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一般財団法人マルチメディア振興センターでは、ICT分野の発展に資することを目的として、ICT分野の政策・制度整備、市場開拓・拡大、技術発展、社会での利活用といった視点からテーマを設定して、調査研究を行っています。主要な研究テーマについては、研究報告書としてとりまとめています。
各報告書は、販売もしておりますので、ご希望の方はこちらにご連絡ください。
当財団の賛助会員(法人)の方には、これらの研究報告書を送付しています。

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2017.10.01

  • 最新研究
  • 高橋 幹
  • 田中 絵麻
  • 平井 智尚

欧米におけるデータ主導型サービスと消費者保護施策の動向

データ主導型社会の実現のためには、データ活用型の技術・サービス・製品の研究・開発促進施策に加えて、企業が新サービス・製品の市場投入を実施しやすい環境の整備、また、利用者がイノベーティブな新サービス・製品を安全・安心(セイフティ)に利用できる環境の整備が必要である。こうした環境整備のためには、技術開発に加えて、新しいサービスや製品の特性に合致した法制度を整備(既存制度改革と新制度整備を含む)が求められる。その意味で、利用者からみた安心・安全を確保するための方策である消費者保護施策は、新技術を活用したサービス・製品(イノベーション)の社会的受容とそれに伴う新市場の拡大や社会の高度化をもたらすと考えられる。
 以上の観点を踏まえつつ、本報告書では、欧米におけるコネクテッド・自動運転にかかる市場の動向と、米国における官民によるセイフティ(安全・安心)対策、欧州における広域的・戦略的な推進策と社会的な活用に向けた取り組みに着目して、政府による関連政策・法制度整備、基準策定のほか、民間による自主規制やガイドライン等の策定の動き、官民協力による施策も含めて、調査研究を行った。
 欧米では、自動運転技術の開発が進むなか、運転のアシスト機能が市場で普及しつつあるほか、完全自動運転の実用化が近づく中、自動車メーカーとIT企業等の連携が活発化している。また、こうした連携のもとで、自動車産業における自動車製造・販売のビジネス・モデルから、モビリティ・サービスのビジネス・モデルの構築へシフトしつつある。さらに、こうした連携においては、完全自動運転を活用したサービス展開も念頭に置かれたものとなっている。
 米国では、自動運転の公道試験や社会的活用は、州や都市レベルの取り組みが先行している。一方で、連邦レベルでも自動運転のセイフティ向上のためのガイドラインが策定されるほか、連邦法において公道試験にかかる規制緩和と安全性にかかる報告義務付の両面から、制度整備が進められている。その際、民間事業者や民間団体が策定した規格・自主規制や政府によるガイドライン等を参照する形で、官民が連携しつつ、制度構築が進められている点が米国の特徴であると思われる。
 また、欧州は、米国や北東アジアと並んで、自動運転への取り組みに注力しており、公共輸送の改善やエネルギーの効率化といった社会的課題の解決という観点からも注目を集めている。政策レベルでは、2016年4月、EU加盟国は2019年までのコネクテッド・自動運転の実用化を目標に掲げた「アムステルダム宣言」に調印し、研究開発分野では「Horizon 2020」の枠組みのもと関連のプロジェクトに多額の予算が割り当てられている。こうしたEUの政策動向は、コネクテッドカーや自動運転を通じたデータ駆動型社会の発展・実現に向けた制度整備の在り方を検討するうえで示唆を与えてくれる。
 コネクテッド・自動運転による変化は、自動車による交通がモビリティ・サービスへと変化するイノベーションであると捉えられる。また、この変化は、車の性能向上(燃費、安全性能等)といった持続的なイノベーションではなく、これまでの車の製造・販売のビジネス・モデル自体の変革も迫られる非連続なイノベーションである可能性もある。
 欧米における取り組みからは、コネクテッド・自動運転を既存の技術の延長線に位置づけるのではなく、関連する組織や企業を巻き込みつつ、新たな枠組みを構築して制度整備を進めている。日本においても、非連続なイノベーションの実用化・商用化、さらにはモビリティ・サービスを革新するためには、既存の枠組み組織や国境を横断した連携体制のもとで、民間の取り組みや規律も活用しつつ、新たな枠組みを積極的に構築することが求められていると考える。