[HTML]
H1

最新研究一覧

コンテンツ

一般財団法人マルチメディア振興センターでは、ICT分野の発展に資することを目的として、ICT分野の政策・制度整備、市場開拓・拡大、技術発展、社会での利活用といった視点からテーマを設定して、調査研究を行っています。主要な研究テーマについては、研究報告書としてとりまとめています。
各報告書は、販売もしておりますので、ご希望の方はこちらにご連絡ください。
当財団の賛助会員(法人)の方には、これらの研究報告書を送付しています。

お知らせ年度表示
掲載年選択
お知らせ表示

2016.10.01

  • 最新研究
  • 木賊 智昭

IoT時代における「モノのサービス化」に関する国際動向

 本報告書は、今後、本格的な普及が期待される「モノのインターネット」(Internet of Things:IoT)が、製造業のビジネススタイルにどのような影響を与えるかを、サービス化の観点から調査・分析し、その結果をまとめたものである。
 従来、製造業は、製品を製造し、それを販売することで収益を得ていた。これに対し、近年、製造業界では、IoT技術を使って、製品の使用量を計測し料金を請求したり、製品の稼働データを分析して、故障時期の予見や稼働効率の最適化を行うサービス型のビジネスを、事業の中心に据える企業が現れている。従来のビジネスモデルでは、製造業者にとっての価値(収益)は、工場で生まれ、ユーザーへの物販で実現するものであったが、IoTの登場により、その価値は、ユーザーへ提供されるサービスにおいて実現していると言える。本調査は、製品(モノ)をネットワークにつなぐIoTを技術的契機に、製品価値の実現を、物販からサービスに移行させるビジネス戦略の転換を「モノのサービス化」として捉え、その動向を、IoTとモノのサービス化との関係、モノのサービス化を支えるIoTの技術的要素、企業のサービス事例の面から調査している。

 第1章では、本調査の意図を確認している。調査会社のIoT市場予測から、今後、IoTの普及が進むことを確認すると共に、本調査の意図として、IoTの普及により技術環境を整えた「モノのサービス化」が、製造業における新たな趨勢となる可能性に着目して調査を行うことを確認している。

 第2章では、モノのサービス化がIoTの技術的背景を持つことで可能になっていることを、IoTの登場以前に見られた製造業のサービスとの対比を加え、明らかにしている。
 IoT以前のサービスには、製品のコモデティー化により価格競争に陥る状況を回避するために、製品とサービスを組み合わせて、製品を差別化を図る「製品の付帯サービス」などがある。例えば、製品販売後のアフターサービスやコールセンター・サービスのほか、製品の販売時に製品ラインナップから顧客のニーズに合致する製品を選定する営業サービス(例:シューズの足の測定など)などである。そのほか、主力ビジネスを、製品販売それ自体からサービスに転換させたケースもある。例えば、IBMはこの事例の一つであり、製造業者としての事業不振を原因に、1990年代から、ビジネスモデルを製品販売からユーザーにソリューションを提供して収益を得るモデルに転換している。
 これらの事例は、製造業のビジネス範囲が、製品の販売とアフターマーケットの領域まで拡張することが可能であることを示している。本来、製造業のバリューチェーン(価値連鎖)は「企画・設計→調達→製造→販売→アフターマーケット」と幅広いものであり、従来の製造業では、ビジネスの主要関心事高品質かつ価格競争力のある製品の「製造(モノづくり)」に留まっていた。上記のサービス提供の事例は、ユーザーの製品使用に関わるアフターマーケットの領域においても、ビジネス上の価値を生み出すことを示したと言える。IoTとの関連では、IoTは、アフターマーケット部分でサービス・ビジネスを行う環境を技術的に整えている。製品をネットワークにつながるIoTは、その製品を使用している間、事業者と顧客関係を継続させるものであり、アフターマーケット部分でビジネス展開するサービス化との親和性を有している。
 サービス内容について、IoTを使った製造業のサービスは、それ以前の付帯サービスと技術的に大きく異なる。IoTでは、従来のサービスでは難しかった一つ一つの製品に関する管理が可能になり、製品デバイスの稼働状況のモニター、データの分析や将来予測、製品の自動制御など、製品の使用や管理に関わる多様なサービスをユーザーに提供することが可能になった。また、製品から収集されるセンサーデータがIoTサービスが生み出す価値の源泉になっており、製造業におけるモノのサービス化を促す要因となっている。

 第3章では、モノのサービス化の技術基盤となるIoTの技術構成を確認している。
 先ず、IoTシステムの概要として、センサーデータがたどる「デバイス→ネットワーク→プラットフォーム→アプリケーション」の4つのサービスレイヤーを取り上げ、それぞれの特徴を確認している。端的に言えば、IoTを利用したサービスは、集積されたセンサーデータが、特定のサービス目的に適うようアプリケーションで処理され、更にそれがデバイスにフィードバックされて実現される。フィードバックされるIoTの機能は、データ処理の結果の「可視化」、デバイスの「制御」、データ分析による「予測」であり、本章では、それぞれのシステムの特徴を述べている。総じて、「可視化」はデバイスにおける表示や通知の指示、「制御」はデバイスのインテリジェントなパーツ(マイコン等)へのコマンド、「予測」は集積データの機械学習等のアナリティクス処理などが特徴としている。また、これら3つの機能を組み合わせて、メータリング(使用量計測)、モニタリング(状況監視)、検知(事象発生の発見)、制御(稼動調整)、判断(事象の原因の特定)、予測(事象発生の推測)などのサービスの提供が可能であることを明らかにしている。

 第4章では、サービス事例を取り上げ、製造業におけるサービス化に関する企業動向を整理している。
 製造企業が、IoTを使って提供しているサービスを「モノの機能の提供」と「モノのパフォーマンスの管理に係るサービス」の二つのタイプに分類し、各企業の動向を整理している。「モノの機能の提供」は、製品が有する機能をサービスとして提供するビジネス形態である。製品の売切りではなく、ユーザーが製品を利用した量を基準に料金が支払われる形態のビジネスモデル(pay as use又はservice as a use)である。IoT技術との関連では、製品をネットワークにつなぎ、ユーザーが製品をどれくらい使用しているかをメータリングし、その結果を「可視化」する機能を利用している。具体的には、ロールスロイス(英国)、フィリップス(オランダ)、ミシュラン(フランス)、ケーザー・コンプレッサー(ドイツ)が、このタイプのサービスを提供している。また、製品の機能の更新をネットワークを通じて実行するサービスが提供されており、米国電気自動車メーカーTesla(テスラ)社が、車両機能の高度化を、ネットワークを介したソフトウェアのアップデートにより実行しており、ユーザーは新製品を購入することなしに、新しい製品機能のみを入手している。
 「モノのパフォーマンスの管理に係るサービス」は、ユーザーの施設内で稼働している製品の稼働データを集積し、これを活用することで、提供機器の故障・不具合発生に係る自動検知、原因特定、事前予測のほか、製品稼動の効率化や最適化を図る高度サービスをユーザーに提供するタイプである。アフターマーケット領域でのビジネスであり、この領域では、従来より保守業務などが提供されていたが、IoTを使うことで、製品稼動に係るコスト削減、事業継続性の確保など、ユーザー企業の収益向上に資するサービスが提供され、ユーザー企業から対価を得ることで、サービス提供者に収益をもたらすビジネスとなっている。サービス事例として、GE(米)、キャタピラー(米国)、CLAAS(ドイツ)、ナビスター(米国)、ティッセンクルップ(ドイツ)、小松製作所(日本)など取り上げ、サービス内容を整理している。また、ミシュランなども「モノの機能の提供」のほか、「モノのパフォーマンスに係るサービス」を複合させたサービスを提供している。

第5章では、今後のIoTの普及を見据えて、製造業におけるサービス化への影響を展望している。
 現在、製造業においてIoTを活用してサービスをビジネスの中核に据える企業が現れているが、今後IoTの急速な普及が予想されるなか、サービスをどのように取り込んでいくかが、各製造業者の事業戦略上の検討課題となると考えられる。IoTの普及に伴い、データが持つ価値が大きくなる状況の中で、製造業者がサービス化にどのように関わっていくかは、IoTネットワーク上を流通するデータをどのように自己ビジネスに取り込むかに深く関わっていると言える。
 この問題は、製造業が、ICT産業との融合をどのように進めていくかという問題でもある。例えば、GEは、インダストリアル・インターネットの構築以前から、工場や商業施設の制御システムや産業用データベースの提供に注力していた。IoTの登場により、製造業とICT産業の融合が進展することになり、ICT産業を自己のビジネスに取り込むことが、製造業のビジネス戦略上重要になる。自動運転の分野では、既に、自動車メーカー各社とICT各社が開発競争に参入している。両者のエコシステムの形成の動きもみられ、他の製品に関してもICT企業とのエコシステム形成が、IoT時代における製造業のビジネス戦略の検討事項になることも予想される。
 日本では、製造メーカーが、IoTを利用し、ユーザーの企業価値を高めるサービスを提供することで新たな収益を獲得するビジネスモデルに転換した事例は、それほど多くないとの指摘もあるが、今後、IoTの時代を迎えるなか、製造業が、ICTとの融合をどのように果たしていくかが注目される。


目 次

第1章 はじめに

第2章 IoTとモノのサービス化
2-1 製造業におけるサービス化
2-2 IoTによるサービス化の特徴

第3章 モノのサービス化に関するIoTの技術構成
3-1 IoTの技術概要
3-2 モノのサービス化の基盤となるIoTの機能

第4章 IoTを活用したモノのサービス化のタイプと事例
4-1 モノの機能の提供に係るサービスと事例
4-2 モノのパフォーマンスの管理に係るサービスと事例
4-3 モノのサービス化の特徴

第5章 今後の展望


執筆担当

木賊 智昭 (電波利用調査部 副主席研究員)