[HTML]
H1

最新研究一覧

コンテンツ

一般財団法人マルチメディア振興センターでは、ICT分野の発展に資することを目的として、ICT分野の政策・制度整備、市場開拓・拡大、技術発展、社会での利活用といった視点からテーマを設定して、調査研究を行っています。主要な研究テーマについては、研究報告書としてとりまとめています。
各報告書は、販売もしておりますので、ご希望の方はこちらにご連絡ください。
当財団の賛助会員(法人)の方には、これらの研究報告書を送付しています。

お知らせ年度表示
掲載年選択
お知らせ表示

2016.10.01

  • 最新研究
  • 坂本 博史

シンガポール情報通信基本計画「iN2015」による情報通信産業への経済的影響
-シンガポールにおける情報通信市場の競争環境、同産業の成長率、波及効果、生産性に関する分析(Ⅰ)-

 本報告書では、2006年度から2015年度までシンガポールで実施された情報通信基本計画「インテリジェント・ネイション2015 (intelligent Nation 2015 : iN2015)」による経済的影響について検討した。なお、本調査は本年度及び来年度の2年間に分けて実施する計画であり、本年度は(1)情報通信産業の産業別GDPの趨勢、(2)情報通信市場の競争環境、の2点について調査を実施した。

第1章では、iN2015の概要、及びその政策的含意について展望した。iN2015の主要な実施政策は「次世代全国ブロードバンド網(The Next Gen National Broadband Network: NGNBN)」「ビジネスモデルの開発支援プログラム」「情報通信分野における人材開発プログラム」であった。中でも、上下分離された新設の光ファイバ網であるNGNBNは、情報通信産業の付加価値額、情報通信市場の競争環境の趨勢に大きく影響を与えている。また、iN2015の問題意識は、情報通信産業の大企業依存と国内企業の低生産性に向けられており、上記の施策によって、情報通信産業に構造変化をもたらすことが目標とされた。

第2章では、iN2015実施期間における情報通信産業の産業別GDPの趨勢について検討した。計画期間内において、情報通信産業では、国際的に情報通信機器の価格水準が低下を続ける現状を反映し、「情報通信機器部門」の部門別GDPが大きく減少する一方、「情報通信サービス部門」は堅調な成長を維持、両部門の産業内でのシェアが逆転するという構造変化が生じた。また、「情報通信サービス部門」内では、クラウドやASP等を含む「情報サービス」部門が、NGNBNが商用稼働した後の計画後半期(2011年~2015年)に、年平均で約34%という驚異的な成長率を示し、成長の牽引役となった。

 第3章では、iN2015実施期間における固定ブロードバンド市場の市場環境について検討した。固定ブロードバンド市場の市場集中度は、上下分離を伴うNGNBNの商用サービス開始により次第に減少している。しかし、固定ブロードバンド市場が制度的に「完全競争」化したことにより、通信事業者各社は自社サービスの料金をリバランシングする余地を失い、結果として、従来は固定と比較して競争的であった移動体通信市場の市場集中度が固定ブロードバンドと同等の水準に収斂し、通信市場全体が硬直化する傾向が生じた。

 以上より、本年度調査からの知見は概して、(1)NGNBNの商用サービス開始は、情報通信産業をサービス主導の産業へと構造変化させ、クラウド等の「情報サービス」部門の急激な成長を招来したことで同産業の成長に大きく寄与したこと、(2)NGNBNの商用サービス開始は、固定ブロードバンド市場を競争的なものとしたが、逆に、移動体通信市場を寡占化する結果を招き、通信市場全体が硬直する趨勢が生じていること、の2点である。

 なお、次年度は、本年度調査からの知見も含み、以下の項目を調査する予定である。
(1)情報通信産業による経済波及効果
(2)情報通信産業による雇用誘発効果
(3)情報通信産業における労働生産性
これらにより、iN2015による経済的影響を総合的に検討することが本調査全体の目的である。また、次年度には、2015年8月に始動した現行の情報通信基本計画「インフォコム・メディア2025(Infocomm Media 2025)」を概説し、本調査の結果に照らして、同計画の政策的方向性についても検討する予定である。

目次

はじめに
第1章 情報通信基本計画「iN2015」の政策的含意
1-1 情報通信基本計画「iN2015」
1-2 シンガポール情報通信産業の産業構造
第2章 情報通信産業の国内生産額及び成長率
2-1 情報通信産業の範囲
2-2 国内総生産
2-3 情報通信産業各部門
第3章 通信市場の競争環境:次世代全国ブロードバンド網の影響
3-1 固定ブロードバンドの市場規模
3-2 固定ブロードバンドの事業者別シェア
3-3 隣接市場
2-4 通信市場の競争環境
結語、及び次年度調査研究の展望
参考文献
データ

執筆者

坂本 博史(情報通信研究部 研究員)