットワークの性質にかかわらず、 最大多数のエンドユーザに情報・アプリケーション及び各種サービスへのアクセスを提供することが義務付けられている。 また、各事業者がサービスの質の維持のため、通信網の飽和を避ける必要から、トラフィック制御を行う可能性がある場合、 その旨を契約条件に明記すべしとされている。
近年のモバイル・インターネット利用の急増により、フランスの移動体通信事業者の多くは、3Gサービスパッケージで、データ利用量に上限を設けている(月の利用量が1GBを超えると通信速度を低下させる等)。 仏政府によれば、これは行政機関の指導によるものではなく、政府は固定/移動ともにインターネットユーザのデータアクセスに制限を設ける意図はないという。 また、固定通信に関しては、ADSL等を介したインターネット接続サービス契約で、データ利用量に制限を設ける計画を発表した事業者は、2011年8月現在では存在していない。
韓国
モバイル・チャットアプリ大ヒットで本格化した韓国のネット中立性問題
韓国での本格的なネット中立性論議は、スマートフォン向けの無料チャット・アプリ「カカオトーク」の大ヒットにより、2011年3月から本格化した。 カカオトークは2010年前半のサービス開始以降、短期間で急成長を遂げた(2011年11月時点で3,000万ダウンロード突破。うち海外利用者割合は約2割)。 そのため、モバイル・キャリアのネットワークへの負荷が増え、キャリアによるカカオトークへのサービス制限の可能性が取りざたされた。 これに引き続き、2011年中には、国内大手キャリア3社がサムソン電子、LG電子、Apple等のスマートTVメーカーに対し、 スマートTVによるデータ・トラヒック急増に対するネットワーク利用対価を支払うよう文書で求めるという動きも起こっている。 韓国ではカカオトークをきっかけに、無線分野で起こったネット中立性問題が有線分野でも本格化する動きを見せた。
政府は、事業者間の紛争勃発を防ぐため、2011年5月に、年内にネット中立性政策をまとめる方針を発表。 これにより、2011年12月に放送通信委員会は「ネットワーク中立性及びインターネット・トラヒック管理に関するガイドライン」を発表した。 2012年1月から施行されたガイドラインには、(1)利用者の権利、(2)トラヒック管理の透明性、(3)合法コンテンツ、アプリケーション、 サービス及びネットワークに危害を加えない機器や装置の遮断禁止、(4)合法コンテンツ、アプリケーション、サービスの不合理な差別禁止、(5)合理的トラヒック管理、の基本5原則が盛り込まれた。一方、ベストエフォートのネット品質が適正水準以下に落ちない範囲内での管理型サービスの提供が認められており、管理型サービスの市場への影響は放送通信委員会が監視することとされた。ガイドライン施行による後続措置は、2012年に進められる。