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一般財団法人マルチメディア振興センターでは、ICT分野の発展に資することを目的として、ICT分野の政策・制度整備、市場開拓・拡大、技術発展、社会での利活用といった視点からテーマを設定して、調査研究を行っています。主要な研究テーマについては、研究報告書としてとりまとめています。
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2016.10.01

  • 最新研究
  • 裘 春暉
  • 三澤 かおり

中韓におけるICT事業者によるコーポレート・ベンチャリングの取組み動向

 コーポレート・ベンチャリング(CV)とは、大手企業が外部ベンチャー(異業種を含む)を取り込むことにより、新しい事業を創出することを指す。
IoTやビッグデータといった新興領域が続出するICT分野において、トレンドの移り変りの激しいビジネス環境への対応として、大手ICT事業者が自らのリソースに基づく新サービスの開発にとどまらず、CVを活用する場面が多くなってきている。本研究では、ICT分野におけるCVの取組み動向について、中韓の事例及び両国の関連政策・市場動向を中心に調査を行った。
まず、第Ⅰ章では、中韓におけるCV取組みの背景について紹介した。中国におけるスマートフォンの利用は携帯電話利用者3人に2人であり、韓国の場合は、携帯電話加入者に占めるスマートフォン契約割合は8割超と、両国ともに高い水準にある。スマートフォン化の進展につれ、通信事業者にとって従来の通信ビジネスに手詰まり感があったことも両国の共通事項である。第Ⅰ章ではデータを用いて、このようなビジネス環境の変化があったことを、両国の通信事業者大手各社が積極的にCVを活用した背景として検証した。
また中国の場合、スマートフォンの普及に伴い、BATと呼ばれる、百度(Baidu)、アリババ(Alibaba)、テンセント(Tencent)の3社の事業発展に追い風となった。巨大化したBATがそれぞれの既存の事業領域を超え、他の事業分野へ参入する手段として、CVを活用しているのが中国の特徴とも言える。
続く第Ⅱ章では、中国におけるCV最新動向と関連政策について調べることにした。最新動向として、中国の場合、通信事業者大手3社に加えて、CV分野においても顕著な取組みが見られるBATも取りあげることにした。通信事業者3社が国有企業であるがゆえに、国有資産価値の評価が厳しく評価される立場にあるため、リスクの伴う対外的なCVには慎重な姿勢を崩していないが、社内ベンチャーの育成には注力している。それでも現段階では、成功した事例があまり見られない。対照的となるのは、アリババが強みのある電子商取引事業に加え、クラウドサービスやモバイル・メディアコンテンツの提供といった新サービスを短期間で確立させる手段として、ベンチャーの完全子会社化、社内ベンチャー育成、大手他社との共同出資による事業の立ち上げなど、CVを活用している状況が確認された。
2010年以降起業ブームが続く中国では、大手ICT事業者によるベンチャー支援を政策的に後押ししている。これにより、M&A以外の連携方法も見られるようになってきた。
これに対して、韓国では前の李明博政権期から、中小企業支援策強化の一環として、大企業を政策的に絡ませている。現政権下では成長戦略の重要政策課題として、大企業が積極的に協力する形のベンチャー育成・創業支援策が進められてきた。特に、2014年からは、地域経済活性化につながる大企業と中小企業の連携を進める新たな政策取組みとして、18か所の地域に「創造経済革新センター」が構築された。CVを積極的に進める大企業の事例として、主要通信事業者3社の状況を調査した。スタートアップ育成に対するスタンスや政策との連携については事業者ごとに違いも見られた。関連内容は第Ⅲ章で詳細にまとめている。なお、2016年秋以降の政局混乱の影響で、朴槿恵政権が成長戦略の目玉として進めてきた創造経済革新センターの今後については現在不透明な状況となっている。
最終章の第Ⅳ章では、これまでの内容を踏まえて、中韓両国のCVの取組み状況を比較した。共通点は、両国政府による政策の後押しである。更に、政策には、明確な目標に加え、責任の所在も明確にされることで、実効性が担保される形となっている。例えば、韓国では、大手企業の中小企業との協業に向けた取組み状況が評価の対象とされている。
また、両国の政策では、大手企業に対してCVの実施を推奨しているだけではなく、その実効性を確保するために、政府主導による起業促進ハブの設置も進められている。その結果、ハブにおいては、多くのベンチャー企業が集まり、情報の共有や大手企業との連携も促進されることになる。 
 なお、大手通信事業者とベンチャー企業との連携のあり方について、中国及び韓国との間では、具体的な取組み手段等での差異があるものの、顕著な違いは見られなかった。例えば、ベンチャー企業に対するメンタリング、資金、技術サポートといった側面からの支援に当たって、程度の差があるが、特段異なる点はない。また、筆者らが事前に調査した日本大手各社のケースも、この取組みに関する大きな違いがないと言えよう。なお、日中韓3国のうち、韓国が最も組織的にベンチャーの海外展開に力を入れている印象である。
 中韓の場合は、政府による政策の後押しがあるがゆえに、大手各社がそれに応える形で取組み始めて、一定の成果が現れたとの捉え方もできる。むろん、両国におけるこのような取組みがまだ始まったばかりで、現時点での総括は時期尚早でもあるため、今後の動向に引き続き注目していきたい。

目 次

序章
1 問題意識
2 日本の現状

第Ⅰ章 中韓におけるコーポレート・ベンチャリング取組みの背景
Ⅰ-1 中国におけるコーポレート・ベンチャリング取組みの背景について
Ⅰ-2 韓国におけるコーポレート・ベンチャリング取組みの背景について

第Ⅱ章 中国におけるコーポレート・ベンチャリングの取組み動向
Ⅱ-1 動き出し始めた通信事業者のコーポレート・ベンチャリングに向けた取組み
Ⅱ-2 コーポレート・ベンチャリングにつなぐ起業促進政策

第Ⅲ章 韓国におけるコーポレート・ベンチャリングの取組み動向
Ⅲ-1 コーポレート・ベンチャリングを促進する中小企業支援政策
Ⅲ-2 大手通信事業者3社のコーポレート・ベンチャリングに向けた取組み

第Ⅳ章 中韓のコーポレート・ベンチャリング取組みから見た新サービス開発の方向性
Ⅳ-1 中国
Ⅳ-2 韓国
Ⅳ-3 中韓の比較

執筆者

裘 春暉 情報通信研究部 副主席研究員  中国関連内容

三澤 かおり 情報通信研究部 主席研究員 韓国及び日本関連内容